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私の人生は誰のもの?~運命の番なんてお断りです!~  作者: 結記
第4章『その果てにあるもの』
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くずれた未来:ベネディクト

 運命の番。


 それは、傍に居るだけでも渇きに乾いた器(魂)を満たしてくれる、覚醒者にとって特別で大切な、唯一無二の存在である。


 ベネディクトにとってのエリザベスが、その人だ―――けれど。


(……どうして)


 視界に収めたその瞬間は、確かに高鳴りを覚えたはずの鼓動。

 愛おしさまでもが込み上げ、渇きに疼くこの器も漸く満たされていくのだと歓喜していたはず……なのに!


「…………どうしてっ!」


 叫ばずには居られなかった。

 

 目の前で佇む彼女は、間違いなく自分の運命の番だ。それに違いはない。


 陽の光に照らされ、柔らかな温もりを纏った小麦色の髪。澄み渡った空のように瑞々しい薄水色の瞳。

 すこし日に焼けてしまったのだろう、火照りを帯びた頬と薄っすら汗を滲ませる肌、そしてなにより。


 陽だまりのような温もりで柔らかく包み込み、微睡みを誘うような甘さを孕んだ優しさに満ち溢れた、彼女の纏う魔力(気配)こそが、ベネディクトの運命であることを告げていたのだ。


「なのに……っ」


 ―――その一方で。


 覚醒者としての本能が訴えるのだ。魔力を捕える眼が告げるのだ。その魔力に混ざる異質な存在を。


 それは、冷たくて眩しい魔力とも異なる力の塊だった。

 そう喩えるならば、今この瞬間もこちらを警戒している光の粒らの気配にも近しいような……ナニカ(・・・)。


 まだ明確な形を得ていないのにも関わらず、彼女のナカで息づいているソレはまるで。


「………どうして、」


 幾度となく脳裏に反響する宛先のない問い(呟き)が零れ落ちては、吹き荒れる風に攫われ、ひとつまたひとつと消えていく。


 全身の血の気が引いていく感覚を覚え、回転を止めない思考が白んでいく中で、やがて。


 一つの結論に辿り着いた。


 状況は、考えうる限りで最悪なもの。

 彼女は恐らく、ベネディクトが唯一恐れていた悲劇に合ってしまったのだ。


 だから、そう。―――そうだ。


「……やり直せばいいんだ。全部」


 そして、一から……そう出会いからやり直して、今度はどんなに遠慮されようともずっと傍にいる選択を取ろう。こんな悲しくて悼ましいことが、もう二度と彼女の身に降り注がないよう───僕が、守る。


「―――edamihona(時よ)」

 

 もう、間違えない。だから、君も。


 空に描くは、魔法陣。古来、喪われたとされる禁術の一つ。始まりの魔女が残した、『時間を戻す魔法』。


「iramizah(戻れ)」


 父の書斎で見つけたときは流石に驚いたけれど、念のため読み込んでおいてよかった。と、穢れだらけとなってしまっている愛しい人を前にして思う。


「erodom(始まりの)」


 お陰でこうして彼女を助けることが出来るのだから───


「oyikot(あの日まで)」


 カチリ、と。

 時計の針が合わさるかのように、丁寧に描き上げた魔法陣が虚空に出現する。思いの外、魔力の消耗が激しいけれど、彼女のためを思えばこのくらい大したことはない。


 あとは仕上げに、彼女と手を取り、魔語を紡ぐだけなのだから。


 息を吸い、望む未来を思い描きながら、彼女へと差し出した手のひら───は、またしても取られることはなかった。


 何故ならば、遮るように風の隙間から突如現れた一つの影が、全てを阻み、覆い隠してしまったからである。


 立ち上がる砂埃に紛れて、彼女を覆い隠してしまったのは、あの。


 冷たくて、けれども眩しいまでの力強さを孕んだ、白銀の気配(男)だった。

 

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