3ー ひみつ
ベネディクトがその人のことを知ったのは、本当に偶然のことだった。
鮮やかで豊かな小麦色の髪に可憐で柔らかな菫色の瞳をした、笑顔がよく似合う女性───の、横顔が描かれた沢山の絵が納められていたのは、父が使う執務室の一角に設けられた本棚の中である。
不自然に納められていた本を正しく並べ直したことで判明した、隠し扉の存在。
そのさらに内側で祭壇が如く丁寧に飾られていたそれらを見つけた時。
ベネディクトは生まれて初めての、何とも言い難い高揚感を覚えたのだ。
しかし、何かが物足りない。
この人のようで、この人ではないと、本能が訴えている。
(誰なんだろう。この方は)
柔らかな秋を思わせるキャラメルカラーのワンピースを纏って、花を手に取り楽しそうな笑顔を浮かべている──横顔。
晴れ澄み渡る空のように淡いブルーのカラードレスで着飾って、心の底から幸せそうな笑みを零している──横顔。
汚れ一つと無い純白のウェディングドレスらしきものに身を包み、その眦に涙を滲ませながらも嬉しそうに微笑んでいる──横顔。
全てが横顔で描かれている1枚1枚を覗き込みながら、やがて1枚に辿り着く。それは、貴族の子であれば誰もが入学することになる学園の制服を着た彼女の──やはり横顔であった。
(………きれいな人。でも──違う……?)
じっくり見つめながら、やがてベネディクトは気づいてしまう。
己が抱いた違和感の正体に、では無く、父の秘めた思いの存在に。
(この方の目、思えばアルヴァントのと似ている気がする)
正確には、その母親が持つ紫の色と。
(ニーナとヴィルモンドのオレンジも……そう、か……)
続けて思い出すのは、いつも華やかにオレンジの髪を飾り立てているある女性の姿。
(この方の色は、母上に無い。だから、父上は彼女たちにこの方を重ねていた……のかな?)
───横顔だけしかない理由。彼女と似た色を持つ2人の同居人。その子どもたち。そして、ベネディクトはもっと知っている。父のそういった相手が彼女たち以外にもいることを。その人たちが纏う色や雰囲気はやはり───彼女に似ていた。
(……代わりを求めたところで、その渇きが満たされることはないのに)
そう。彼女でなければ、全て意味がないのだ。
「……僕なら、絶対に手放さないのに」
――たった一人かいない、自分だけの『運命』ならば尚更のこと。
「僕の『運命の番』はどんな子なんだろう」
早く会いたいな。何事も無かったように、扉を閉ざして、本の配列も元通りに直して、本来の目的だった辞書を手に取り直しながら、思い馳せるはまだ出会えていない己が運命のこと。
どんな髪色をしていて、どんな目の色をしているのだろうか。身長はどのくらいで、声は、喋り方はどんな感じなんだろう。君は僕のことを気に入ってくれるかな?君に認めてもらえる為なら、僕何でも頑張るよ。我慢もする。だから。だからね。早く、会いたいな。早く、知りたいよ。君のこと。君の名前。なんて呼ぼうか。なんて呼んでくれるかな?あぁ、早く。早く、あいにいきたい。
「……楽しみだな。」
この次の日。ベネディクト・スカーピオが十つの歳を迎え、それから半年と数か月後に彼は出会う。
――――|エリザベス・キールエラ《運命の番》に出会ったのだ。




