第49話:終幕
「やはり妙だな……なら、潰し合いといくか」
「ッ! まずいッ……!」
『ギャラード副隊長ッ! フォルティ隊長へは向かわずッ……他の隊員たちへ攻撃開始ィッ! 凄まじい速さで戦場を駆け抜けていくゥッ!!』
ギャラードが引っかかったのは、フォルティの強さが変動している点であった。
確かに彼女は強かったが、準決勝で見せた圧倒的な実力と比べれば、明らかにパワーダウンしている感は否めない。
その理由は不明だが、自身に対する挑発などを考慮した結果、わざわざ敵の思い通りに動く必要はないと判断した彼は、倒すのに時間のかかるフォルティではなく、簡単に倒せるところから攻める方向へとシフトした。
「あ、ああッ……皆さんが……!」
「あの野郎……やっぱり並じゃねぇな」
観覧室にいた二人は、ただその光景を見つめることしか出来ない。
ギャラードに次々とやられていく、魔導騎士隊の姿を。
「まさか……気づいたのか?」
「いや、そんな感じじゃねぇな。単純に、フォルティの挑発に違和感を覚えたんだろう……そういうことをするやつじゃないし。あとはあいつの強さが変わっていることとか……とにかく、やばい状況だ」
「ちぃッ……!」
対するフォルティも、もはやギャラードを止められないことを悟り、すぐに目標を変更。
三番隊の小隊を次々に落としていくが、彼の速さはそれ以上だった。
彼は遂に魔導騎士隊の五つの小隊全てを駆逐すると、そのままロドスがいる後方部隊へと狙いを定める。
『ロドスッ! 自身を強化しろッ!』
フォルティは念話魔術で彼に指示を出すが───
『……隊長、我々が時間を稼ぎます。その間に敵部隊の殲滅を』
『くッ……しかしッ!』
『我らの魔力……全てあなたに託します。倒れている隊員たちが残してくれた分も全て……隊長、ご武運をッ!』
『ロドスッ!』
念話を切り、ロドスは剣を引き抜く。
そして、迫るギャラードに向けてそれを構えた。
「いいかお前たち……一秒でも長く耐えろ」
「了解……へへっ! ま、教官の拳に比べたら……」
「二、三発は余裕でしょう!」
「フッ……いくぞッ!」
魔力を全てフォルティへと託した彼らは、その肉体のみでギャラードへと立ち向かう。
しかし、その結果は、もはや火を見るよりも明らかであった。
「ロドス……お前たちッ……!」
彼らが倒されるその姿に、フォルティは唇を噛み締める。
だが、彼らが稼いだ時間により───
『これは凄いことになったァッ!! 両エースが敵部隊を互いに殲滅ゥッ!! 残り時間三分でッ……立っているのは二人だけだァァァァアッ!!』
『いやぁ……まさに、決勝に相応しい熱戦ですね』
両者は周りを確認した後、互いに示し合わせるかのように、フィールドの中心へと歩き出す。
そして、二人は数メートルの距離を置いて向かい合った。
「……見事だ。フォルティ隊長」
「貴公も……ギャラード副隊長」
「では……」
「ああ……」
両者は構える。
そして───
「かぁぁぁぁあッ!!」
「はぁぁぁあッ!!」
ほぼ同時に踏み込み、互いの剣と剣が激突した。
『す、凄まじい剣撃ッ……フィールドの中央でッ! 互いの意地と意地がぶつかり合っているゥッ!!』
「ぎッ……ぐぐッ!」
「ほう……先ほどより……!」
全力で押し込むフォルティに対し、ギャラードにはまだ余裕があった。
「ぐッ!?」
ギャラードの蹴りが腹部に入り、両者の間に距離が出来る。
そしてそれは、ギャラードの大剣が有利な間合い。
「シィッ!」
刹那放たれる大剣による横薙ぎ。
風切音が鼓膜を揺らすと同時、フォルティは上半身を後方へと逸らし、文字通り紙一重でそれを回避する。
「ッ!」
───が、ギャラードは逆足で強く踏み込むと、瞬時に手首を返し、より深い間合いで再度逆方向からの横薙ぎを放っていた。
体動作でかわすのは不可能と判断した彼女は、瞬時に浮遊魔術を発動。
空中へ向けて大地を蹴り、そのまま上空へと身体を逃がした。
と、その時───
「───鳴動する焔の血……離るるは彼岸。来るは称賛。ただ願うは……その極致ッ……!」
「ッ! まずいッ……!」
今大会初となる、ギャラードの魔術詠唱。
それが何を意味するかを理解したフォルティは、さらに上空へと飛翔。
無茶を承知で自身も詠唱を開始した。
「白刃……それは、我が憧憬ッ! 彼方より願いし我が心象ッ! 撃ち滅ぼすは異形の群れッ! 灰燼に化すはッ……我が道に立ちはだかるその全てッ……!」
『ほぼ同時に魔術詠唱開始ィッ!! ここにきて魔術の撃ち合いだァァァァアッ!!!』
『時間的に……決着もあり得ます』
「フォルティさんッ……!」
「……ちッ」
観覧室から見つめる二人の表情が曇る。
しかし、時は止まらない。
そして、ギャラードは笑みを浮かべた。
「……ゆくぞッ! "栄光を焔閃に変えて"ッ!!!」
「届けッ……"魔を払うは一千の白刃"ッ!!!」
互いが互いに、必殺の魔術を同時に放つ。
そうして、両者の間で焔の閃光と無数の白刃が激突した直後、闘技場内全体に、高い金属音と雷光のような衝撃が走った。
『な、なんという撃ち合いだァァァァアッ! 拮抗しておりますッ! 空中で互いの魔術がッ……両者一歩も引かなぁぁあいッ!! ここで残り時間は二分を切ったァァァァアッ!!!』
「ぬぅぅッ!」
「かぁぁぁあッ!!」
無数の白刃を一点に集め、フォルティは力の限りそれを放ち続ける。
対するギャラードもまた、己の魔力を大剣へと注ぎ込み、巨大な焔の閃光をさらに押し込んでいく。
互いの意地と意地がぶつかり合い、両者の魔術は丁度その中間で激しく火花を散らしていた。
このまま時間切れまで続くかもしれないと、そう誰もが感じ始めていたその時、それを打破したのは───
「見事だフォルティ隊長ッ……よもや、これを俺に使わせるとは……!」
「ッ! はぁぁぁあッ!」
ほんの一瞬、ギャラードが放つ魔術の出力が落ちる。
ここぞとばかりに力を込めるフォルティであったが、彼はさらにその先を行っていた。
ギャラードは大剣を左手だけで握ると、腰に下げていたもう一本の剣を右手で引き抜く。
そして、その柄には、左手に握った大剣と同様、赤い魔石が埋め込まれていた。
「ッ! ま、まさかッ!?」
「野郎ッ……それほどの使い手か……!」
ウォードとルウナは気づいてしまう。
彼が今繰り出そうとしている、その奥の手の正体に。
「───原初の火よ……我が魂に眠る燻りよッ! 我が戦は火水なれば、火馳の如き移ろいより、ただ業火を持ってこれを滅するッ!!」
「二重詠唱ッ……!」
それは、同時に二つの魔術を発動する極技。
限られた才を持つ者のみにしか許されない、まさに英雄だけが使える大道不器そのものであった。
「な、なんだこのッ……さらなる熱はッ……!?」
フォルティは見えぬままに、その異変に気づいていた。
目の前で猛る焔の閃光とは別、何かが溢れ出すかのような、その凄まじい熱量を感じて。
「フォルティ隊長……実によいッ……戦いだったッ! はぁぁあッ!」
「う、うぅあッ!?」
「"折り重なる紅蓮の衝撃"ッ!!!」
二発目の魔術が放たれた瞬間、橙色の焔の閃光の周りを、幾重にも走る紅蓮の炎が、まるで螺旋を描くかのように昇っていく。
その圧力に耐えられず、フォルティの腕が段々と押し込まれ、肘が曲がり始めていた。
「ぐッ……ああッ…………わ、私は負けられッ……負けらないんだぁぁぁぁあッ!!」
最後の一雫まで魔力を捻り出し、彼女は必死に耐える。
だが、無情にも一千の白刃はその炎によって次々と砕かれ、まるで星屑のような煌めきを残して散っていき、そしてそのままフォルティを飲み込んで───
「う、うぁぁぁぁぁぁあッ!!」
彼女がいる空中で、凄まじい大爆発を起こした。
その轟音と衝撃波は闘技場を飛び出し、王都全体へと広がっていく。
『ぐぅぅッ!? 皆さん伏せてぇぇえッ!!』
「きゃあッ!?」
「ちぃッ!」
「な、なんというッ……!」
三人がいる観覧室の窓ガラスは粉々に砕け散り、闘技場全体が爆風によって激しく揺れる。
そして、やがて辺りが静かになった頃───
「無事か……ご主人」
「は、はい……あ、ありがとう……ございます……」
ウォードはルウナを抱きしめ、その背中で彼女を守っていた。
「ルシフェル様は大丈夫か?」
「ああ……なんとかな。そんなことより試合は……」
三人は窓から身を乗り出し、慌ててフィールドへと目をやる。
やがて煙が晴れる頃、フィールドの中央には───
『み、見えたッ! 見えましたッ!! 立っているのは……やはりギャラード副隊長だァァァァアッ!!』
「そんな……フォルティさんっ……!」
今日最大の歓声の中、武器を収め、右拳を高々と上げるギャラードに対し、フォルティは地面にうつ伏せに倒れて動かない。
「……フォルティ隊長。やはり、あなたは素晴らしい武人だった。だが、勝ったのは……俺だ」
地に伏せる彼女にそう告げ、ギャラードは背を向ける。
『大激戦終幕ゥゥゥウッ!! 熱い熱い戦いはこれにて終了ッ!! そしてぇッ! 今年の御前試合の優勝はッ……三番───』
その、刹那だった。
「ッ!」
『あッ!?』
ざわりと、彼のうなじに悪寒が走る。
それは、明確な死の予感。
ギャラードはその殺気に反応し、即座に大剣を引き抜くと、振り返りながらそれを打ち下ろす。
だが、それよりも疾く、フォルティの刺突が彼の目を捉え───
「なッ!?」
「……そこまでだ。二人ともな」
まさに刃が突き刺さる直前。
二人の間に、ウォードが割って入っていた。




