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第12話 最高傑作

――第三試合。


 会場に、ひときわ大きな歓声が響いていた。


「出てきたぞ!」


「グレンさんだ!」


「さすがのトリックも応えるんじゃないか?」


 舞台へ上がってきたのは、一人の男子生徒。


 長身で、鍛えられた身体。


 右手には黒い杖。


 落ち着いた表情をしている。


「……」


 俺は向かい側に立つ。


 グレン・ウォーター。


 一年生最強の水属性魔術師らしい。


「貴様」


 グレンが口を開く。


「トリック・ワイヤーだったな」


「はい」


「試合は見た」


「……ありがとうございます」


「面白い魔法だった」


 グレンは杖を構える。


「だが、俺には通用しない」


「…………」


 会場が静かになる。


 グレンの周囲に魔力が集まっていく。


「手加減はしない」


「……はい」


 俺も構える。


 心臓が速くなる。


(怖い……)


 相手の魔力が、明らかに今までとは違う。


 でも。


(……勝つんだ)


 俺には、勝たなきゃいけない理由がある。


 審判が手を上げた。


「――開始!」


 ドンッ!


 グレンが一瞬で距離を詰めた。


 速い。


 俺は横へ飛ぶ。


 直後。


 俺がいた場所を水砲が通過した。


「――っ!」


 ドォン!


 地面が爆発する。


(速すぎる!)


 俺は走る。


 グレンは追ってくる。


「逃がさん!」


「……!」


 右。


 左。


 後ろ。


 どこへ逃げても魔法が飛んでくる。


「――《氷槍(アイシクルランス)》!」


 ヒュッ!


 氷の槍。


 俺は辛うじて避ける。


 頬をかすめた。


「…………」


 冷や汗。


(まずい……本当に強い)


 グレンは笑っていた。


「どうした?」


「……」


「怖気づいたか?」


 俺は答えない。


 まだ。


 まだ使わない。


 相手の動きを見る。


 魔法の発動。


 杖の向き。


 足の位置。


 攻撃の癖。


 手品師として、俺が見てきたもの。


 視線。


 呼吸。


 動き。


 すべてを観察する。


「――終わりだ!」


 グレンが踏み込む。


 俺は一歩下がる。


 そして――


 小さな金属球を投げた。


 カラン。


「……?」


 グレンが見る。


 その瞬間。


 白い煙が広がった。


「また煙か!」


 グレンが魔法を放つ。


「――《暴風雨(ストーム)》!」


 ゴォォォン!!


 煙が吹き飛ぶ。


「……そこだ!」


 グレンが振り返る。


 しかし。


 誰もいない。


「なに……?」


 観客がざわめく。


「消えた!?」


「転移魔法か!?」


「いや、転移なら魔力反応が――」


「どこに行った!?」


 グレンが周囲を見る。


 そして。


「――上か!?」


 顔を上げる。


 だが。


 そこにもいない。


「……?」


 その時。


「グレンさん」


 背後から声。


「!」


 振り返る。


 俺が立っていた。


「こっちです」


「いつの間に……!」


 グレンが攻撃する。


 俺は後ろへ跳ぶ。


 そして――


 指を鳴らす。


 パチン。


 小さな炎が灯った。


「火属性……?」


 次の瞬間。


 炎が一気に巨大化する。


 ゴォォォォッ!!


 グレンが防御魔法を展開する。


「――《水壁(ウォーターウォール)》!」


 ドンッ!


 水の壁がせり上がる。


 炎がぶつかる。


「この程度――!」


 グレンが笑う。


 だが。


「……?」


 炎の中から。


 大量の紙吹雪が舞い上がった。


「なっ……!?」


 観客席から歓声。


「なんだ!?」


「炎が紙に変わった!?」


 俺はその隙に、舞台の反対側へ移動する。


 そして。


「――まだ終わりじゃない」


 指を鳴らす。


 パチン。


 今度は風。


 ゴォッ!


 大量の紙吹雪が空中へ舞い上がる。


 グレンの視界を覆う。


「くっ……!」


 その中で。


 俺は一枚のカードを投げた。


 ヒュッ。


 カードが空中を飛ぶ。


 グレンの目の前で止まった。


「……?」


 カードが――


 燃えた。


 赤い炎になる。


 その炎が。


 巨大な魔法陣へと変化した。


「――何だ、これは!?」


 ドォン!!


 グレンの足元から炎が噴き上がる。


「ぐっ……!」


 グレンが飛び退く。


 しかし。


 その先には――


 俺。


「…………」


 俺は静かに右手を差し出す。


「ご覧ください」


 会場が静まり返る。


 俺は指を鳴らした。


 パチン。


 炎が消える。


 同時に。


 俺の手の中に――


 綺麗な花束が現れた。


「……?」


 グレンが目を見開く。


 俺は花を吹く。


 ふーーーっ。


 花びらが舞う。


 その花びらが――


 無数の光へ変わった。


「…………」


 観客席が静まり返る。


「…………」


 誰も声を出せない。


 そして。


 光が一斉に爆発した。


 ドォォォォン!!


 眩い光。


 火。


 水。


 風。


 土。


 四つの現象が同時に舞台を包み込む。


「うおおおおおおお!!」


 会場が爆発したような歓声に包まれた。


「何だ今の!?」


「四属性同時!?」


「なんだよあのでっかい魔法陣!?」


「一年生があんな魔法を!?」


 そして――

 

 煙が晴れる。


 グレンは。


 舞台の外に立っていた。


「…………」


 審判が確認する。


 そして。


「勝者――」


 一瞬、間を置いて。


「トリック・ワイヤー!!」


 会場が揺れた。


 俺は立ったまま。


「…………」


 内心では。


(うまくいった……!)


 大喜びだった。


 俺は静かに頭を下げた。


「ありがとうございました」


 その瞬間。


「トリックーーー!!」


 レオンの声が響く。


「すげえええええ!!」


 俺は少しだけ笑った。


 観客席。


 アリシアは立ち上がっていた。


「…………」


 目を見開いている。


「すごい……」


 あの魔法。


 自分にはできない。


「……どうやっているの?」


 アリシアは呟いた。


 悔しい。


 悔しいのに。


 胸が高鳴っている。


「……負けたくない」


 彼女は拳を握った。


「絶対に」


 その隣。


 ルシアンは完全に固まっていた。


「…………」


 手帳に何も書けない。


 今日の現象。


 炎。

 

 水。


 風。


 光。


 煙。


 消失。


 出現。


 それらすべてが、あまりにも凄まじかった。


「……分からない」


 ルシアンの口から、そんな言葉が出た。


「何一つ……分からない」





 そして控え室。


「…………」


 俺は椅子に座る。


 数秒。


「…………」


 誰もいないことを確認する。


「……よっしゃあああ!!」


 俺は拳を高く突き上げた。


 勝った。


「最高……!」


 思わず笑ってしまう。


 そして鞄を開く。


 中には――


 まだ使っていない道具がいくつも残っている。


「……まだ、これだけある」


 俺はニヤリと笑った。


「次もいける」





 会場の掲示板には、新しい結果が表示されていた。


 一年生ベスト4進出者


 トリック・ワイヤー


 アリシア・グランベル


 ルシアン・ヴァルガス


 そして――


「…………」


 次の対戦相手を見て、俺は少し息を呑んだ。


 ――レオン・ハート

好評だったら更新早めます

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