a5:救いに希う男
単純な傷が痛みによるものなのか、それとも。
違う彼女の事情のせいだろうか。
胸のあたりできつく手のひらを握り締め、深い深呼吸を繰り返す少女。
思わず、小さく震える背中に手を伸ばしかけて―――直前で思い止まる。
(踏み込まないと、決めたはずだ。)
それに、今彼女は自分だけの力で、心を立て直そうとしているようにも見えた。
ここで手を貸すのは、寧ろ悪化させる要因になりそうだ―――と、冷静に考える片隅で。
自分が、彼女の苦しみを受け止めることが出来たら。などと、その強さを否定するような感情が、邪魔をする。
(……本当に、何なのだ。これは)
気を抜けば、飲み込まれてしまいそうだ。と、危機感を抱くほど、肥大化してしまった思いの渦。
そこにアレクサンダーは未だ、名前を見つけることが出来ないでいた。
(せめて、彼女にぶつけるような真似だけは、しないようにしなければ)
これが綺麗なものではない、と言うことは何となく分かるから。
少女が気付いてしまう前に、押し込めてしまわなければ。
その為にも、彼女が目覚めたときのように、自分は少し離れた場所へ移動しておこう。
と、立ち上がりかけたアレクサンダーの手を。
「……待って」
震えた声音が、引き留めた。
「お願いがあるの。」
深く、息を吐き出し吸い込んだ少女が意を決したように、顔を上げた―――その瞳が。
晴れた秋の空を思わせる爽やかな水色が、アレクサンダーに残されていた僅かな心のゆとりさえも塗り潰していく。
しようとしていた事なんて、忘れて。しかし、我を忘れてしまいそうになる衝動は、必死に引き留めながら。
少女に視線を留めたまま、再び固まってしまったアレクサンダーに、彼女は少しだけ顔を近付けた。
「私を助けてくれる?」
第二章・完




