立ち向かう時:エリザベス/アレクサンダー
少女が口にした、頼み。それは、己を守ってほしいということだった。
「一緒にこの子へ乗って、私を守ってくれるだけでいいの。多分、あの男も強い魔法を放てるのはあと2、3回が限度だろうから……そこまで耐えれる?」
「あぁ、問題ない。」
元よりそのつもりだったアレクサンダーが了承の意を示せば、彼女はありがとうと僅かに口元を緩め、それから。傍に居た馬にも「あなたもお願いね?」と優しくその鼻先を撫でながら、話を続けた。
「……多分勘付いているとは思うけど、私はあの男から逃げたい……いいえ、もう金輪際関わりたくないの。だから、とっておきの魔法を使うことにする。」
「―――なるほど。」
その魔法がどういったものなのだろうか―――具体的には、身体的負担など重くはないのだろうか―――と、気にはなったが、覚悟を決めている様子の少女に水を指すべきではないと判断し、一つ頷くに留めたアレクサンダーは、緩めていた手綱を握り直すのであった。
〇
―――とっておきの魔法。特別で、大切な、母との約束と共に教わったその魔法は、正しく。
次に放たれた痛烈な一撃を以て、完全に崩れ去ってしまった土壁。
砂埃が舞い上がり、視界は不明瞭。だが、日頃から様々な訓練に取り組んでいるアレクサンダーにとってこれくらいの妨げは、何の支障にもならなかった。
馬に跨り、少女を抱えるように支えた片腕で手綱を巧みに操り、姿を現した青年へ、男は分かりやすく更に激昂する。
「―――っ、僕のエリーから離れろ!!この外道っ!」
鋭利な刃が如き風の斬撃。馬の足元を崩そうと、波打つ地面。そして、変わらず空から雨の如く降り注いでいる光の礫。
人の顏ほどはありそうな火球に、蛇のようにうねる水の鞭、等々。繰り出される魔法は多岐にわたり、どれも高火力である。だが、対峙した当初に比べれれば、確かに。少しづつ威力が落ちているように感じられた。
見れば、男の肩は息が切れ欠けている時のように大きく上下している。
少女の想定よりも粘っていたが、着実に限界へ近付いているな、と。
剣を構え直した青年の腕に抱かれながら、少女はじっとその時を待ち続けていた。
(……もう少し……あと、少し!……焦っては駄目よ、エリザベス。私なら、出来る。そう、私には皆が居るから……!)
そして、ついに待ち望んでいたその時は訪れる。
礫の雨が降り止み、風の刃は肌を裂く前に消え、波打つ大地は亀裂を残しながらも鎮まり、男は気力が尽きたようにその場へ崩れ落ちた。
今だっ、と。馬から飛び降りた少女は、男の下へ駆け寄る。
初めて彼女から男に近付いた瞬間であった。
と、気付いたモノは誰も居ないまま、彼女は男の周囲に無心で陣を描いていく。
その邪魔にならない位置で、少女に続いて駆け寄った青年は男が動き出さないように見張っていた。
やがて完成された幾何学で複雑に絡み合った紋様と文字の羅列が織りなす魔法陣の前で。
土を払うこともしないまま、少女が紡ぎ出したのは―――。
「───egdE mulif aitinI agaM」




