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風
名前もなく
ただ通り過ぎてゆく
それでも、風は確かにいた
その風はどこから来たのか
次はどこへ行くのか
それは誰もわからない
たぶん、あの風もわからない
次を決めてない
ただ、それだけだ
草が揺れたことが証拠で
髪が乱れたことが証拠で
頬が少し冷えたことが証拠だ
誰かの声を運んで
誰かの涙を乾かして
風はそのことを覚えていない
覚えていないから
また次の場所へ行ける
それが風の、やさしさかもしれない
触れたものすべてに
少しだけ力を渡して
跡も残さず、消えてゆく
それでいい、と
木の葉がひとつ
静かに落ちた




