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第七話 夢現な友情

「デビルハンターさん!」


「黙って走れ、舌噛むぞ!」


「あっあの」


「口閉じろ」


 逃げ足では綾より優位性を持てることに、幾ばくかの恥じらいを覚えつつ、逃げ惑う。


 動物に模してる魔獣と違って、様々な取り組みに積極的ながら失敗した異形だからか、


「このまま引き剥がすぞ」


 そう足は早くない。

 余程のイレギュラーがない限り。


 本当は外観を損なうだけの、隠れた心安らぎの場という期待をものの見事に裏切られ、


「絶対、躓(つまず)くんじゃねぇぞ!」


 老朽化に伴う、穴場の心霊スポットにされまったっぽい、ひでぇ荒らされようだった。


 クソッタレな観光客め、呪われてしまえ。


 一目で危ないって散見できる――コンクリやら窓ガラスの残骸は華麗にかわしていく。


「名前、聞いても!?」


「言ってる場合か!」


「おい、後ろ!」


 だが、背後の警戒も怠らず、一瞥すると、悪魔のヤロウが空き缶を転がしてきやがった。


 思わぬ飛び道具に振り返ってからの回避。

その一手の遅れが足元を掬い――倒れゆく。


「っ!」


 疎かとは呼べぬ理不尽な奇襲を喰らった。


 でも、今の一連の行動にオレに非はない。

いや、ずっと。何もかもが。だって、でもっ。


「デビルハンターさん!」


 迷えば……。


 見下ろす姿を目に焼き付けてから第一歩、踏み出したのはきっとヤツへの同情だった。


 己が刀を手に。


 限りなく力強く鍔の音鳴る柄を握りしめ、流麗に、今まで磨き上げた刃を鞘から抜く。


 抜刀。


 まだ、動きに乱れが生じているのか、一手の差に乗じた殴打が頭上から繰り出される。


 頭が落ちたかと疑うほどに重く鈍く響く。

筋肉や骨では耐えられない、脳に走る痛み。

 

 今、視線を落とし、初めて知る。武者震いではなく、恐怖に揺さぶられた足の震えを。


 いつぶりだ。


 痛みを感じるのなんて、

 恐怖で震えるなんて、


「痛えよ、バカがっ!!」


 誰かのために、戦うのなんて。


 続く第二撃目より一瞬、早く。

 大雑把な一太刀は、ヤツの首を落とした。


 それでも怠惰なアドレナリンのおかげで、せっかくの初勝利の喜びは味わえなかった。


 誰かを救う為の場所で生命の奪い合いか。


「助かりました」


「大丈夫か」


 初めて差し伸べた手を、脈打つ鼓動が確かに走っている、その掌が掴み取ってくれた。


「黒瀬だ、黒瀬異綺」


「黒瀬さん……。ほんとうに助かりました」


「言ってなかったんだが、まぁうん。正直、コレを本気で振ったのなんてだいぶ前だぞ」


「はは」


「あれだ、修学旅行で買った木刀以来だわ」


「へぇ、そうなんですね」


 シケた共感が皮肉にも昂る心情を我に返し、綾の逸らされた視線がなにかを拾った。


「危ない!」


 たぶんそれもそれでよくない突き飛ばされ方をし、受け身に全集中を割いたとき――、


 綾は、悪魔と相対していた。


 直視。


 鋭く光り輝く眼差しがぶつかり合い、

 刹那の攻防が、互いの急所に牙を向く。


 髪の数本が宙を舞う綾の手刀が胸を貫く。


 まるで、さっきのがお遊戯みたいだ。


「ッ――!」

その睨みは変わることなくオレにも刺さる。


「オマエの異能、凄えな」


「え、あっ、はい」


「助けられたな。ま、これで貸しは無しな」


 立ちあがんのに手こずってるオレに、戸惑いつつも血に塗れた手のひらを差し出した。


 オレはそれを、ありがたく受け取った。


「はい」


 その後は、力量の差を知った悪魔どもが尻尾巻いて逃げてくれたのか、順調に進んでいた。


 その道半ばに、


 回路がショートしたとばかり思っていたが、最悪な記憶が頭の中を駆け巡っていた。


 なんで苦しくなるのか、ずっとわからなかったけど、そうか、オレはココに住んでいて、


「……」


 大きな罪を犯した。


「もし、オレが嘘ついてたらどうする?」


「ソレがどんな嘘でも、きっと驚きませんよ」


「……?」


「だって、オレはアナタを信じてますから」

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