第五話 老いかけ、追い抜かれ――
次第にはっきりくっきりと浮かび上がってくるシルエットから見るに想像していたが、
「誰かァ」
多方面に救いを求めるのは仔猫さながら、空腹や孤独感から来るモノでない事を祈り、
「デビルハンターだ」
振り向きざま、隙まみれな全身をチラッと舐め回すように一瞥しつつ、肩に手を置く。
「先ずは落ち着いて」
中坊にしちゃ小生意気な髪型以上に――。
「……」
釘付けとなった、もう片方の空っぽな手とは異なる校章の第二ボタンから目を逸らし、
「何があったのか話してくれ」
俺は震えてやまない眼に視線を合わせた。
「た、助けてください。っネ姉ちゃんをッ」
目と鼻の先まで迫り来るも、関係も問題の理解度も進行速度がうさぎとカメなために、
「経緯を教えてくれ」
そんな言葉とは裏腹に、慌てぶりから見ても厄介すぎる案件から子ども向けの笑顔も作り忘れて、思わず数歩と後ずさってしまう。
ったく、ボーナス出んだろうな。
「さっきーー」
お互いに、冷や汗をだくだくと流しながら言い淀みが出るほどに狼狽える本題に入る。
その最中にも、
離さんといわんばかりに服にしがみつかれ、ヤロウの吐息混じりの咆哮を浴び続けた。
「んで、謎の男に拐われたオマエの姉ちゃんは、あの森ン奥の廃病院に囚われていると」
「はい」
オレの巡回進路とは逆方向。ソコは、俺や相川さんらが担当している区では無かった。
「自己紹介、もーいっかい頼めるか」
「八朔日綾です」
参ったね、こりゃ。
他の管轄の立ち入りは緊急時であっても、申請諸々が無ェと許可されてないんだよな。
こんな子どもの命が懸かった一大事でも、一枚の書類に判を押さなくてはならない。
今聞いても、本当に《《クソ》》みたいな法律だ。
「どうしたんですか?」
「いンや、何でもない。とりあえず向かうぞ」
スマホで手早く、タクシーにコールをと。
「なに、してるんですか」
「だから、呼んでんだよ」
「この辺では、誰も来てくれませんよ」
「え?」
「|現在地《悪魔が頻繁に出没する地域》では公共交通機関はもちろん、民間でもまともに相手してくれないんです」
ご丁寧な説明をどうも。
「じゃあ、走るか」
「はい」
徒歩で数十分くらい、全力疾走で一桁台。自慢じゃないが、足の速さなら自信がある。
バテてなけりゃ、
ご自慢の逃げ足の速さでどうとでもなる。
C級悪魔の巣窟と想定して、知性の欠如から鑑みても十と群れちゃえば、囲まれ詰み。
最悪、単騎で斥候を務めりゃいい。
そんで、後は……。
「いけるな?」
「はい!」
綾のやる気満々の準備運動に乗じ、ポッケの中から密かに本部様に救難信号を送った。
下手な詳細は足止めを食う恐れを控え、誤魔化しが効く程度に緊張の度合いを盛って。
「あのッ」
備えの完了は、怒号によって告げられた。
「なんだ」
「早く、行きましょう」
「あぁ」
学生時代から唯一の特技のお披露目、初速で足手纏いを撒いてやろうと大地を蹴った。
だが、オレより遥かに矮躯が駆け抜ける。
「えっ」
時同じくして、脳裏を駆け抜けていく疑問が交錯するも、その猶予を与えるのも許さず、
「ッッ!!」
影が見えなくなる前に背に食らいついた。それは喋ることができないほどに。
「少しスピード、上げましょう」
悠然と、並ぶのに必死なオレを切り離し、負けじと表せない痛みを堪え、先を急いだ。
大雑把にして辻褄の合わぬ経緯を忘れて。




