3:心配
「1つづつ、説明しよう。」
こほん。と、仕切り直すように落とされた咳払い。
改めて、王太子直々に為された説明は、ある程度アレクサンダーが予測していた通りの内容であった。
まずは、判明したナインクル・ベラドールの潜伏先。
その場所は、レディ・マルガレータが齎した情報の通りだった、とのこと。
「偵察に行かせた者達の報告によれば、我がモノ顔で、悠々自適に昼間から酒盛りをしていたそうだよ。」
まったく、許せないことだ。吐き捨てられた怒りにつられて、ヴレイブの周りが再び凍てついていく。
しかし、その空気を意に介さず、朗らかな口振りで遮ったのはあの少年、レノンバルトであった。
「それで、これからの話なんですが……貴方にはもう一人許せない存在が居ますよね?」
「……あぁ、居るな。だが、あの女はお前の家の」
「その問題はご心配なく。あれは、無関係ですので」
にっこりと、この短い時間の中で一番の笑顔を浮かべたレノンバルトに、怪訝そうな表情となるヴレイブ。
そんな2人を見守りながら、退屈だと寄ってきた精霊たちを隅の方で未だ凍えている仲間たちの方へ、温めてこいと向かわせていたアレクサンダーは、再び思うのであった。
(……やはり、この少年は彼女の血縁者なのだろうか?)
レノンバルトの説明によれば、もう一人は今、王都にいるらしい。
しかし、トゥルバの中でも辺境に位置する此処から王都までは馬を駆っても、二週間かかる距離だという。
「二週間、か。流石に遠いな。王都と言うのも手が出しにくい……」
「だから、僕が協力を申し出たんですよ。クロシュの王太子様」
「……?」
「僕はこれでも魔法使いです。それに……自分で言うのも何ですが、それなりに優秀なんですよ。」
正直な所、クロシュには存在しない魔法の効力をどれだけ信じていいかは分からない。
だが、アレクサンダーは一度、魔法が起こした奇跡を目の当たりにしている。
それと同時に、魔法を使用したことによる代償の存在も。
過るのは、やはり昨夜のこと。
一度使用しただけで蒼白になってしまった、あの少女の顔。
思わず顔を顰めてしまったアレクサンダーに、「どうしました?」と不思議そうに小首を傾げて見せたレノンバルトの、その仕草が。
彼女と重なり、抱いた懸念点はさらに増えていく一方で。
「……どういった、ものなんだ?君がしようとしている魔法とは。」
問いかける声音もつられて、苦虫を噛む潰したかのように暗く低いものへとなってしまう。
次第に眉根まで寄っていき、表情を険しくしていくアレクサンダー。
珍しく感情を顔に滲ませたアレクサンダーに、思わず二度見するヴレイブ。
その問いは想定していなかったのか。ぽかんと初めて年相応な反応を見せたレノンバルトは、「えっと……」と小さく、答えに迷っている様子で。
三者三様の沈黙が落ちた森の中、頭上を舞った一羽の鳩が気ままにあげた鳴き声だけがこだまするのであった。




