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落ちこぼれの宮廷魔導師、元英雄を飼う~私が拾ったのは、かつて世界を救った最強の人でした~  作者: 松村道彦


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第56話:信じる

 

 そうして、ウォードの無実を晴らすという新たな目標が出来た彼女は、あまりにも強過ぎる彼に引っ張られかのように、だんだんと自信というものと向き合い始める。

 彼女は無意識のうちに、自信とは驕りであると、偉そうにすることだと、自分のような存在が抱いてはいけないものであると、そう思い込んでいた。


 だが、ウォードと過ごすうちに、そんな無意識の拒絶反応はだんだんと薄れていく。

 彼は自信に満ち溢れていたが、決して他者を愚弄することはなく、バルガスやアキームの時も、フォルティたちの時も、人として誠実に向き合っていた。

 そして、彼が敵意を向けるのは、いつだって他人を慮れない相手だけであった。


 だからこそルウナも、フォルティたちを侮辱したフリークの前に出るなど、以前の彼女なら"私なんかが"と一歩引いていた状況で、前に出るという行動が出来るようになったのである。

 一人の人間として、そして宮廷魔導師として、自信を持って自らの持つ力を使うということは、決して驕りなどではなく、誰かを守るために必要な行動であると、彼女は彼からそれを学んだのであった。


 そして、そんな自信がなかった彼女には、ある秘密があった。

 それは、言ったところで誰にも信じてはもらえないだろうと、自分のような存在が会得出来るはずがないと、そう思って誰にも言わなかった秘中の秘。

 しかし、自分がやらなければ、ウォードと別れなければならないとなった今だからこそ、彼女はついに覚悟を決めた。


「私は…………魔法を使えるのです」


「な、なんと……!」


「なッ!?」


「魔法を!?」


「ほ、本当かねアークライト卿……!」


 そうして、彼女が予想した通りに全員が驚く中───


「くっくっくっ……だと思ってたぜ……ご主人」


「あ……」


 ウォードだけは驚かず、そう言って笑っていた。

 きっとそうだろうと、彼は気づいていたのだ。

 彼女の才ならばと、そう信じて。

 そんな彼の言葉と笑顔に後押しされるように、彼女は胸を張って前を向いた。


「……正直に申し上げて、私には自信がありませんでした。はたしてそれが魔法と呼べるのかどうか……私のような未熟者が会得出来るものなのかと……ずっと考えていたのです。ですが、私のそれが世界に及ぼす影響は、魔術の域を超えたものであると……今ならはっきりと断言出来ます。陛下、ルシフェル様……黙っていて申し訳ありませんでした」


 頭を下げる彼女に、二人は同時に頷いた。

 そして、謝る必要はないと、そんな眼差しを向ける。

 彼女もまた、それに頷いて応えた。


「して、ルウナよ……お主の魔法で、あれをどうにか出来そうか?」


「おそらく……あ、いえ! 必ず……必ずなんとかしてみせますっ!」


 アルタイル王は、ルウナの瞳をじっと見つめると───


「……あい分かった。此度の件、お主に託す」


 ただ一言、そう言った。


「はいっ!」


「おし、早速行くか……ご主人」


「えっ……ひゃあッ!?」


 背後からウォードの声が聞こえた直後、その脇に手がぬっと入る。


「ちょッ……!」


「じゃ、行ってくるわ」


「だからなんで脇をぉぉぉぉわぁぁぁぁぁあッ!?」


 そう言い残し、彼はルウナを掲げたまま、観覧室から飛び出して行った。



 ──────────────────



『えー……皆様……もう暫く───』


「おい! いつまでここにいりゃいいんだよ!?」


「まだ何かあるの!? もう帰りたいんだけど!」


 王の前で彼らが議論していた一方で、その場での待機を命じられた観客たちからは不満の声が漏れ始めていた。


『あー……もう暫く……もう暫くお待ちくださぁい! 間も無く運営からの発表が───』


「さっきも聞いたぞそれ!」


「いつになったら帰れるのよ!」


 必死に観客たちを抑えていたヤミーであったが、それも限界を迎え、もはやいつ彼らの感情が爆発するか分からないところまできていた。


「んなこと言っても私だってわけ分かんないんだっての! ガイン様もどっか行っちゃうし……!」


 口元から杖を外し、ヤミーはそう言って頭を抱える。

 彼女もまた、特に詳しい説明を受けておらず、ただ上の指示に従って行動しているだけであった。


「あー……もう私が先に帰っちゃ……お……?」


 そんなことを言いながら、ふと空を見上げた時であった。

 彼女が、それに気づいたのは。


『……何あれ』


 ほぼ無意識に、彼女は杖を口元に当て、闘技場内に声を響かせる。

 実況席から空を見上げる彼女につられるように、観客たちもまた一斉に空を見上げた。


「黒い塊……?」


「あれ……なんか……こっち来てないか?」


「ちょっと待てよ……俺さっきあれ見たんだ。あんなでっかくなかったぞ?」


「黒い点みたいだったのが……すげぇでかくなってる!」


「まさか……隕石?」


 ヤミーが"しまった"と思った時にはもう遅く、観客席のあちこちから様々な声が上がり始め、騒めきがどんどんと大きくなっていく。


『み、皆様落ち着いて───』


「やべぇ……どんどんでかくなってるぞ!!」


「おい逃げよう! こんなとこにいたら死んじまうって!」


「あ……やばぁ……」


 観客たちは慌てて立ち上がり始め、それが連鎖的に広がっていく光景を、ヤミーはただ見つめることしか出来ずにいた。

 もはや観客たちを止める術はないと、諦めかけたまさにその時───


『えッ……あ、あ、ご、ご覧くださいッ!! アークライト卿……が……? なんかよく分かりませんが抱えられて飛んでますッ!』


 両方の脇に手を入れられ、手も足もピンと伸びた状態の彼女が、狼型獣人(ウェアウルフ)に掲げられるようにして空を上がっていく。

 まるで十字架のようなその格好に、観客たちの頭の中には一斉に"なんで?"という文字が浮かぶ。

 そんな二人は十数万人の視線を一手に集めながら、そのまま闘技場の上空に浮かぶ透明な掲示板の上にゆっくりと着地した。


「着いたぞ」


「着いたぞ……じゃないですよッ! だからなんで脇ッ……あー! むずむずするッ!!」


 解放された瞬間、脇をパタパタさせながら憤慨する彼女に、ウォードはにこにこと笑いながら腕を組む。


「ま、これで緊張は解けたろ?」


「む……まぁ……はい……」


「よし。じゃ、あとは頼むな。俺はちょいと休ませてもらうぜ」


 彼はそう言いながら横になると、そのまま両手を枕がわりにし、仰向けの状態で足を組んだ。


「……めちゃくちゃ余裕ですね」


「ああ……ルウナがなんとかしてくれるからな」


「え、あ……と、当然ですっ!」


「ん、いい返事だ」


 二人は空を見上げる。

 黒い隕石は、もう目視でもしっかり捉えられるほどに大きくなっており、それが凄まじい速さで迫っていることを分からせていた。


「ねぇ、ウォードさん」


「ん?」


「さっき、私が魔法を使えるって言った時、全然驚いてませんでしたけど……気づいてたんですか?」


「いや……ルウナならそれくらいやりそうだと、そう思っただけだよ」


 そう言われ、ルウナは驚いたような表情を浮かべながら彼の方を見る。

 ウォードはただ真っ直ぐ、空だけを見つめていた。


「なんでそんなに……私のことを信じてくれるんですか?」


 彼女の問いかけに、ウォードは目を閉じて笑みを浮かべた。

 そして、目を開けて彼女を見ると───


「だって、ルウナは出来ただろ?」


 そう言って、やはり笑った。


「あ……」


「俺だけじゃない。ルシフェル様も、世界樹のおっさんも、フォルティもガインってやつも、そして王様も、みんな知ってんだよ……ルウナが、出来るってことを。だから信じる。信じられる」


 ルウナは、自身の胸の高鳴りを感じていた。

 そして、己の内から込み上げてくるその熱をも。


「ただ一人……それを信じて()()()()()やつがいた。言わなくても分かるな?」


「……はいっ」


 ただ一人、彼女だけが、己を信じていなかった。

 しかし───


「……自分のことを語るのは嫌いだが、今だけは言わせてもらう。俺の名はウォード=ヴォルニクス=ヴァンデンハート。かつて魔族を滅ぼした……世界最強の男だ。その俺が認めよう。ルウナ=アークライト……お前は今、魔導師の頂点にいる」


胸の高鳴りが加速する。

もう、彼女自身にも、抑えられないくらいに。


「お前のことを信じていないやつはもういない……今、この瞬間に消え去った。つまり、みんなお前を信じてる……ただ、それだけのことだ」


「はいっ!」


「ま、ミスったら俺が───」


「必要……ありませんっ!」


 彼女は力強くそう言って、胸の前で手を合わせる。

 そして、その手のひらから、彼女の杖の先端が顔を覗かせた。


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