5:嫌悪
「それじゃあ、まずは魔法の原理についてから、説明していくね。」
何処からか細長い棒状の何かを取り出したレノンバルトは、そのまま窓の向こうへとその先端を向けた。
―――正確には、あの空に向かって。
「これは、媒体。無くてもいいんだけど、あったらより魔法が正確に発動させれる―――いわば、アイテムだね。」
僕のはありきたりな杖だけど、人によってはペンだったり指揮棒だったり、様々なんだ。
でも共通して、細長い棒状のものが好まれやすい傾向にあるよ。
くるり、くるりと円の様なモノを虚空に描きながら、色めき出っている部下たちに説明しているレノンバルトだが―――。
(……俺の時は、使っていなかったような気がするが)
思い返すのは、初めてあった時のこと。
ナインクル・ベラドールら捕縛計画の裏側でアレクサンダーは、レノンバルトの要請とヴレイブの命令により、王都に居た。
「魔法と言うのはね。発動するまでに3つの段階を踏む必要があるんだ。これがその第一段階である『魔方陣の作成』」
向かっていたのではない。居たのだ。あの時は、確か―――
「そして、魔力を込めて唱える『詠唱』。これが、第二段階ね」
深く息を吸い込み、空を見据えたレノンバルトの纏う空気が怜悧なものへと研ぎ澄まされていく。
「orezah」
一音、一音。丁寧に、朗々と。
紡がれていくのは聞き慣れない発音の羅列。
「ukotog」
ふるり、と身震いしたのは誰だったか。
何かが起こる予兆を感じ取ったらしい精霊たちが、慌ただしく部屋の隅へと集まっていくのが見えた。
期待か、緊張か。何処からか、ゴクリと喉が鳴る音も聞こえた。
誰もが、精霊までもが、未知なる魔法に意識を向ける中で、ただ一人。
「amuzani」
一瞬、少年の瞳が剣呑に煌めいたのを、アレクサンダーは見逃さなかった。
それは、あの日。
行動を共にすることとなった王都で、一度だけ見せた嫌悪の眼差しと同じ色をしていて―――思い出す。
あの時、あの視線を向けられていた……男の事を。




