2:少年
勿論、分かっている。と、その場で鷹揚に頷いて見せたヴレイブは、「そうだった」と貼り付けるようにして浮かべた笑みで背後を振り返った。つられて、アレクサンダーもその方へ視線を送れば、其処に居たのは。
1人の少年だった。
全身をすっぽりと覆い隠してしまうほどの、宵闇が如く深い藍のローブを纏った、その子どもの面影は誰かに似ているような気がしたのだ。
チョコレートのように深い焦げ茶色の髪。
菫の花を思わせるような紫の瞳。
色こそは違えど、やはり、似ている。
少年のアレクサンダー達を見つめるその眼差しが。
(……あの少女に)
脳裏に過るは、昨夜のこと。
月明かりに照らされた、オレンジの輝き。
解けかけた三つ編みに、影が落とされた空色の瞳。
最後に見た、あのあどけない寝顔。
(さすがに、少女も目覚めた頃だろうか。)
そして、手紙には気付いてくれただろうか。などと、思い馳せかけていたアレクサンダーだったが―――不意に聞こえた小さな呟きが、その思考を遮った。
僅かに剣呑さを孕んだそれは、聞き慣れた王太子の声音にしては柔らかく。
しかし、少し離れたところで笑顔を保っている少年の口元が動いた気配も、ない。
それでも、確かに聞こえたのだ。
『なんで、お前が姉様の気配を纏っているんだ?』、と。
「彼は、レノンバルト・キール―――「今は、クリノンです。」」
パチンと、泡が弾けるように。主君の声に目の前へ引き戻される。
そんなアレクサンダーを他所に、少年を紹介しようとしたヴレイブを遮って、一歩前に歩み寄ってきた少年が、すっと手のひらを差し出した。
「初めまして、僕はレノンバルト・クリノンと言います。あなたが、アレクサンダーさんですか?」
他国の人間を前にしても、臆することのない態度。
そして、違和感一つなく発せられたのは、自国の言葉だった。
トゥルバとは大きく異なる特有の発音も完璧に再現されており、素直な関心を抱く。
それに、加えて。
温和で友好的な雰囲気を纏いながらも此方を見定めようと向けられた眼差しから伺える、警戒心の強さ。
それは、誰かを守ったことのある―――いや、今も守っているのだろう。そういった人間が見せる鋭さと同じだった。
「……如何にも。」
そのような印象を抱きつつ短く首肯し、その手に応えるアレクサンダー。
交わされたのは、握手である。それ自体はなんてことない、ありきたりな挨拶だ。
けれど。
少年の握り込んでくる力が、想定していたよりも強いと感じたのは。
――――きっと、気のせいではないのだろう。




