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6:覚悟

 覚悟を決め、問いかけたというのに。

 いくら待てども、男から言葉が返ってくることは無く。

 

 沈黙が落とされた空間に、聞こえてくるのは屋根の上で踊る雨の音。

 そして、緊張で呼吸が乱れそうになる自分の息遣い、だけ。

 

(……私、間違えた?)


 居た堪れなさと遅れてやって来た気恥ずかしさに、あれこれと言い訳を並べることで奮い立たせて『いた』だけの心は、みるみる萎んでいくのが分かる。


(でも……でも……さ!……一言くらいは……!)


 合ってもいいのでは?

 

 と、少しだけ抱いた不満を勇気に置き換えて、俯きかけていた気持ちを再び奮い立たせる。


 その勢いが消えてしまう前に、もう一度聞いてみよう、と。

 ゆっくり男へ視線を戻しながらエリザベスの開きかけた、その唇から言葉が紡がれることは無かった。


 何故ならば、見てしまったからである。


 あれだけ頑なに合わせようとしてこなかった男の、瞳に滲んだ熱を間近で。

 その頬が―――薄っすら赤く染まっているのを。


(…………あ、)


 心臓が、嫌な跳ね方をする。

 つい最近まで、似たような色彩に怯えと嫌悪を抱いていたのも合って、思わず心に動揺が走ったのだ。


「……大丈夫か」


 ぐっと変な息の飲み方をしたエリザベスに、男は我に返ったようで。


 心配そうに寄せられた眉根の、下に浮かぶ薄氷にはもう、あの感情()は見えなくなっていた。


(……、あぁやっぱり、この人は……)


 あの男とは違う。

 それは、当り前のことだけれど。


(それに―――これからしようとしていることを、考えたら)


 僅かにでも、そう言った感情を抱かれているのは、良いことなのではないか。

 男の人とは、そういう気持ちにならないと難しい。とも、あの授業で先生が言っていたのだから。


 深く、息を吸って。ゆっくりと、吐き出す。

 大丈夫。自分は、大丈夫。今、やらなければ。時間は、もうないのだから。大丈夫。


 言い聞かせるように。疼き出した傷口を沢山の布で覆い隠すように。



 ――『(過去)』から、目を逸らした。

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