5:正体
不可侵の森を通り抜けた先にある『精霊の湖』―――。
男が言うには、そこをも超えた先にある国から来たのだという。
(不可侵の森に居たのは任務のため……だが、その詳細は明かせない……ね)
エリザベスにとって重要なのは、男が他国の人間であるということだけ。
正直な話、極秘任務を担っていることも打ち明けなくて良かったのに……とは思ったものの、嘘を吐くのが苦手そうな男である。濁したことにさえ、目を僅かにだが、細めているのだから。
(……つまりは、生真面目な性格。そして、極秘任務を任されるくらいには、上司?とかに信頼されている人)
あえて前向きに考えるならば、この人がエリザベスのことを他人に話す可能性は限りなく低いということ。
―――彼が自国に帰った際のことは、一先ず置いておくとして。存在が報告されたところで、縁も所縁もない国だろうし……。
(この小屋で一晩過ごすだけの関係―――ならば、後腐れはない……けど、)
体力を、と言うよりは身体の痛みを解消させるには、魔力を回復させてから、魔法を掛けるのが手っ取り早い。
回復させるだけならば十分な食事と睡眠を取ればいいだけの話だが、ここは不可侵の森。
今は大丈夫でも、何時魔物たちが襲ってくるか分からない場所なのだ。
出来れば早急に回復させて、怪我を癒し、明日の朝には此処を立ちたいところである。
(……ただ、その方法が……)
想像するのも憚れるやり方なのだ。
学園で受けた……運命の番授業によると、魔力を『最も』効率よく回復させるその方法は。
『他者から譲り受ける』ことである、と。
――――ただし、その為には肉体的な接触が必要である。と言うことも、教わった。
(幾ら切羽詰まっているかと言って、初対面の男の人に頼むのは……あまりにもハードルが高すぎる……し)
頬に熱が集まってくるのが分かる。
無意識に手繰り寄せていた布へ、顔を埋めることで隠そうとしたけれど―――鼻先を擽る自分のものではない香りに、鳴りを潜めていた鼓動が再び大きく跳ねた。
よく見れば、掛布の代わりとなっていたのは男物の外套……男に視線を戻せば、素知らぬ顔で炎に何かを投げ入れては、勢いが強くなり過ぎないように調整するを繰り返しているところだった。その恰好は、この雨の中だというのに、薄手のシャツ1枚である。
(……全然気づかなかった)
紳士的で、優しい人。
一つ、また一つとその一面を知るごとに、動揺と躊躇いに染まっていた心が上書きされていくのを実感する。
そもそもエリザベス自身には、清らかであり続けることに対するこだわりがない。
むしろ、あの男とのことを考えれば、早々に捨ててしまった方がいいような気もする。
繋がりが、この方法を取っただけで断つことが出来るとは思っていないけれど……
それに、『運命の番』が他の男と結ばれた時、『覚醒者』はどうなるのか。
(……興味がある。―――て、理由を作るのに必死ね、私。)
要は、覚悟が決まったと言う、話である。




