9:暗天
「すごい!!空が割れたぞ!!」
「空を今切り裂いたよな!?」
初めて目の当たりにした魔法。
想像していたよりも迫力のあったその一撃に、部下たちの興奮は最高潮に達したようで。
口々に見たままの感想を言い合う二人は窓へと集い、少年は満足気な弧を唇に描きながら場所を譲る。
けれど、その瞳は依然と険しいまま窓の向こうへと向けられていた。
「……レノンバルト殿」
―――何を見たのか。
―――大丈夫なのか。
気付けば、呼んでいたその名。
しかし、続けようと思い浮かべた言葉が、形になることは無かった。
(……違う。聞きたいのは、そう言ったことではなく……俺も、)
―――俺も。
振り返った少年の鋭い眼光が、早くしろと急かすように突き刺さる。
その瞳の奥で揺れるは、焦りと動揺の影。
(そうだ。言葉を探している場合ではない……今は、一分一秒を争う)
ハッと息を吐き出すように、意を決したアレクサンダーの視界が、不意に眩む。
空を見やれば、いつの間にか立ち込めた暗雲が太陽を飲み込み、室内に影を落とさせていた。
徐々に霞んでいく青空へ重なるのは、レノンバルトが魔法を放つ直前に見えた、一つの影。
太陽の真下を舞う、肉眼でもわかるほどの巨大な鳥類に跨った黄金色の、あの人影である。
「―――俺も行こう。」
その一言を待っていたかのように、レノンバルトは無言のまま鷹揚に頷くと、一振り。
杖を揺らした、次の瞬間――――二人の姿は、執務室代わりの談話室から掻き消えたのであった。
第三章・完




