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落ちこぼれの宮廷魔導師、元英雄を飼う~私が拾ったのは、かつて世界を救った最強の人でした~  作者: 松村道彦


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第46話:憧憬

 

 直後、観客席が大きくざわつき始めた。

 先ほどのフォルティとはまた違い、宮廷魔導師であるガインが発したその言葉を、観客たちは非常に重く受け止めたのである。


『本物の天才……ですか?』


『ええ。実は私、彼女に結構仕事を振っちゃってましてね……いやぁ、彼女優秀だから、つい甘えてしまってたんですよ。やってほしいこと以上のことをやってくれるので、調査書の清書とか魔術論文の手直し、それから生物学にも彼女明るくて、ついつい結構な量をお願いしちゃいまして……』


「……こいつもあの世界樹オヤジと一緒じゃねぇか」


 観覧室でそれを聞いていたウォードがそう呟く。

 その隣で、ルウナは少し嬉しそうな顔をしながら、ガインの話を聞いていた。


『で、つい先日知ったんですが、彼女にだいぶ負担をかけていたようで……いや本当に申し訳な───あ、これは今ここで言うことじゃなかった……えーっと、いったん忘れていただいて……とにかく彼女は、何かを完成させる天才なんですよ』


『完成……というと?』


『んー……たとえば、一を二にする……これは出来る人が結構います。もともとあるものを改良すればいいわけですから、そう難しいことではない。次に、〇を一にする……これはなかなか出来る人がいません。無から有を生み出すというのは、やはりそれ相応の才能が必要になる。ただ、別に質を求めないのであれば、割と簡単に出来てしまったりもします。そんな中で彼女は……〇を百にしちゃうわけです』


『な、なるほど……ただ生み出すだけでなく、その先まで考えて、最初から最後までを作り上げる……それが、ガイン様がおっしゃる"完成"というわけですか?』


『まさしくそうです。まぁ、それが出来るということは即ち、私の論文を完成させることなど朝飯前……すでに一が目の前にあるわけですから、彼女はそれを百どころか、なんなら一千くらいにしちゃうんですよ。これがもうたまらなくて……あ、失礼。とにかく、これからは自分で頑張ります……はい』


「ガイン様……」


 実況席でぺこぺこと頭を下げる彼を見ながら、ルウナは口に手を当てて涙を浮かべていた。

 褒められたことが嬉しいというのも当然あった。

 ただ、それよりも、自分が嫌われているわけではなかったということが何よりも嬉しかったのである。

 そんな彼女の様子を見ていたルシフェルは、少し迷った後に口を開いた。


「……アークライト卿。輪廻卿には口止めされていたのだが……君に伝えておきたいことがある」


「は、はい?」


「賢人会から数日後、彼が私のところに訪ねてきて、君のことについて相談があると、そう言ってきたのだ」


「ガイン様が……そ、それはどのようなお話だったのですか?」


「彼はこう訪ねてきた。"どうすれば彼女の汚名を晴らせると思いますか?"……とな」


「えっ……」


「ほぉ……」


「彼はフィールドワークが主でな。王都を空けることも多く、そもそも君に対する世間の評判自体知らなかったらしい。故に、君に仕事を振っていたのは嫌がらせでもなんでもなく、ただ君の仕事ぶりに惚れていただけ、だそうだ。それこそ、樹梢卿(じゅしょうきょう)と同じようにな」


「なるほどね……だから、いきなりあんなことを喋り始めたわけか」


「そうだ。私は彼に対し、彼女について、君が思う率直な感想を述べたらどうかと、そう伝えた。ただ、事件には触れずに、な」


「確かに……その方がいいな。下手に話すと、あいつ自身も批判の対象になっちまう。それは、ご主人が望まないことだ」


「ええ……その通りです。ありがとうございます……ガイン様」


 そう言って、頭を下げるルウナの先で、ガインはいまだ彼女について話し続けていた。


『───ですから、彼女が指導した彼らが勝ち上がってきたことに、私はなんの疑問もありません。準決勝も期待しています。勿論、一番隊にもね』


『分っかりましたぁッ! ガイン様ッ! 貴重なお話ありがとうございますッ! さぁ、アークライト卿への理解が深まったところで、両部隊とも準備が整ったようで……んんッ!?』


『……ほう、こうきましたか』


 ガインの話ですでにざわついていた観客席に、さらなるどよめきが走る。

 しっかりと隊形を組んだ一番隊に対し、その正面に立つ魔導騎士隊はというと───


『こ、これはいったいどういうことだぁッ!? ま、魔導騎士隊ッ! フォルティ隊長以外……全員正座で観戦モードォォォオッ! ま、まさかッ! フォルティ隊長一人で戦うつもりなのかぁッ!?』


「こ、これは……む……」


 その光景に困惑の色を隠せないルシフェルであったが、隣にいる二人がまったく驚いた様子を見せなかったことにより、それがあらかじめ決まっていたことを知る。

 そのルシフェルの視線に気づいたウォードは、彼の方を向いてニッと笑ってみせた。


「ま、先にやられちまったが、逆によかったかもしれねぇ……これはこれで面白い」


「君らは……どこまで?」


「……さぁな。種明かしは、最後の最後までしねぇ主義でね。んなことより見てみなよ……やっこさん、ブチ切れちまってるぜ?」


「………………殺す」


 ルシフェルが送る視線の先で、ギリッと歯を鳴らした一番隊副隊長アミナは、その目を血走らせていた。

 さらに、その強く握りしめた拳からは血が流れ、怒りによって全身が小刻みに震えだす。


「ど、どこまでぇ……どこまで侮辱する気だぁ……? あぁ? き、貴様はッ……!」


 それは彼女だけではなく、他の一番隊隊員たちも同様であった。

 そんな彼らから放たれる強烈な殺気を、フォルティはやはり無表情でさらりと受け流す。

 そして、さっさと開始の合図をしろとばかりに、彼女は己が魔力を全身にたぎらせた。


『ど、どうやら準備完了ということのようですッ! それでは参りましょうッ! 準決勝第一試合ッ……始めぇッ!!』


 開始と同時、やはりフォルティは一切迷うことなく、その足を前へと運ぶ。

 これまでと違うのは、それが彼女一人であるということのみ。


 広い闘技場のフィールドを、白い鎧を身につけた彼女が一人歩く様は、風に揺れるその美しい金色の髪と、短めの赤いマントも相まって、まるで本当に一人の英雄が悠然と歩いているような、そんな情景を観客たちへと抱かせた。


 それはまさに彼女の理想。

 幼き頃に描いた最強の魔導騎士そのものであった。

 それを体現するかのように、彼女は臆することなく、ただ前へ前へと歩き続ける。

 そして、それは当然のように、アミナの逆鱗に触れた。


「し、死にたいと……そういうことだよなぁあッ!? 総員構えぇッ!!」


 怒りに身を任せ、アミナは総攻撃の構えをとる。

 その直後、フォルティは駆け出した。


「ッ! う、撃てぇッ!!」


 アミナの号令に合わせ、一番隊から一気に魔術が放たれると、それは猛進するフォルティへと一直線に向かっていき───


『大! 爆! 発ゥッ! 一番隊の総攻撃が炸裂し───』


『いやッ……上ですッ!』


「なあッ!?」


 複数の攻撃魔術が着弾し、大爆発が起こる直前、フォルティは浮遊魔術を発動。

 そして、空高く舞い上がった彼女は、杖代わりの己がつるぎに全魔力を注ぎ込む。


「───白刃。それは、我が憧憬……彼方より願いし我が心象ッ! 撃ち滅ぼすは異形の群れッ! 灰燼に帰すはッ……我が道に立ちはだかるその全てッ!!」


 魔術詠唱とともに、白く輝く巨大な五芒星が、彼女を中心に展開される。

 そして、それが闘技場の空を埋め尽くした。


『こ、これはッ……荒れ狂う強大な魔力が空で暴れているゥッ!! いったい何が起こるんだァッ!?』


 それはかつて、世界を救った大英雄が、このアルタイルを救う際に使った魔術。

 フォルティにとって、憧れ続けた希望の光である。

 強大過ぎるその魔術は、彼女一人では発動することすら出来ない代物であった。

 しかし、今彼女は一人ではない。


「フッ……やるじゃねぇか……あいつら」


 空に輝く彼女を見つめながら、ウォードはそう呟く。

 そして、いつの間にか強く握っていた拳に気づくと、実に嬉しそうに笑うのだった。


「なんッ……だッ……この魔力はッ……!?」


 アミナは上空を見上げながら、ただ驚くことしか出来ずにいた。

 膨れ上がる魔力は嵐のように風を生み出し、迸る白い魔力はまるで雷の閃光を思わせる。


「許せアミナッ! 私は……私は己の道を行くッ! ぬぅらァァァァァアッ……!!」


 開いた左手を掲げた刹那、巨大な五芒星から大量の白く輝くつるぎが創出される。

 そして────


「ゆけッ……"魔を払うは一千の白刃アスプロリア・スパーティ"ッ!!!」


 闘技場に、白き刃の雨が降り注いだ。


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