第47話:試合開始
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「…………わ、私は貴様に……憧れていた」
白き刃の雨が降り終わった後、剣を構えるフォルティの目の前で、地面に片膝を突いたアミナは、貫かれた肩を押さえながら悔しげにそう言った。
フォルティはそれに、どこか切なげな表情を浮かべて耳を傾ける。
「フッ……わ、私にとって……貴様は目指すべき目標……だからこそ、貴様が許せなかったッ……!」
彼女は、フォルティを尊敬していた。
何も飾らず、周りを気にせず、ただ己の信念のもと、目標に向けて突き進むそんな彼女の姿に、同性として畏敬の念すら抱いていたのだ。
当然、アミナの耳にも、彼女の嫌な噂は聞こえていた。
だが、アミナは誰がなんと言おうが、そんなものは一切信じなかったし、またフォルティも気にするはずがないと、彼女はそう思っていたのだ。
しかし、フォルティはあっさりと隊を辞めてしまった。彼女を残して。
しかも、彼女が隊を抜けたのが、御前試合で敗れた直後であったこともまた、アミナが彼女に失望し、敬愛が憎悪へと変わる一端となった。
さらにトドメを刺すように、フォルティは魔導騎士隊を立ち上げ、日々楽しそうに活動をし始める。
それを見て、"なんだそれは"と彼女は思った。
自分が尊敬していたものは、逃げた先で都合のいい居場所を作り、ぬるく楽しく生きることを選択した程度の存在だったのかと、そう彼女は思い、激しい憎しみと怒りを募らせていたのである。
「私は何にそんな憧れを……私は、貴様を許さない……許せないのだ……!」
「……そうか。なら、許さなくていい」
フォルティはゆっくりと彼女に近づいていく。
「所詮私は、己の夢を追うことしか出来ない……ただの変人だ。憧れを抱かれる価値などない。ましてや、お前のような……優秀な者にはな」
「い、嫌味か貴様───」
「ただ!」
語気を強め、フォルティは彼女の言葉を遮った。
そして、地面に膝をついて、彼女と同じ目線に立つ。
「今ならば分かる……私は弱かった。見ないようにしていただけだ。自分の心の弱さを……だから逃げた。すまなかったな……アミナ」
「ッ! 今更……何故…………あの時にそれをッ……」
「そう……もう遅い。だから許さなくていい。今、何を言っても言い訳にしかならん。故に、私は行動で示す……お前に、再び尊敬される為に」
笑顔で、フォルティはそう言った。
アミナは少し呆けた顔をした後、苦笑いを浮かべる。
そして───
「…………勝手にしろ。ヤミー……我らの負けだ」
そう言って、地面に倒れた。
『し、試合終了ォッー! 勝ったのは……魔導騎士隊ぃィィィッ! まさかの……いやッ! ここまできたらまさかではないッ! 堂々の決勝進出だァァァァッ!」
大歓声の中、フォルティは彼女に背を向け、フィールドを後にする。
そして、隊員たちを引き連れて入場口から待機場所へと戻る際───
「……む」
これから準決勝を戦う、三番隊と鉢合わせた。
道を開けようとしたフォルティの前に、隊を率いるギャラードが立ち止まる。
そして───
「フォルティ隊長……素晴らしい一撃だった」
そう言って、真っ直ぐに彼女の目を見た。
予想外の一言に、一瞬戸惑いを見せた彼女であったが、すぐに表情を切り替える。
「ありがとうギャラード副隊長……貴公にそう言って貰えて嬉しく思う。ご武運を」
「ああ……決勝で会おう」
そう言い残し、隊員を引き連れて彼は戦場へと向かっていった。
その背中を、魔導騎士隊の面々はじっと見つめる。
彼らは分かっていた。
このままでは、三番隊には勝てないと。
「おい、お前ら」
その声に慌てて振り返った彼らの前に、ウォードが立っていた。
「きょ、教官殿!? 何故こちらに……!」
「便所に行くって言って抜けてきた。つーか、んなことはどうでもいいからさっさと来い……作戦会議だ」
「は、はいッ!」
慌てて彼らへ駆け寄った彼らは、皆笑顔を浮かべて彼の言葉を待つ。
キラキラとしたその瞳に当てられて、ウォードは恥ずかしそうに目を逸らして頭を掻いた。
「まぁ、なんだ……ここまではよくやってるよ」
彼らの顔がさらにパァっと明るさを増す。
「あ、ありがとうございますッ! 必ずや……必ずやあなた方に勝利をッ……!」
「分かった分かった……だが、このままじゃ勝てないって、そう思ってんだろ?」
その言葉に、急に彼らの顔が曇り始める。
「お前らの感覚は間違ってねぇ。ギャラードっつったか……ありゃ別格だ。さっき見たから分かるが、はっきり言って今のお前らがどうこう出来る相手じゃねぇな……隊長クラスって言われてる意味がよく分かったよ」
「……はい。確かに、彼は傑物です。先ほど言葉を交わしましたが、心も備わった本物の武人でした。しかし……それでも勝たねばなりません」
フォルティはそう言って、強い瞳をウォードへと向ける。
彼はそれに頷き、腕を組んで目を閉じた。
「フォルティ……あれはお前が抑えるしかない。だが、さっきのやり方は通用しねぇぞ? 三番隊は他の隊員もクソ優秀だ。お前に力を集中すれば、他の奴らがやられちまう」
「はい……分かっております」
「よし。ロドス、後方部隊を形成して全体をカバーしつつ、力の配分をお前がコントロールしろ。おそらく、フォルティにそれをやってる余裕はねぇ」
「はっ!」
「ペトラ、お前がアタッカーだ。前に出て、とにかくぶちのめせ。ただ、全体を見て端から攻めろ。囲まれたら、お前でももたねぇぞ」
「はいっす!」
「よし……今から細かいところを詰める。お前ら円になれ」
「「「はっ!」」」
そうして、彼らが作戦会議をしている間に、三番隊と七番隊の準決勝が始まり、そして終わる。
御前試合決勝戦は、三番隊対魔導騎士隊に決まった。
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「ただいま」
「おかえりなさい……ずいぶんと、長かったですねぇ」
決勝戦開始直前。
ウォードが観覧室へ戻ると、ルウナがニヤニヤしながら彼にそう言った。
その顔に少しイラつきながら、ウォードは黙って彼女の隣へと座る。
「……なかなか出なくてな。大仕事だったんだよ」
「へぇ……そうですか」
「ご主人……その顔をやめろ」
『皆様ッ! 遂に……遂にこの時がやってまいりましたァッ!!』
地鳴りのような大歓声が上がり、観覧室の窓ガラスがビリビリと揺れる中、二人は視線をフィールドへと向ける。
彼らの運命が決まる、その戦いの場へと。
『それでは早速参りますッ! 選手入場ッ!』
その掛け声とともに、東と西の入場口から、二チームが同時に姿を現すと、観客席のボルテージは最高潮に達する。
『さぁ、はたしていったい誰が予想したでしょうかッ! 強豪チームを次々と打ち倒し、遂に遂にこの決勝の舞台までやってまいりました特別出場枠ッ! 負ければ解散、勝てば存続ッ! 己の居場所を守るため、今再びこの戦場で勝利を掴めッ!! フォルティ隊長が率いますッ……魔導騎士隊だァッ!!』
もはや、彼らにブーイングを送るものは誰もいなくなっていた。
割れんばかりの拍手と、その背中を後押しする大歓声に支えられ、魔導騎士隊の面々は開始線前で綺麗に整列し、直立不動でその時を待つ。
『続きまして……昨年の王者ッ!! 下馬評通りの圧倒的実力そのままに、ここまで全て完封勝ちで駆け上がってまいりましたッ!! 彼らにしか目指せないその偉業……史上初の連覇がかかる大一番ッ!! 立ちはだかるは最強の挑戦者ッ! 相手にとって不足なしッ! ギャラード副隊長率いる三番隊だァッ!!』
彼らもまた、大歓声の中を悠然と歩き、開始線前で一直線に整列した。
そして、魔導騎士隊はフォルティが、三番隊はギャラードが、それぞれ中央に立ち、互いに強い視線をぶつけ合う。
申し合わせたようなその形に、観客たちはさらにテンションを上げ、大歓声と拍手、そして足踏みによって会場が大きく揺れた。
『ガイン様……遂にきました。いかがでしょう』
『ええ。両チームとも、ここまで他を圧倒してきています。おそらく、歴史上でも類を見ない激戦となるでしょう。楽しみです』
『私も同じ気持ちですッ! さぁ、陣形整ったようですがッ……三番隊、魔導騎士隊ともに小隊をいくつか形成して配置ッ! 後方部隊の規模感も同じように見えますッ!』
『実力が伯仲してますからね。同じような結論に至ったのかもしれません。ほら、フォルティ隊長もギャラード副隊長も……同じ考えのようです』
両チームは五名で一つの小隊を五つ、残り十三名を後方部隊として配置。
そして残る一人、フォルティとギャラードは、互いに一人のまま、開始線中央で睨み合っていた。
『なるほどエース対エースッ……!』
『ええ。互いに実力者同士ですから、どちらかが崩れた時……この戦いは終わります』
『なるほどッ……それでは準備が整ったようですので、いかせていただきますッ!! 勝つのは王者かッ! それとも挑戦者かッ! 今ッ! 全てが決まりますッ!! 最高の十分間をッ……御前試合決勝戦ッ! 試合開始ィィィィィイッ!!!』




