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落ちこぼれの宮廷魔導師、元英雄を飼う~私が拾ったのは、かつて世界を救った最強の人でした~  作者: 松村道彦


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第51話:爆発

 

「ああ、私だ……ルシフェルだ。急ぎ負傷者を回収してくれ。それから、観客席を結界術でガードするんだ。そうだ急げ……時間がないぞ」


 再び会場が大歓声に包まれる中、ルシフェルは即座に念話魔術で指示を出していた。

 と、その時───


「あっ! 見てみろよおい!」


「え? あれって……」


「アークライト卿が飛んでるぞ!」


 観覧室から飛び出したルウナは、浮遊魔術で一直線にウォードの元へと向うと、そのまま彼の隣に着地した。


「ヴァンさん……!」


「ま、そういうことになった。心配すんな……上手くやるよ」


「わ、分かってますけど……もぉ、気をつけてくださいね?」


「ああ。フォルティを頼む」


「ええ、分かりました……あ、フリーク隊長」


 気絶しているフォルティを浮かせながら、ルウナは彼に声を掛けた。


「んん? おや、なんでしょう宮廷魔導師殿? まさか、今さらやめろなどとは言わないでしょうなぁ? 残念ながら、もはやあなたが何を言ったところで───」


「あなた、上手くいったとお思いなのでしょうが……それは大きな間違いですよ」


「……あ?」


「あなたは選んでしまった……自らの意思で、最も選んではいけなかった道を。でも、あなたのためにはよかったのかもしれません……では、さようなら」


 そう言ってぺこりと頭を下げると、ルウナはフォルティを連れて去っていく。


「……なんだそりゃ? 意味の分からねぇことを……まぁいい。とにかく、これでやっとてめぇを叩きのめせるんだからな。クックックッ……随分と舐めた口をきいてくれたよなぁ? もう逃げ場はねぇぞ? あらかじめ言っておくが、てめぇが泣いて謝ろうが俺は手を止めねぇぜ……死ぬほど後悔させてやるよ。身体中を粉々にして、二度と動けなくなるまで───」


「フッ……ありがとよ」


「あ?」


「俺もあんたには少々思うところがあってな……ちょいとぶちのめしたいなと、そう思ってたところだ。場を与えてくれて感謝するぜ。名前すら覚えられない……フリークくん?」


「…………ほざけカスが」


『さ、さぁッ! 急展開で少々ついていけませんでしたがッ……ここで改めてご説明をさせていただきますッ! 御前試合決勝は、両者が制限時間終了時に立っておりましたので引き分けッ! その決着を……両チームの上官でつけることとなりましたァッ!!』


『いやぁ……まさかの展開で、私も少々興奮してきました』


『私もですガイン様ッ! さてぇッ! それではお二人のご紹介をさせていただきますッ! まずはご存知このお方ッ……王都騎士団三強の一角ッ! 猛り狂う爆炎の漢ッ!! 三番隊隊長ッ……フリーク=シーディアァァァァアッ!!』


 拳を掲げ、フリークは不敵に笑う。

 しかし、その血走った眼は、ウォードを捉えたまま動かない。


『対するはッ! 魔導騎士隊の指南役ッ! 宮廷魔導師アークライト卿の魔導補佐官ッ……ヴァン=ノワールゥゥゥウッ!』


 歓声の中、ウォードは腕を組んだまま、彼の視線に笑みをもって応える。

 そして、微かに漏れ出た彼の魔力が、フリークのそれと混じり合うと、両者の間で激しい火花を散らしていた。


『ガイン様ッ……私はあの方を詳しくは存じ上げないのですが、いったいどのような方なのでしょうか?』


『そうですね……私も一度お会いしたくらいでして、詳しく知っている訳ではありませんが、ただ一つ言えることは……いかにフリーク隊長とはいえ、決して侮れない実力者であることは間違いありません』


『ガイン様がそこまでおっしゃるほどのッ……これは素晴らしい戦いが期待できそうですッ! それでは、これ以上お待たせするのもアレなので……早速始めさせていただきましょうッ! 本年は、まさに異例尽くしの御前試合となりました……その最後を飾るのもまたッ! 異例中の異例ッ!! 上官同士の一騎討ちッ!! はたしてどちらがその栄冠を掴むのかッ!?』


 ヤミーの言葉が進むにつれ、フリークの重心がだんだんと前へと移動していく。

 ウォードは腕組みを解き、手をだらりと下げ、素立ちのまま、ただじっと彼を見つめていた。

 そして、彼の尻尾が微かに揺れた。


『それでは二度目の決勝戦ッ……試合開始ィィィッ!』


 刹那、爆炎とともに粉塵が舞い上がり、フリークの姿が消える。

 それとほぼ同時、凄まじい轟音が鳴り響いた。


『なんッ……!?』


 実況席にいたヤミーも、そしてそれを凝視していた観客たちもまた、何が起こったのか分からぬまま、ただその音に驚いて耳を塞ぐ。

 闘技場の中心には、フリークが拳を繰り出した状態で立っており、その直線上にあった壁からは、まるで噴煙のような砂埃が上がっていた。


『ガ、ガイン様! 今何がッ!?』


『……フリーク隊長は爆炎を後方に放ち、一気に距離を詰めた後、その推進力を利用して拳を叩き込んだのです。彼はそのまま後方へと吹き飛ばされて壁に激突……まともに喰らってましたからね……もう止めた方が───』


『おぉッとォッ!? フリーク隊長が何かをッ……』


「ダメ押しだッ……!」


 フリークは両手を前に突き出すと、魔力を一気に練り上げる。

 そして、己の身の丈ほどはある巨大な火球を生み出すと、それをそのまま前方へと放った。

 それは地面に轍を作りながら一気に直進し、砂埃に飲み込まれた瞬間、凄まじい大爆発を引き起こした。


『と、とんでもないことになって───』


『ッ! フ、フリーク隊長ッ! それ以上は───』


「死ね」


 放った直後、フリークは再び火球を生み出し、それを躊躇なく撃ち出す。

 さらに、それを何度も繰り返し、その度に巨大な爆発と轟音が鳴り響いた。


「い、いかんッ……すぐに止め───」


「ルシフェル様……大丈夫ですよ」


 慌てて立ち上がるルシフェルを、ルウナはそう言って諌める。


「し、しかし、あれではもう……!」


「大丈夫です……あの人は。見てれば分かりますよ」


 困惑するルシフェルを余所に、闘技場では巨大な爆発音が何度も何度も響き渡っていた。


「ふはははははははははッ!! たかが獣人風情が……この俺をよくもコケにしてくれたなぁッ!? 死をもって償うがいいッ!!」


『フ、フリーク隊長ッ! ちょっ……結界が割れちゃいますぅッ!! もうおやめくださ───』


 その時だった。


「ッ!」


 舞い上がる粉塵の中から、ウォードはぬっと姿を現すと、自身に迫る巨大な火球を軽々と拳で弾き返してみせた。

 それはフリークが最後に放った火球とぶつかり合い、闘技場の中心で巨大な爆発を引き起こす。


『うぅッ!? い、生きていたァッ! あの猛攻をッ……ヴァン補佐官普通に耐えているゥッ!? さっきも言いましたがッ……いったいなんなんだあんたはァァァァアッ!?』


『し、信じられない……彼はいったい……!』


 歓声の中、ウォードはゆっくりと歩き続ける。

 その前方で、フリークはわなわなと身体を震わせ、憤怒の形相で全身に魔力を纏わせた。

 そして、腰に下がっていた魔石付きのセスタスを両手にはめる。


「どしたい……もう終わりか?」


「ほざけッ……!」


 再び爆発を利用した加速で一気に前へ出ると、フリークは左フックを繰り出す。

 それをウォードがバックステップで回避すると、フリークは前へと距離を詰めながら、続け様に右のストレートを放つが、ウォードはこれもまた身体を逸らして回避。

 尚も続くフリークの猛攻を、彼は全て華麗にかわしていき、それに比例して会場内が一気に盛り上がっていく。


「このッ……ぬぅらぁぁあッ!」


 左右のコンビネーションから放たれた、渾身の左ストレート。

 しかし、それもあっさりとかわされ、フリークの肩が大きく揺れ始める。


「てめぇッ……逃げることしか出来ねぇカスの分際でッ……!」


「なぁにを言ってんだか……当てられないあんたがへぼいだけだろうに。ほんと、なんでこういうやつらって、どいつもこいつも他責思考なのかねぇ……恥ずかしくないのか?」


「こ、こ、こ……殺すッ!!」


 再び前へと踏み込み、繰り出される渾身の右ストレート。

 しかし、簡単に避けられるそれをウォードは、あえて避けずに受け止めた。


「な……あッ……!?」


 しかも片手で。軽々と。


「ば、馬鹿なッ……!」


「軽いな……やっぱ、矜持も何もない拳なんざ、所詮……この程度だろうよ」


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