交わし合う時:エリザベス/アレクサンダー
「それでその、貴方はどうしてここに……?」
「……あぁ、それは」
もう大丈夫だから。と促されて、立ち上ったアレクサンダーが、少女の問いにこれまでの経緯を応えようとした、その時だった。
ビシリッ、と土壁に走った亀裂。
追撃するように、同じ所へ穿たれる衝撃音は先程よりも激しさを増しているようで、少女の表情も険しいものに変わる。
(どうやら、ここも限界のようだ。)
精霊たちも衝撃を抑えよと補強に注力してくれていたが、そもそも魔法と精霊は相性が悪いのだろう。一体、また一体と衰弱しては、アレクサンダーの体へと戻ってきていた。
(……気が緩み過ぎていたな)
外では依然として冷静さを欠いた男が、荒れ狂うままに魔法を放ち、脅威を奮っているというのに。
意識が削がれ過ぎていた、と。悠長にしている場合ではないのだと、己の思考へ叱咤する代わりに一度強く目を瞑り、煩悩を打ち払う。
(言うべきことは、端的に。目的は、簡潔に。するべきことは、速やかに。)
戦場での心得を繰り返し唱えることで、幾分かは思考の乱れも落ち着いてくれた。
再び少女を捉えても、先程以上に鼓動が異常なほど脈打つことも無い。
いつでも剣を取れるように柄へ右手を添えつつ、アレクサンダーは少女が大丈夫であるならばと少しだけその距離を詰めた。
小さな声でもやり取りが出来るように。
幸いなことか、腕を伸ばせば触れ合うことのできる位置まで寄ったアレクサンダーに少女が肩を揺らすことも、沈黙に固まってしまうことも無かった。ただ静かに、様子を伺うように、アレクサンダーのことを見上げ続けていた。
〇
「俺は、レノンバルト殿の“魔法”で此処に来た。……君の助けになりたくて」
「―――私の、助けに……?」
パラ、パラリ……と、小さな破片ではあるものの、至る所から降り落ち、崩れつつある土壁に我を取り戻したエリザベスは、青年の説明にさっと思考を巡らせる。
(レノンバルトと何処でどう関わることになったのか、よく分からないけど……確かなのは、レノンが魔法を使ってもいいって思えるほど彼のことを信用できるって判断したことよね?)
それも、単身で青年を送り込んでくるほどに。あの弟が、このタイミングで、である。
物心付く頃から、あの男のみならず様々な他人に苦心してきたエリザベスや両親を見てきたからだろうか。『他人』とはかぞくにとっての『敵』であると覚えてしまった弟のことを思い出す。
(……私の助けになるって言ってた。助ける、でもなく、救うためでもなくて……)
助けてほしいことはある。正確には、協力してほしいこと、だが。
本来の計画であればレノンバルトが合流してから使う予定だった魔法が、一つあるのだ。
それは幼い頃、あの男からの贈り物攻撃に疲弊しきったエリザベスを抱き締めてくれた母が教えてくれた、特別で大切な―――。
『いい?エリザベス。私の可愛い子。この魔法はね、唱えたら最後。相手の運命も壊してしまうの』
『……こわす?』
『そう、壊れるの。直すことは出来ない。だからね?エリス。貴女が大きくなって、それでもあの方のことが受け入れなかったら……好きになれなかったら。そして、ずぅっと一緒に居たいくらい大好きな人が出来た時にしか唱えては駄目よ?』
『とうさまみたいに?』
『ふふ、そうよ。母様にとっての父様みたいに。』
優しく微笑んだ記憶の中の母に背中を押されて、今度はエリザベスから。
青年へと歩み寄った。
「それなら、一つ。お願いがあるの。」




