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私の人生は誰のもの?~運命の番なんてお断りです!~  作者: 結記
第5章『終わりへのカウントダウン』
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8


 砕けたその光は、ただ真っ直ぐに。

 蹲るベネディクトの身体を貫いた。


 しかし、直後に彼を襲ったのは肉体へ響く痛みなどではなく―――。


(あ、ぁ……)


 けれど、藻掻き足掻き、それでも足りないほどの苦しみを孕んだ喪失感だった。




―――崩れていく。


『………いつもたくさんのプレゼント……ありがとう、ございましゅ、す……』


 初めて君と言葉を交わし合えた日のこと。


―――熔けていく。


[おてがみ、ありがとうございます]


 初めて君が手紙の返事をくれた時のこと。


―――消えていく。


 初めて君を想って眠りについた夜のことも、初めて君と出会った日のことも。


―――全て。


 幾重にも積み重ねて来た、大切で、掛け替えのない思い出の全てが。


 欠けていく。 

 霞んでいく。

 薄れてゆく。

 

(や……いやだ……)


 記憶(それ)まで、ぼく(・・)から奪わないでくれ。


 そう叫び出したくても、喉は掠れた息を漏らすばかりで。

 魔力も枯渇し、身動ぐことさえも封じられている今、ベネディクトに為す術は無い。


(………っ、ぼ、くは……ただ)


 鮮やかな薔薇の咲き誇るガーデンアーチの下で、家族みんなに囲まれて、楽しそうに笑っていた君を思い出す。


 口いっぱいに頬張ったケーキ。唇の端に残った生クリームを指摘されて、恥ずかしそうに含羞む君を。

 お気に入りのドレスを纏い、何度も何度も鏡の前でターンを踏んでいた君のことを。

 真剣な眼差しで勉学に励んでいた君も、魔法を上手く扱うことが出来なくて悔しそうだった君も。


(……ぼくの、運命を)


 思い出しては、砕けていく。

 振り返っては、熔けていく。

 紐解いては、焼け落ちていく記憶の中で。


 信じ、求めた想いの欠片を搔き集めるように空へ手を伸ばそうとして、


(―――――あ、)


 ベネディクトは気付く。


 浮かんでは消えていく面影がどれも―――どれも。


(あぁ、そうか……)


 ひらりと空白に舞ったのは、一枚の絵。

 それは父の部屋で見た、誰かの横顔。


(ぼくが……まちがえたのか(・・・・・・・))


 暗瞑に塗り潰されていく世界。


「………それ、でも」


 静寂に掻き消えた思考の果て。


「それでも………ぼく、は………」  


 ――― ・・・・・(きみ)を。


 輪郭も定まらぬまま、口の端から零れ落ちたその音は誰の、そう彼自身にさえも届くことは無く。


 吹き抜けた一陣の風に攫われて、霧散していったのだった。

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