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「……君が望むのであれば。」


 僅かに、しかし、確実に。

 長い沈考の果て、こくりと喉元を揺らした男が頷く。


 けれど、彼女の心が安堵に晴れることは無い。

 寧ろ、此処からである。と、挑むような眼差しが男へ向けられた。


(……あぁ)


 男の肯定に、躊躇いが消えた少女の瞳。

 代わりに浮かぶのは、何度も戦いの場で目にしてきたものと同じ――。


 ――、己の全てをも掛けると決めた人間の覚悟だった。


(やはり、彼女は強い。)


 そして。


 痛みに耐え抜く、強さが。

 苦しみを乗り越える、強さが。


 男の目には、眩しく映ったのだ。


 依然、早鐘を打ち続けている心臓が、また不可思議な鼓動を奏でる。

 その内、破裂してしまうのではないか、と思ってしまうほど。

 勢いは増すばかりであるそれを、一先ずは落ち着かせようと……誤魔化そうと小さく咳払いした、男は少女に向き直る。 


「……それで、」


 『自分は何をすればいいのか』と。そう続くはずだった言葉(セリフ)は最後まで音になることは無かった。

 

 唇に触れた、柔らかい感触。

 次いで、鼻先を擽ったのは甘やかな……自分と掛け離れた、少女の香り。


 ―――何が起きたのか。理解しようにも、認識することを脳が拒む。


 一瞬の触れ合いが、男の時間を止めてしまったのだ。

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