3:月夜
ぱち、ぱち……と、何かが燃え尽きるような音でエリザベスは目を醒ました。
まだ重たい瞼を繰り返し瞬きながら、クリアになっていく視界でまず目に入ったのは暖かなオレンジ色。
そして―――燃ゆる炎に霞んだその向こう側に鎮座する人影が一つ。
一瞬。爆ぜる赤に染まったその髪が、あの黄金と重なって見えた。
ひゅっと喉が鳴りかけるのを誤魔化すように、息を吐き出す。幸いにもまだ、男はエリザベスが目覚めたことには気付いていない様子。胡坐を掻いたその上で、何か長いモノを布で拭っていた。
(……あれは、)
以前、他国が舞台の物語を読んだ時に出てきた武器の一つ。剣と呼ばれるものに形状がよく似ている気がする。
(実物見るのは初めてだけど……間違いなさそう)
魔法が戦いの基本であるトゥルバには、そもそも武器と言うものがない。
当然、あの男が使用しているなど見たことも無ければ、聞いたことも無かった。
一つ可能性が無くなり、きつく結んでいた唇が緩まる。
心が落ち着けば、視野も広がるもの。
改めて見た男の容姿は見事なまでに、ベネディクトとは正反対であった。
炎で金に見えた髪は白銀。肩口まで伸びたそれを、紐で無造作に纏めているのが見て取れた。
真剣な眼差しに宿るのは穏やかな海の色。
だが、キリっと逆八の字を描く眉に、警戒する猫のように釣り上がった眦。そして、一文字に固く結ばれた薄い唇。伸びた影からでも分かるほどに鍛え上げられた体格も相まって、威圧的な印象を受ける。
(……まるで、月みたいな人)
気付けば、食い入るように男を見ていた。
エリザベスにとっての男性とは、父と弟、そしてあにか、あの男。
そして、好奇心を隠そうともしない傍観者達である。
ここまで纏う空気が冷たく厳しい男性を、見たのは初めてだった。
(――――、この人なら)
僅かに灯ったのは、期待。
男の正体は分からないけれど、恰好からして他国の人間なのは明確である。
加えて、見ず知らずの、それも泥にまみれていた女を助け、小屋まで運んでくれるようなお人好し。
(いいえ、まだ、決断を下すのは早い)
優先するは、男が信用出来る人かどうか。
でも、魔力が枯渇しているのも事実。
此処が何処かも、把握できていないのだ。
なるべく早く回復して、軌道修正を図りたい。
ズリ……ッ
焦りが無意識に握っていた布を手繰り寄せてしまい、静まり返った空間に衣擦れの音が響く。
仕舞った。
と、思った時にはもう、遅く。男の顏が、ゆっくりと此方に向けられるのが見えた。
咄嗟にもう一度寝たふりをしようとしたエリザベスへ、誤魔化しはもう通用しないと言わんばかりの凍てついた視線が射止める。
「…………観察は、満足したか。」
静かに問いかけるその声音が、想像していたよりも冷たいけど柔らかくて―――動揺と警戒に早鐘を打つ心臓の裏側で、この暖かさの訳をもっと知りたい、と手を伸ばしかけた自分に驚いていた。




