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縋るように伸ばされたその指先は、されど何も掴むことは無く。
糸を断ち切られたマリオネットのように唐突と、虚しく砕屑の上に崩れ落ちた。
それと、同時に。
頭上で舞っていた魔法陣も役目を終えたと言わんばかりに掻き消え、後に残されたのは何とも言い難い沈黙ばかりだった。
蓄積されていく静寂の中。
杖を仕舞ったレノンバルトが徐にその懐から取り出したのは、石らしきもの。
透明でありながら、その中心には赤を滲ませる―――不可思議な見た目をしたそれは、一見すると宝石のようにも見えた。が、美しく綺麗なものを好む精霊たちが一斉に顔を背け、一目散に逃げ出してしまったことから、これの性質は恐らく真逆のモノなのだろう―――そんな石擬きを少年は、ベネディクトの首へ巻かれた無骨な枷に設けられた空の石座へ。
カチリ。と、軽い音を立てながら、嵌め込んだのだった。
「クルト」
「うん。」
間髪入れず、傍に控えていたもう一人の少年へと声を掛けると、そのまま。
二人はその石へと両手を翳し、小さなつぶやきと共に赤い雫を二つ、
「「kcol」」
垂らした、途端。
弾ける閃光は、青と黄。
視界を一瞬にして覆い隠したソレはやがて、透明の内部へと吸い込まれていき、滲む赤と結びつく。
混ざり合い、重なり合い、溶け合い、そして包み込むように。
移り変わった果ての色は、紫。
「……ブローチの方も共有されてる。完璧だよ、レノンバルト!」
もう一人の少年も掌に持つ何かと変色した石を見比べたかと思えば、すぐさま嬉しそうな声を上げていた。
上手く行ったことを確信してか、それに深く頷き返す少年の顔も満足げで。
「よし……あとは君とこいつを送るだけ、だね」
「だね。あ、でも……レノンバルト。君……魔力は、」
しかして、それ以上深い余韻に浸ることも無く、二人の少年は短いやり取りを終えると、そのまま。
「そのくらいの余裕は残ってるよ。だから、さっさとそれ。連れて帰ってよ」
「……なら……うん、わかった―――それじゃあね、レノンバルト。」
男を抱え為したもう一人の少年に、しっしと犬を追い払うような仕草で軽く手を振った少年。
そうして、その次の瞬間にはもう、何処にも―――二人の姿は見えなくなっていたのである。
かくして、脅威と恐怖の全てだった存在は過ぎ去った。
祈るように手を組み、少年のすることをハラハラした眼差しで見守っていた少女も、数度の瞬きを於いて気配さえも残さずに掻き消えていった影が本当であることを認識できたのだろう。安堵に肩を震わせていた。
そんな少女へ駆け寄り、手を取り合う少年の、漸く見れた年相応な笑顔。
再び、強く抱擁を交わし合う姉弟。
立ち向かい続けてきたのだろう、物語のフィナーレに相応しい美しさと感動に満ち溢れたその光景を。
(……)
ただ、少女の傍で見届けた青年だけは、一抹の懸念点を拭い切れずにいた。
それは動きを封じられても尚、意識を失うその直前まで少女のことを見ていた、あの眼。
昏く淀みながらも、爛々と揺らめき続けていた、あの紅い眼差しが。
(深入りするべきではない、のだろうけど)
此処まで関わってしまった以上、見なかった振りも出来ない。
警戒は怠るべきではないだろう。とは思いつつも、けれど今は。
無邪気に喜びを分かち合う姉弟へ水を指すのは、よしておこう。
そう、アレクサンダーがほんの少し視線を空へと逃がした、その時であった。
「ね、姉様!?」
少年の慌てた声が、穏やかに流れ始めていた空気を切り裂く。
反射的に振り返ったアレクサンダーが目にしたのは、少年の腕に力なく寄りかかっている少女の姿だった。




