第10話 第一試合
――鐘が鳴った。
学院中に響き渡る、試合開始の鐘。
観客席から歓声が上がる。
「始まったぞ!」
「楽しみ!」
「誰が優勝するんだろうな!?」
俺は控え室で、その声を聞いていた。
「…………」
緊張する。
昨日までの授業とは違う。
今日は、ものすごくたくさんの人に見られる。
俺の魔法を。
つまり――
(……絶対に失敗できない)
手品がバレるわけにはいかない。
仕掛けが見つかるわけにもいかない。
そして何より。
(勝たないと……)
母さんのために。
「トリック・ワイヤー!」
扉が開いた。
「出番だぞ!」
係の生徒だった。
「……はい」
俺は立ち上がった。
一年生会場中央。
巨大な円形の舞台。
観客席には、数百人の生徒や一般客。
教師たちもいる。
そして。
「トリックー!」
レオンが観客席から叫んでいた。
「頑張れー!」
「……」
思わず笑ってしまう。
その隣にはアリシア。
腕を組んで、真剣な顔でこちらを見ている。
「…………」
そのさらに隣。
ルシアンは手帳を開いていた。
(……見られてるな)
俺は少しだけ緊張した。
今日の相手は――
「第一試合!」
司会役の教師が叫ぶ。
「トリック・ワイヤー対――」
向かい側から、一人の男子生徒が歩いてくる。
「ガレス・フォード!」
大柄な少年だった。
両手に分厚い手袋をつけている。
「よろしくな!」
「よろしくお願いします」
俺が頭を下げる。
ガレスはニヤリと笑った。
「決闘、見てたぜ」
「でもな」
拳を握る。
「俺にあの手は通じない!」
俺は少し驚いた。
「俺は近接戦闘型だからな!」
ガレスが地面を蹴った。
「いくぞ!」
速い。
アリシアとはまた違う。
身体能力強化で一気に距離を詰めてくる。
「――っ!」
拳が飛んできた。
俺は避ける。
ドン!
地面が割れた。
(……強い!)
ガレスが笑う。
「逃げてるだけじゃ勝てねえぞ!」
「…………」
確かに。
この相手にあの時と同じ手は通用しない。
だったら。
俺は右手を上げる。
「――いくよ」
「何?」
俺は指を鳴らした。
パチン。
足元から――
煙が噴き出した。
「またそれか!」
ガレスが煙の中へ突っ込む。
「そんなもん――!」
だが。
「…………?」
拳が空を切った。
「どこだ!?」
煙の中から俺の声がする。
「こっちだよ」
「!」
背後。
ガレスが振り返る。
だが――
誰もいない。
「なっ……!」
次の瞬間。
俺は反対側から現れた。
「ここ」
「いつの間に!?」
観客が騒ぎ始める。
「また消えたぞ!」
「転移魔法か!?」
「いや、幻影魔法じゃないか!?」
俺は走る。
ガレスが追ってくる。
「逃がすか!」
拳。
回避。
蹴り。
回避。
距離を取る。
(……近づかれると危ない)
なら。
ここからは――
少し派手にいこう。
俺は懐から小さな金属球を取り出した。
「何?」
「…………」
俺は無言で投げる。
金属球が地面に落ちる。
カン。
「そんなもので――」
ガレスが踏み込んだ瞬間。
ドンッ!!
爆風が広がった。
「うわっ!?」
ガレスの視界が遮られる。
俺は風の中で位置を変える。
そして。
指を鳴らす。
パチン。
炎が走った。
「なっ!?」
ガレスの周囲を炎の壁が取り囲む。
逃げ道は――ひとつ。
そこへ。
「チェックメイトだ」
俺が手をかざす。
ゴォッ!!
強烈な水砲が吹き抜ける。
ガレスの身体が舞台の外へ押し出される。
「うわああああっ!」
ドサッ!
場外。
一瞬の沈黙。
そして。
「勝者――!」
司会が叫ぶ。
「トリック・ワイヤー!」
会場が沸いた。
「すげえ!」
「なんだ今の!」
「多属性を同時に使ったぞ!」
「しかも無詠唱!」
俺は小さく息を吐いた。
(……成功した)
良かった。
そして。
観客席。
「…………」
アリシアは目を輝かせていた。
「やっぱり……」
拳を握る。
「……面白い」
その隣。
レオンは大興奮。
「すげええええ!」
そしてルシアンは――
「…………」
手帳に何かを書き込んでいた。
「煙……光……炎……風……」
顔が真剣だ。
「実に……実に面白いぞトリック・ワイヤー」
彼は呟く。
第一試合が終わった。
俺は控え室へ戻る。
「…………」
椅子に座る。
少しだけ手が震えている。
「怖かった……」
ガレスの拳。
本当に怖かった。
でも。
勝った。
これで一歩前進。
……母さん。
「……よし」
その時。
係の生徒が入ってきた。
「トリック・ワイヤー」
「はい」
「次の試合も期待している」
「え?」
係の生徒は笑う。
「君、注目されてるぞ」
「…………」
嫌な予感がした。
「観客、さっきより増えてきたんだ」
「ええ……」
「みんな君の魔法を見たがってる」
「…………」
俺は天井を見上げた。
(目立ちすぎるのは危険なのに……)
しかし。
同時に。
胸の奥では――
少しだけ。
ワクワクしていた。
手品師として。
これだけ大勢の観客を前にして。
自分の技術を披露できる。
「……次も」
俺は立ち上がった。
「絶対に勝とう」
そして会場では。
次の試合のカードが発表される。
司会が叫ぶ。
「アリシア・グランベル――!」
歓声。
「対するは――!」
アリシアが杖を構える。
「…………」
彼女の目は真っ直ぐ前を向いていた。
好評だったら更新早めます




