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7:そして、2年前


 辺境から王都までの道のりは遠い。

 だからこそ余裕を持って、家を後にしたエリザベス。

 そんな彼女を待っていたのは、身分不相応な寮の部屋だった。


 足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んだのは―――実家の自室が2つは納まってしまいそうなほど広い空間と、一式揃えられたシンプルながら高価な調度品の数々。そして、繊細な刺繍の施されたドレスが1着、トルソーに飾られていた。


 太陽を象徴とする金と朱。


 その徹底して統一された2色の色彩からして、このような対応をさせたのは、あの男しかいない。


 諦めたわけではなかったのだ。と、悟るには十分すぎる状況に身震いが止まらなかったけれど、そうしている暇は微塵もない。幸いにも、この学園には弟も一緒に来ていた。


 辺境の男爵家子息として生きていくには勿体ないほど、聡明に成長したレノンバルト()

 弟は魔法の才にも恵まれており、それは学園から直々に早期入学の推薦が届くほどであったのである。


 物心ついた頃から姉であるエリザベスがベネディクトに執着され、怯えていた姿を見てきたこと。加えて、それにリューンハルトが防波堤になるどころか、嫉妬してエリザベスを攻撃していたこともレノンバルトは気付いていた。故に、自分が同じ年に入学すれば父に代わって姉を守ることが出来ると考えたのは自然な話だろう。


 そして、万が一のことを考え家族にも内緒で推薦を受諾し、見事合格を果していたレノンバルト。


 そのことをエリザベスが知ったのは、父が開いてくれた入学祝いの席であった。

 この時、初めて弟の想いや決意を知り、父と2人でボロボロ泣いてしまったのは、また別の話である。


 兎にも角にも、自分の為に着いてきてくれた弟の存在がこんなにも有難く、心強いものだったとは。


 男子寮へ駆け込んで、レノンバルトを呼び出してもらう。

 直ぐ降りて来てくれた弟は姉の怯えと憔悴が滲んだ顔色を見て事の次第を察し、咄嗟に自分たちに認識疎外の魔法を掛けてくれた。それでも、そのままの勢いで乗合馬車に飛び乗り、学園から離れた宿の部屋に入るまでの間、エリザベスは誰かから見られているような感覚に苛まれ落ち着くことは出来なかったのである。


 カーテンを締めきり、防音防聴の魔法を部屋全体と認識疎外の魔法を宿に掛けてから漸く、安心することが出来た2人は同時に溜息を零した。


『それで、何があったの?』


 促す弟に、自分が見てきたことを話すエリザベス。

 姉の話を聞いて、やはり自分が着いてきたのは正解だったなとレノンバルトはもう一度溜息を漏らし、2人でどのように対策するか話し合うこと数時間。


 一先ず寮の部屋は、どうにかして男爵家に相応しい場所へ移してもらえるようお願いすることにして、学園生活では1人きりにならないことを徹底しよう。

 だが、基本的にはレノンバルトが傍にいるようにするけれど、どうしても難しい瞬間は出来てしまうだろう。その時は、認識疎外の魔法を掛けた上で集団の中に紛れて隠れること。


 大学のある区画の近くは出来るだけ近寄らないように。でも、授業などでどうしても行かないといけない時は、同じく認識疎外の魔法で……


 魔法が扱えると分かるや否や、真っ先に認識疎外系の魔法を習得していたレノンバルトの慎重さには、幾ら感謝を伝えても足りない。


 そうして、あらかたの内容も纏まりかけた頃。

 何かを思い出したのか、一瞬口を閉ざしたレノンバルト。突然満ちた沈黙の間に、どうしたの?と促せば、僅かに躊躇った素振りで視線を彷徨わせた彼は、やがて覚悟を決めたのかぎゅっと拳を握る。


そうして、重い吐息と共に『実はさ。』と話し始めたのだった。


父様(とうさま)がさ。再婚するみたいだよ。』

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