いとしいひと:ベネディクト
―――時を戻して、不可侵の森。その上空にて。
弧妙に張り巡らされていたレノンバルトの置き土産を、時に受け入れ、時に避けること、約一週間。
まずは王都の至る所へ張り巡らされた魔物除けの結界魔法から始まり、敢えて外されていた場所には魔物を興奮させる作用のモノが散布され、魔鳥での移動は断念せざるを得ない環境が作り出されていたのが一つ。
しかし、移動手段は他にもあるのだ。それ自体は大した足止めにもならなかった―――けれど。
行く先々に敢えて残されていた運命の番の痕跡は、喩え偽物であると解っていても、その場に放置することは出来なかったのである。
(その上で回収すれば発動する魔法の仕掛けも、巧妙だった。)
シンプルな睡眠魔法や攻撃魔法に、魔獣を引き寄せる香料を吹き付ける仕組み。
一つ一つはやはり大したこと無いのだが、数と質、そして細やかに調整され、複数が組み合わさっていた為、対処するのに些か時間が掛かってしまったのだ。
(天才と呼ばれているのも、頷ける。)
完全なる足止めを目的とはして居らず、重視していたのは時間稼ぎといったところか。
その作戦は、確かにレノンバルト側の成功と言えるだろう。
ようやくたどり着いた、不可侵の森。
その上空にて見つけた本物の痕跡を見下ろしながら思う。
天井から中が覗けて仕舞うほど、朽ち果てている小さな小屋。
色濃く残った魔力の量からして、ここで彼女が魔法を使ったのは間違いない。
(……誰かと一緒に居たのだろうか。)
彼女で満たされているはずの空間に混じった異物の気配。冷たくも清廉とはしている―――その上、争った痕跡なども見受けられないことから、危険人物では無かったのだろう―――けれど、本能が不快さを訴える。
その時だった。
思わず顔を顰めたベネディクトの背後で、雷鳴が如き閃光が轟いたのは。
確認するまでもない。放たれた方角からして、辺境の地。彼女の家もある、あの港町の方からだ。何より、雷鳴から漂った魔力は―――レノンバルトのモノだった。
「……今のは本気、だったね。」
明確な殺意を伴った、最大火力の攻撃魔法。
当たっていれば、ベネディクトであっても大怪我では済まなかっただろう。
これまでの妨害工作や作戦を考えるに、焦りも帯びていたこれは完全に計画外の一撃だと推測できる。
つまり、それ即ち―――運命の番は、まだこの辺りに居るということの証明に他ならない。
「やはり、詰めがまだまだ甘いね。レノンバルトくん」
ふっと零した笑みはそのままに、目を凝らしたベネディクトは遂に見つける。
不自然な空気の揺れを―――小さな光の粒が集って何かを覆い隠している空間を。
「そこに居たんだね。エリザベス」




