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砕けたその光は、ただ真っ直ぐに。
蹲るベネディクトの身体を貫いた。
しかし、直後に彼を襲ったのは肉体へ響く痛みなどではなく―――。
(あ、ぁ……)
けれど、藻掻き足掻き、それでも足りないほどの苦しみを孕んだ喪失感だった。
―――崩れていく。
『………いつもたくさんのプレゼント……ありがとう、ございましゅ、す……』
初めて君と言葉を交わし合えた日のこと。
―――熔けていく。
[おてがみ、ありがとうございます]
初めて君が手紙の返事をくれた時のこと。
―――消えていく。
初めて君を想って眠りについた夜のことも、初めて君と出会った日のことも。
―――全て。
幾重にも積み重ねて来た、大切で、掛け替えのない思い出の全てが。
欠けていく。
霞んでいく。
薄れてゆく。
(や……いやだ……)
記憶まで、ぼくから奪わないでくれ。
そう叫び出したくても、喉は掠れた息を漏らすばかりで。
魔力も枯渇し、身動ぐことさえも封じられている今、ベネディクトに為す術は無い。
(………っ、ぼ、くは……ただ)
鮮やかな薔薇の咲き誇るガーデンアーチの下で、家族みんなに囲まれて、楽しそうに笑っていた君を思い出す。
口いっぱいに頬張ったケーキ。唇の端に残った生クリームを指摘されて、恥ずかしそうに含羞む君を。
お気に入りのドレスを纏い、何度も何度も鏡の前でターンを踏んでいた君のことを。
真剣な眼差しで勉学に励んでいた君も、魔法を上手く扱うことが出来なくて悔しそうだった君も。
(……ぼくの、運命を)
思い出しては、砕けていく。
振り返っては、熔けていく。
紐解いては、焼け落ちていく記憶の中で。
信じ、求めた想いの欠片を搔き集めるように空へ手を伸ばそうとして、
(―――――あ、)
ベネディクトは気付く。
浮かんでは消えていく面影がどれも―――どれも。
(あぁ、そうか……)
ひらりと空白に舞ったのは、一枚の絵。
それは父の部屋で見た、誰かの横顔。
(ぼくが……まちがえたのか)
暗瞑に塗り潰されていく世界。
「………それ、でも」
静寂に掻き消えた思考の果て。
「それでも………ぼく、は………」
――― ・・・・・を。
輪郭も定まらぬまま、口の端から零れ落ちたその音は誰の、そう彼自身にさえも届くことは無く。
吹き抜けた一陣の風に攫われて、霧散していったのだった。




