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a1:泥に沈む少女

 音の聞こえた方角を確かめながら、獣道を暫く進んで行く。

 やがて少し開けた場所へと辿り着くと、そこには予想通り、一頭の馬がいた。

 同じ場所をぐるぐる回りながら、時折足元を気にしている様子が見て取れる。


(馬具が一式、ちゃんと装着されている。しかし、近くに人の姿は見えないな。)


 ならば、あの馬の足元が一番怪しい。

 興奮を引き起こさないようゆっくりと斜め前まで移動し、その馬の目に己が移ったのを確認してから、さらに距離を詰める。一度鼻息は荒くなったものの、こちらが危害を加えることはないと判断してくれたのか、大人しくその場所を譲ってくれた。


「ありがとう。協力感謝する。」


 礼を伝えれば、いいから早くと言わんばかりに鼻先を背中へ押し当てられる。急かされるように馬の居た足元へ視線を向けると、やはりと言うべきか、泥にまみれた人影が横たわっていた。


(……だいぶ、小柄だな)


 それに荷物も少ない。少し離れたところに旅行鞄らしきものが一つ。

 何処からか、着の身着のままで逃げてきたのだろうか。

 泥水を吸い込んだせいで、元々の色が分からなくなっている服も、よく見れば―――


(……ドレス……ではないか!?)


 慌てて抱き起こした、その体は驚くほど軽く。

 しかしそれ以上に男が息を飲んだのは、露になったその顏がまだ幼さの残る少女のものであることだった。


「なんだってこんなところに……」


 ただでさえ魔物が蔓延るとされている地。それも雨が降っている中である。

 迷い込んだと考えるには簡単だが、少女の状況からして何か深い事情がありそうだ。

 

(訳アリ……か。だからと言って、このまま見過ごすわけにはいかない)


 蒼褪めてはいるが、呼吸はしっかりしていることを確認し直して、男―――アレクサンダー・ヴィルガツムは少女を抱えたまま立ち上った。

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