6話 戦闘試験 前編
ミラたちクラスメイトと一緒に階段を降りて第二訓練場へと向かう。
「ねえノア、ちょっと広すぎない?校内にいろんな施設があるって話は聞いてたけど……想像以上だね。」
「うん……入学する前にパンフレットとかは見たけど、そこには載ってなかったのもあるよね、ほら、アレとか。」
皆と一緒に、辺りをキョロキョロしながら歩いていく。
「ヴォルドーが学園に来てから半強制的に建造させられた施設も多くあります。最新の魔法実験施設などもですね。もともとエルピスは高度な施設を多く保有していましたが、ヴォルドーの指示で施設の水準がさらに跳ね上がりました。いったいどこからそんな予算や器具が出てくるのでしょうか?まあ、外界と隔絶された私たちには知るよしもないですね……。これについて考えるのは、学園長が殺されてからもうやめましたので。」
セレナ先生が軽く説明をしてくれる。さすがエルピスの教師といったところか、この環境に適応している。
「私だってこの状況を決して好ましく思っているわけではありません。ですが今私たちに出来ることは教師としての仕事を全うすることだけですから。」
「そうですよね……。」
「最新の魔法実験施設……。」
フィンと名乗っていた男子が魔法という言葉に反応して目を輝かせている。
「フィンくん……だよね?自己紹介のとき魔法が好きって言ってたけど、私も魔法、好きだよ。あ、でもフィンくんみたいに専門的な知識とかは全然ないんだけど。」
「っ……!あ、あ、名前覚えてくれたんだ……。嬉しいな。そのっ……」
「だ、大丈夫……?」
「ご、ごめん。さっきは皆に向けて話してたから大丈夫だったんだけど、その……面と向かって女の子と話すのが苦手で……。」
フィンが顔を真っ赤にして目を逸らす。
「僕昔から体が弱くてさ。だから家でずっと好きな魔法の研究をしてたんだ。そうなったら必然的に人と関わる機会が減っちゃって……。研究もほとんど個人でやってたから。」
「へ〜、そうなんだね!」
横からひょこっとミラが顔を挟む。フィンがビクッとしてさらに目をそらす。
「ミラ、あんまり驚かせちゃだめだよ。フィンくん、ごめんね。」
「い、いや、そんなことないよ!僕こそごめん、こんなに話しかけてくれてるのに……。」
「これから友達になってけばいいよ!よろしくね、フィンくん!」
ミラがフィンの手を取り腕をブンブン振って握手する。フィンの顔は湯気が出そうなぐらい赤くなっていてされるがままだ。少しは仲良くなれたかな。
クラスメイト一人と仲を深めることができたところで皆が足を止めた。目線の先には「第二訓練場」の文字。話しているうちに到着したようだ。
「ここが第二訓練場……。」
セレナ先生が大きなドアを開けると他のクラスの人たちはすでに到着しているらしく大勢がざわついていた。ここ第二訓練場は校舎から少し離れた屋外に位置する施設。今見えるだけでも魔法の練習用の的、おそらく模擬戦などを行うためのフィールドなどが姿を見せていた。そして一番広いフィールドの中心には明らかにこの場に似つかわしくない仮面の男が椅子に座って紅茶を飲んでいる。言わずもがな、ヴォルドーである。誰も近づこうとはせずクラスで固まって一定の距離を保っている。
「あれどこから飲んでるんだろう……?」
「ミラ、多分そこじゃないよ。」
私たちのクラスが一番最後だったらしく、ヴォルドーが紅茶をテーブルに置いて椅子から立つ。
「全員集まりましたね♪それでは戦闘試験を始めますよ♪」
「おいヴォルドー!戦闘試験って俺達にいったい何やらせる気なんだよ!説明しやがれ!」
レオンが大声でまくしたてる。
「慌てなくても今から説明しますので♪まずはこちらをご覧ください♪」
ヴォルドーの後ろに魔法陣が展開され人形が現れる。サイズは一般的な大人の身長ぐらいだ。そしてなぜかヴォルドーと同じ仮面を付けている。
「これは実際に王国の騎士団などでも訓練で使われている模造兵……平たく言えばダミーですね♪皆さん、私のことがすでに嫌いだと思うので私のかっこいい仮面も付けておきました♪」
「かっこいい……?」
人形がカタカタと音を立てて動き出す。
「これ自体にそこまで強力な戦闘力はありません♪これに向かって自身の魔法を撃ってもらいます♪別に壊す必要はありませんが壊せなくはないです♪耐久力はかなりあるので頑張ってください♪すでに魔法をかなり扱える生徒もいるようですし、その人達にとっては簡単すぎるかもしれませんけど♪各クラス一体の人形を用意しているのでクラスごとに分かれて先生方の指示に従って試験を開始してください♪」
ヴォルドーの案内で生徒たちはフィールド上に分かれる。
「それではこれより、1−1、戦闘試験を開始します。目標はダミーの討伐。一定以上のダメージを与えると消える仕組みになっているので皆さんの好きなスタイルで魔法を使ってもらって構いません。」
セレナ先生が手にボードを持って説明する。
「花紋を持たない生徒もいるかと思いますが、無理はせず。これ以上は無駄と判断したらこちらで終了させてもらいます。あくまで現在の皆さんの実力を測るものですから。順番は特に決められていないのですが……最初にやりたい人は居ますか?」
「どうしよう……最初は恥ずかしいよ……。」
「私も……。」
ノアと一緒にもじもじしていると前に出る人が一人。
「僕が行かせてもらおう!皆に僕の魔法の素晴らしさを見せつけてあげるよ!」
オスカーが自信たっぷりに前に歩み出ていた。
「先生、構いませんね?」
「ええ、良いですよ。ではオスカー・レヴェル。ダミーの前方へ。」
オスカーがダミーから前方15メートルの位置に立つ。
「では、始め!」
オスカーが前方に手をかざすと、そこに青みがかった色の杖が出現する。細かい装飾が施されており彼の自信を表しているかのようだ。
「僕は手数よりも美しい一撃が好みなんだよ!」
頭上に巨大な氷塊が姿を見せる。そういえば彼の花紋はフユザクラだった。
「凄い……!」
「あんな感じでも一応彼は発現者だからね。質量系の魔法が得意なのかな……。」
フィンが早速魔法を分析している。
杖がそのままダミーに向けて振り下ろすと氷塊が凄まじいスピードで激突した。
「ふっ……これが僕の魔法さ!あんなダミーなんて木っ端微塵に……」
上がる土煙の中。次第に風で土煙が晴れていくと姿を現したのは……無傷で佇むダミーだった。
「………………。」
「なあ……なんか言ったほうが良いのか?」
「黙っておけ。」
カイルが余計なことを言う前にユリウスが制止する。
「いや、アレはオスカーくんの魔法が弱いんじゃないよ。あのダミーの耐久力がおかしいだけだ。学生だとしても発現者の魔法を受けて無傷のダミーなんて聞いたことない。木っ端微塵まではいかなくても、部品の1つや2つ壊れるはずだよ。」
フィンが早速分析している。
「オスカーくん。まだやりますか?」
「……。いえ、先生。僕は自分の実力不足を認められないほど愚かではありません。努力が足りない……!それだけなのでしょう!」
「へえ……。」
少し彼を見直した。不遜な態度からしてなにか文句でも言い出すのかと思ったのだが。
「でもでも!オスカーくんの魔法凄いよ!あんなにおっきな氷の塊をどがーんって!」
リゼットが興奮した様子で身振り手振りできゃっきゃしている。
「……。そうだろう、そうだろう!そのとおりだとも!僕の魔法は凄いんだよ!リゼットくんは見る目があるみたいだねっ!」
落ち込んでいたオスカーが調子を取り戻したように気取る。他の皆も別にオスカーをバカにしたりはしない。わかっているのだ。あのダミーがおかしいだけだと。……一人を除いて。
「先生、次は私がやらせてもらってもいいかしら。」
シエラがオスカーを押しのけてぐいっと前に出る。
「ほう、シエラくん。この僕が!破壊できなかったダミーを自分なら出来ると?」
「あなたよりは自分の魔法をうまく使える自信はあるわね。」
「その自信はどこから出てくるんだい?」
「……その言葉、そっくりそのままお返しするわ。」
シエラがオスカーとの会話を諦めた様子でツカツカと歩みを進める。
「それではシエラ・レイン。始め!」
シエラが手を添えて杖を出現させようとする。しかしその手はオスカーのように前方ではなく、太もものホルスターの方へと伸びた。ホルスターの中に鈍く黒色に光る物体が現れる。シエラがゆっくりとその物体を引き抜き、手で構える。細長い筒、その後ろに円筒状の部品、そしてそれを握るための持ち手。
「フィンくん……あれ……なに?杖なの?」
「あ……あれは魔法が発展する前の時代に、人類が使っていた火薬の爆発で鉄の弾を撃ち出す道具だよ。」
シエラが腕を伸ばしてそれを自身の目の前に持ってくる。
「私も何かの本で読んだことがあるよ。魔法が発展した現代では全然使われなくなったっていう……。」
「ミラさんも知ってるみたいだね……。うん、あれは……」
シエラの人差し指が、持ち手の上にある小さな金属部品へ伸びる。筒の先端に黒色の魔法陣が浮かび、高速で回転を始める。そして指を、引いた。
「拳銃だよ。」
拳銃と呼ばれたその物体の先端の魔法陣の回転が一瞬止まる。その瞬間周囲の空気が先端の一点に圧縮されたような感覚を覚える。刹那、先端から黒色の閃光がほとばしった。その閃光はダミーの頭を一直線に貫き、背後の大岩を粉々にした。轟音とともに破片が周囲に飛び散る。ダミーこそ粉々になっていないものの、顔に当たる部分の中心には風穴が空いた。
「ちょっと頭を狙いすぎたかしら。せっかくなら胴体でも良かったわね。」
シエラは握った拳銃をくるくると回している。よほど扱いに慣れている様子だ。拳銃をホルスターにスチャッと差し込むと、それは姿を消した。
「どうかしら?」
表情は無表情のままだが、そこには明らかに煽りの意図が含まれていた。
「へ、へえ……なかなかやるじゃないか……。まあでも!?君の魔法をもってしても全体を破壊することはできなかったみたいだけどね!」
「狙わなかっただけよ。やれば出来るわ。」
「本当かい?そうやって見栄を張ってるだけなんじゃないのかい?」
「こんなところにちょうどいい的がいるわね。」
「ふたりともやめなって!」
オスカーの頭が吹き飛ぶ前に止めに入る。
「あなたは……誰だったかしら。」
「君は……ノア君か。」
「私、ノアだよ。け、喧嘩はやめようよ!二人ともどっちの魔法もすごかったし!」
「そう……ノアさん、単刀直入に聞くわ。あなたはどっちの魔法のほうがすごいと思う?」
「え、ええ……あ、そうだシエラちゃんさっき魔法を撃つときに使ってた銃……?ってなんなのか―」
「杖よ。」
……すごい食い気味。フィンもすこし怯えながら、
「え、いや、あれはどう見ても銃……」
「杖よ。」
「…………。その杖、珍しい形だよね。」
「そうね、珍しいのは認めるわ。知っているかもしれないけれど、杖は、魔法の性質にあった形にすることで威力を高められるの。そうは言ってもたいていの人は装飾や材質を変えるだけだけど。私の魔法は魔力をただ撃ち出すんじゃなくて弾丸としてイメージしてから撃つの。だからこのほうが都合がいいのよ。理由はそれだけじゃないんだけど……あとかっこいいし。」
ふとセレナ先生を見るととても驚いている様子だった。無理もない。
「特殊型の杖……。珍しいな。めったに使ってる人はいないよ。僕も研究してた時に数人しか会ったことないし。」
「あなたは……ごめんなさい、まだ名前を覚えきれていなくて。」
「あっ……!フ、フィン・ローレンスです……。」
フィンは話しかけられると相変わらずだった。
「次は僕がやるよ。」
アレンが前に出る。
「アレンくんってたしか私と同じで花紋は発現してなかったよね。」
「ああ、いきなり発現者二人の魔法を見せつけられちゃったけど、僕だっていつも練習してるんだ。」
杖を構える。
「いくよ!」
アレンが杖を振り下ろすと、数個の魔力弾がダミーに向かって飛んでいき、激突。しかし儚くもダミーはほぼ無傷だった。
「わかってはいたけど実際目の当たりにすると結構くるね……。」
アレンが肩を落とす。
「いやいや!最初のふたりが凄すぎるだけだってー!じゃあじゃあ、私もやるよ!」
次はリゼットが前に出る。
「えーい!」
リゼットの杖の先端に黄色の魔力が浮かび上がると、ふよふよ〜と漂ってダミーの横を通り過ぎていき、ふっと消えた。
「お〜。」
リゼットは自虐的につぶやくと、そそくさと私たちの方に戻ってきた。
「わ、私ってばかなのかな……。」
涙目になっている。
「そ、そんなことないよリゼットちゃん!元気出してよ!」
「そうだよ!これから練習しようよ!」
ミラと二人でリゼットの肩をゆすり励ます。
「うう……。」
リゼットが涙目でゆすられている。
「未発現者の人たちは先にやったほうがいいんじゃないかな?一人一人やってたら恥ずかしくて死んじゃうよ……私みたいにさ……。」
残る未発現者の私、ルナ、エマ、カイル、ノールは全員「たしかに……」といった表情をして出てくる。
「や、やっぱり発現してない私なんて……、役立たずで……」
「ルナちゃん元気出して!?」
「てか男子でアレン以外の発現してないやつ俺とノールだけじゃん!」
「なんだか君と一緒にされるのは心外だな……。」
私以外の4人が騒ぐ。
「私だって魔法の練習はしてたんだからね……!」
胸の前で拳を握りしめる。
「ノアー!がんばれー!」
「ルナ、頑張りなさい。」
応援も飛び交うなか、先生の合図を待つ。
「それでは、始め!」
皆が一斉に杖を構える。そしてそれぞれの周りに魔力弾が浮かび上がる。私はピンク、ルナは黄色、カイルも赤、ノールは茶色、エマは黄緑。
「ねえ、これって皆で一斉に撃つ感じかな?」
杖を構えたまま皆に問いかける。
「それでいいんじゃね?傷の1つでもついたら上々だろ!」
「了解した。」
「わ、わかりました……!」
「わかったよ!」
なんだか最初に喋ったせいで私が掛け声を出す雰囲気になってしまった。
「そ、それじゃあいくよ!?せーの!」
全員の杖が同時に振り下ろされ、魔力弾が向かっていく。いくら未発現者の魔法でも、5人分ともなれば多少の威力は期待できるだろう。全員の魔法が一斉にダミーに衝突した。
「どうだ……?」
煙の中からは、全く姿を変えていないダミーが現れた。
「やっぱり……!」
ダミーの方に皆で駆け寄る。
「ここなんだかちょっと傷ついてないか?これ絶対俺の魔法が当たったとこだって!」
「どう見てもそれはただの汚れではないか?」
「私の魔法が当たったところ全然傷ついてないよ……。」
「エマさんは凄いですよ……!私の魔法なんてそもそも当たってなかったですし……やっぱり私は役立たず……。」
私の魔法が当たっていたであろうところを見てみると全くと言っていいほど傷はついていなかった。
「とほほ……。」
ガクリと肩を落として皆のもとに戻る。
「ふふ……所詮、未発現者たちの魔法ね。」
「ノアさん達、ナイスファイトだったわ。」
リリアが嫌味を飛ばしてくる中、シエラが褒めてくれたがそれすらも煽りに聞こえてしまいそうだった。いや、実際そうだったのかもしれない。これが発現者と未発現者の実力の差。嫌というほど痛感してしまった。
「あと残っているのは……。」
レイアがまだ試験を受けていないメンバーを集める。あと受けていないのはレイア、ユリウス、メル、レオン、ミラ、リリア、フィンだ。
「あとの皆さんは発現者だけですわね。次はわたくしが行かせていただきますわ。」
「お嬢様……!頑張ってください!」
さっきまで落ち込んでいたルナの目が光る。
「ねえ、ルナちゃんはレイアちゃんの侍女って言ってたけどどんな関係なの?気になるな!」
「お嬢様は素晴らしい方です……!どんなときも諦めず、前を向いて歩みを止めない。私にとって女神様みたいな方なんです……。ですが今はとある理由により、家から出ていまして……。」
ルナの目が少し暗くなる。
「とある理由……?」
「申し訳ありません、今はまだ言えないのです。事態が落ち着いたときには……必ず、説明します。」
「うん、別に詮索はしないよ。」
「ありがとうございます……。」
「ほら、レイアちゃんの魔法一緒に見よ?」
「はい!」
シエラはレイアが魔法を撃とうとしているのをノア達の集団から少し離れて木に背を預けながら見ていた。そんなシエラに近づく人影が一人。
「誰!?」
シエラはすぐにホルスターから銃を出現させ、構える。
「おやおや♪そんなに警戒しないでください♪私ですよ♪」
「ヴォルドー……。」
「先程の結果、見事でした♪まさかあのダミーを貫通するなんて♪今のところ、ダミーに傷を付けた生徒はまだ片手で数えるほどしかいませんから♪」
「ふっ、犯罪者から褒められても嬉しくないわね。」
「それで聞いておきたいことが1つありまして♪あなた、おそらくもう【使える】のでしょう?先程の威力、見ればわかります♪あなたのクラスメイトの何人かも気づいてるようでしたけど♪」
シエラの目の奥が、キラリと光った。
「へえ、だてに犯罪者やってないのね。」
「私もあまり知らない魔法でした……♪くすぐられますね、好奇心が♪」
「あなたの言う「最強の魔導兵」のお眼鏡にかなったかしら?」
「まあまあ、慌てないでください♪試験はまだ始まったばかりなんですから♪」
ヴォルドーはそう言い残して姿を消した。
「あいつ、一体いくつ持ってるのかしら……。もっと、強くならないと……。【■■■■】の為に……。」
胸の前で拳を握りしめる。
「シエラちゃ〜ん!そんな離れてないでこっちおいでよ!」
リゼットが声をかけてくる。
(今は……考えたって無駄ね。)
「今行くわ。」




