第48話:泥臭く
開始と同時、両チームは一気に前へと出る。
そうして互いの小隊同士が激しくぶつかり合う中、フォルティとギャラードはゆっくりと歩きながら、その魔力を体内で練り上げていた。
赤い鎧を身に纏い、大剣を背中から抜いたギャラードと、白い鎧に赤いマントを身につけたフォルティは、その腰から剣を引き抜く。
視線は外さず、そして恨みも怒りもない純粋な感情のまま、両者は互いが互いの間合いへと踏み入った。
「シィッ!」
「ぐッ……!」
直後、魔術で肉体を強化したギャラードの一振りを、フォルティはギリギリのところで防いで受け止める。
そのまま鍔迫り合いへと移行するが、両者は目を合わせたまま一歩も引かず、フィールドの中央で膨大な魔力がぶつかり合い、それが闘技場全体へと波及していった。
「……あれを受け止めるか。やはり、素晴らしい魔術だな……アークライト卿」
それを目撃したルシフェルは、ルウナに対し称賛の言葉を述べる。
「私はきっかけを作っただけです。あの魔術を使いこなしているのは……間違いなく彼らの努力の賜物ですよ」
単体の実力だけで言えば、残念ながらフォルティはギャラードに及ばない。
今の凄まじい打ち込みも、普段の彼女なら受け切れないものであり、それを可能としているのは、やはりルウナが生み出したある魔術によるものであった。
「互いを強化しあう魔術……か」
正式名称"分配式相互強化魔術"。
ルウナが作り上げたそれは、全員が魔術を扱える彼らだからこそ使える力。
三十九人での詠唱を必要とするこの魔術は、全員の魔力を一つにまとめ、中心となる術者がそれを必要に応じて分配し、強化するというもの。
一回戦と二回戦では、部隊の中でも一番頑強なペトラを先頭に、三角形の隊形の外側に打たれ強い隊員を配置。
そして、内側にいる隊員たちの魔力を外側へと分配することで、驚異的な防御能力を得た彼らは、敵の攻撃を防いだのちに反撃するという、いわゆるカウンター戦術で勝利を収めた。
逆に準決勝では、全ての魔力をフォルティへと集約。
その状態でのみ使用可能な白刃魔術によって、一番隊を一気に殲滅するという作戦をとり、この決勝へと辿り着いたのであった。
「効果は申し分ない。実際、準決勝での一撃も見事だった……だが、やはり彼が問題か」
「ああ……予定では、それで決勝もなんとかなるはずだった……あれがいなけりゃな」
そう。
準決勝まではまさに彼の予定通り、ほぼ完璧に近いものであった。
一回戦と二回戦があれだけ上手くハマったのは、敵の油断を加味した上での作戦構築だったこともあったが、敵の攻撃を受けた際に、風の魔術でわざと多く砂埃をあげて目眩しをするなど、彼らは細かなところで作戦の成功率を上げるための努力を重ねている。
無論ウォードが立てた作戦は、体力と精神力、そして何よりも鍛え上げられた打たれ強さがキモであり、彼らはウォードとルウナの指導のもと、実に忠実に鍛錬を行い、それに足るだけの力を得たからこそ、今この場に立つことが出来ていた。
だが、世の中には、そんな涙ぐましい努力をあっさりと凌駕する、天才と呼ばれる者たちがいる。
「ギャラード副隊長は、仮に誰か隊長が欠けた場合、まず真っ先に隊長へと推薦される傑物……まさに、今の時代が生んだ寵児と言っても過言ではない」
三番隊副隊長ギャラード。
これまでも語られてきた通り、彼はすでに副隊長という枠を超えた存在。
それは、三回戦を彼一人で突破していることからも明らかであり、今日この場に立つ誰よりも明確に彼は強い。
さらに言ってしまえば、観覧席で戦況を見つめる各隊の隊長、その内の数人よりも、単体の戦力だけで言えば彼の方が優ってすらいた。
「準決勝と同じことをすれば、あいつを倒すことは出来ると思う。ただ、その先が無理だ」
実際、フォルティに全てを集約すれば、ギャラードを倒すことは不可能ではなかった。
しかし、これはチーム戦。
フォルティに力を注ぎ込むことで、ほぼ無防備となった他の隊員たちが三番隊によって倒されてしまえば、仮にギャラードを倒せたとしても、力を使い果たした彼女一人では勝ちきれないとウォードは踏んでいた。
「うむ……で、君は彼らになんと?」
「ん? 俺はほら……便所に行っただけだから」
「……ヴァンさん?」
「おい……だからその目を細めた上目遣いをやめろって……あーもう分かったよ! ……作戦はシンプルだ。結局格上に勝つには、こっちの強みを押し付けるしかない。つまり、泥臭く、しつこく、耐えて耐えて耐え抜いて……立ち続けるしかねぇんだ」
「……なるほど。制限時間か」
ウォードはルシフェルに頷く。
御前試合は、対戦相手を全滅させるか、制限時間十分が経過した時点で、多く立っていたチームの勝ちとなる。
「確かにあいつを含め、三番隊は優秀な奴らが多い。これが実戦なら勝ち目は薄かったろうよ。だが、このルールなら分からねぇ。あとは、フォルティがどれだけ耐えられるか……それ次第だ」
三人の視線の先で、フォルティはギャラードに必死に喰らい付いていた。
だが、明らかに押されているその姿に、ウォードの手のひらに汗が滲む。
彼は三番隊の隊員構成、またこれまでの戦闘から、この決勝での配置を読み切り、五人小隊を五つと、十三人の後方部隊という分け方にするようフォルティに指示。
相互強化魔術の中心術者をロドスとし、後方部隊の指揮とともに彼に調整を託していた。
「十三人分の魔力がフォルティに乗っかってんのにあの野郎……超えてきやがるか」
現在、ロドスは自身も含めた後方部隊十三人の魔力をフォルティへと集約。
彼女はその力を使い、必死にギャラードを抑え込もうとしていた。
だが───
「ちぃッ……!」
フォルティは防戦一方となっていた。
強化された身体ですら、ギャラードは余力を持ってそれを超えてくる。
彼女の額には汗が滲み、肩で息をする回数が増えていた。
「あと七分ッ……」
彼女がちらりと時計を見たその時、試合が動く。
『おーっとォッ! ここで三番隊一気に攻勢に出るゥッ! 魔導騎士隊耐えられるかァッ!?』
ペトラ率いる小隊が、三番隊の複数の小隊に囲まれ、総攻撃を受けていた。
「ロ、ロドスさんッ! あたしにぃッ!」
「ぐッ……間に合えッ……!」
他の隊員から魔力をペトラへと集約し、一気に彼女の身体が強化される。
直後、ペトラは全身に力を込めた。
「隊長のためにッ……絶対勝つッ!」
「うッ!? こいつ急───」
「オラァァァァァァァアッ!!」
「がぼうッ!?」
「がはぁッ!?」
『ペトラ隊員の剛腕炸裂ゥッ!! 三番隊一気に五人が吹っ飛んだァァァァアッ!!』
拳に魔力を集めて放つ必殺の一撃により、三番隊の小隊を一つ壊滅させると、彼女はさらに前へと───
「ペトラァァアッ!!」
「えっ……」
フォルティの呼び声に反応したペトラの前に、その男は立っていた。
すでに、大剣を振りかぶった状態で。
「がッ……ふ……!」
「お前が次に危険だからな……悪く思うな」
『あーっと! ギャラード副隊長いつの間にかペトラ隊員へと迫っていたァッ! ペトラ隊員ダーウンッ! 魔導騎士隊のポイントゲッターがここで落ちてしまったァッ!』
「よし、後方部隊前に……」
ここが攻め時と判断したギャラードは、念話魔術で後方部隊へ前に出るよう指示を出そうとする。
だが───
『ギ、ギャラードさ……うわぁぁあッ!?』
「なッ……!」
頭の中に響く隊員の悲鳴に、ギャラードはすぐに後方へと視線を向ける。
そこに、三番隊の後方部隊を殲滅し、鬼の形相で自身へと剣を向けるフォルティがいた。
『これはフォルティ隊長ッ! お返しとばかりに三番隊の後方に控えていた部隊を粉砕ッ!! エースを抑えられるのはエースのみぃッ! かかってこいと言わんばかりの仁王立ちだァァァァアッ!!』
「……なるほど。俺が甘かったか」
ここまでで五分が経過。
小隊同士の潰し合いにより、魔導騎士隊の脱落者十八名に対し、三番隊は二十八名と、数の上でフォルティたちは優位に立つ。
だが、ここからギャラードはその真価を発揮するのだった。




