1ー 君だけを
時系列は舞踏会まで遡ります。あの日の彼視点。ベネディクト・スカーピオの話です。
(……エリー―――僕の、僕だけの運命の番)
飾りは少ないけれど、繊細な刺繍が折り重なるように施されたスカイブルーのドレスは晴れた空色の瞳をした君によく似合っている。
彼女が自分で選んだのだろうか。
それとも、あの姉思いな少年と一緒に決めたのだろうか……だとすれば、少し心が疼いてしまうけれど、でも彼は君の弟だからね。
大丈夫、今は我慢、出来るよ。
(でも、次は僕の送ったドレスを着てほしいな)
きっと紅薔薇のドレスも、その柔らかな小麦色の髪によく似合うはず。あぁ、いや。最近流行りだというミモザの色もいいな。君は花が好きだから、髪飾りやネックレスなんかにあしらってもいいかもしれない。
(そうと決まれば、この後デザイナーを呼ばないと)
あぁ、楽しみだ。君が僕の色を纏ってくれる、その日が早く訪れることを、ずっと望んでいたから。
(早く見たいな、その姿を。そして、そんな君と踊りたいよ、エリー)
知っているんだ。君が本当は踊ることが好きなこと。学園の中庭で、水しぶきと戯れながら舞う、君はとても綺麗で可愛かったから。あぁ、あの笑顔もまた見たいな。……ねぇ、エリー。エリザベス。僕は君の為なら、どれほど待たされても構わないって思ってるんだ。我慢だって出来る。だからね、エリザベス。
(……出来るだけ早く、受け入れてほしいな。僕の、この想いを)
―――舞台の中心。柔和な微笑みを浮かべ、静観していた彼の口元が僅かに歪む。けれど、目の前で繰り広げられる弱小貴族のお家騒動に夢中な人々は、気付かない。
そもそも。
意気揚々と彼との関係を自慢していた少女の声も。
彼女を断罪するキールエラ家の若き当主の宣言も。
それにひそひそと好奇心に囁き合う観衆たちのざわめきも、何もかも。
彼の耳には何一つ届いていなかった。
最後まで、彼の視線は、意識は、全ては、ただ一人。
引き摺られるようにして、会場を後にした彼女にだけ、向けられていたのだった。




