第45話:大歓声
「えっと……」
ルウナはちらりとウォードを見る。
彼が頷くと、彼女はルシフェルにその魔術がどういったものかを説明し始めた。
「───という感じです」
「……なるほど。そうか……全員が魔導騎士だからこそ…………うーむ……」
内容を聞いたルシフェルは、なんとも腑に落ちた様子で顎に手を当てて唸り始める。
実際、それは非常に有用なものであった。
特に、個の力ではなく、数の力が求められる騎士団においては、その効率は極めて高いとルシフェルは考える。
しかし、その魔術には、魔術が使えない前衛職には適用されないという明確なデメリットも存在し、それを考えれば、現行の騎士団で採用することは難しかった。
つまり、その魔術を正式に騎士団へと落とし込むには、今の体制を変える他に道はない。
「ま、いろいろと考えてるとこ悪いが、その魔術はあいつらみたいに、お互いを心の底から信頼してないと使いこなせねぇぜ。そもそも、ご主人はあいつらのためだけにその魔術を作ったんだ。一人一人の特徴や魔力やらを計算して、誰が何を担当し、どう行動してどう発動するか……一ヶ月考えに考え抜いてな。だから、ほとんどあいつら専用魔術みたいなもんさ」
「むぅ、なるほど……」
「あいつらがこれだけの力を発揮出来たのは、基礎体力と精神力を引き上げ、とことん打たれ強さを鍛えたうえに、そのあいつら専用の魔術がぴったりハマった奇跡みたいなもんなんだよ。まぁ、ちょっと予想外の方向にも進んじまったが……副作用みたいなもんということで許してもらうしかないよなぁ……ご主人」
「はい……ちょっと申し訳ないですけど……いや、かなり……狂わせちゃいましたね……」
「んん……?」
何を言っているか分からず、困惑するルシフェルを尻目に、二人は同時にため息をついた。
と、その時───
『決着ゥッー! 勝者ッ! 一番隊ッ!』
「あ、終わっちまった……全然見てないうちに……」
「む、すまない……私のせいだ」
「いや、別にいいけどよ……二番隊の次は一番隊か。しっかしあいつらくじ運ねぇなぁ」
仮に一番隊に勝利すれば、順当にいって決勝で当たるのは三番隊となる。
つまり彼らは、三強と呼ばれるそれらを全員倒さなければ、初めから優勝出来ない位置にいたのであった。
「確かにな。む、そう言えば……先ほどは彼女がこちらへ来たが、声を掛けに行かなくてよいのかね?」
「……いいさ。もう俺らの出る幕じゃねぇ。な、ご主人?」
「はい。私たちがしてあげられることは全て託しました。あとは……皆さんに任せます」
「……そうか」
『それでは続きまして、二回戦第三試合を行いますッ! さぁ、遂に登場だッ! 前回王者ッ……三番隊入場ッ!!』
「お、来やがったか。お相手は……八番隊か。確か、お料理大好きとか紹介されてたけど……強いのか?」
「うむ。ヤサカ副隊長は斧使いとして有名でな。高い戦闘力を持っている。隊員たちも粒揃いであるし、総合力は申し分ない。だが……」
「三番隊のが、遥かに上……か」
「……そう言わざるを得ない。三番隊は特に武闘派揃いでな……隊員たちも一人一人が優秀なのだが、とりわけギャラード副隊長は頭一つ抜きん出ている」
「隊長クラスって言われてましたもんね……どれくらい強いんでしょうか……」
「ま、見てみようや……どんなもんかよ」
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『き、決まったぁッー! 三番隊……の、勝利ですッ!! 準決勝進出ゥッ!』
「ヴァ、ヴァンさん……」
「ふーん……なかなかやるじゃん」
それは、異様な光景だった。
三番隊の隊員たちは皆、開始位置から一歩も動いておらず、ただそこに立っていただけであった。
そして、フィールドの中央に一人で立つ、背中に大剣を背負い、真っ赤な鎧を身に付け、白く長い髪をたなびかせる男こそ、三番隊副隊長を務めるギャラード=メルニクスその人であった。
『い、いやぁ……ガイン様驚きましたねぇ……ま、まさかギャラード副隊長がお一人で全員倒してしまうとは……』
そう。
彼は開始早々、他の隊員たちに"動くな"と命ずると、単身八番隊へと突撃。
迫り来る集中攻撃を全て叩き落としながら近付くと、あっという間に八番隊を殲滅してしまったのである。
『そうですね。やっぱり、彼の間合いには入らないことにします』
『あ、あははっ! いやしかし、恐るべき強さでしたッ! 試合時間僅か三分……さすがは次期隊長と目されるお方ッ! 次の試合もご活躍期待しておりますッ!』
「つ、強すぎませんか?」
「うむ……去年より、さらに強くなっている。まさに個の強さ……剣技も魔術も、文句なく隊長レベルだ。はたしてどうなるか……」
「……ま、大丈夫だろ。なんとかなるさ」
ルウナは薄っすらと気づいていた。
その言葉が、半分本当で、半分嘘だということに。
『では続きましてッ! 七番隊と五番隊の試合を開始いたしますッ!』
両者の戦いは苛烈を極めたが、結果は下馬評通りに七番隊が勝ち上がり、これで準決勝に挑む四つの隊が全て出揃うこととなった。
準決勝第一試合、魔導騎士隊対一番隊。
準決勝第二試合、三番隊対七番隊。
頂点まで、あと残り二つ。
魔導騎士隊は、静かにその牙を研いでいた。
そして、準決勝で彼らは、元から知っていたウォードとルウナ以外、誰もが予想しなかった行動に出るのであった。
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『皆様ッ! お待たせいたしましたぁッ! それではただ今より、準決勝第一試合に挑みます……選手たちの入場ですッ!!』
観客席から歓声が上がる中、西の入場口で待つ一番隊は、全員が静かに集中力を高めていた。
その中でも、隊を率いる副隊長アミナは、間も無く訪れるフォルティとの決着に向け、目を閉じ、激情を必死に抑えながら、誰よりも深く息を吐いた。
『まずはッ! ここまで危なげなく勝ち上がってまいりましたッ……一番隊の入場ですッ!』
名を呼ばれた瞬間、アミナは目を開いて歩き出す。
彼女にとって、これは絶対に負けられない一戦。
その思いは、誰よりも強い。
『さぁ来ましたァッ! アミナ副隊長率いる一番隊の登場だッ! ここまで四番隊、十番隊をまさに完封ッ! 磐石の試合運びで勝利を納めております! そんな一番隊の特徴は、やはりその連携力の高さを生かした波状攻撃ッ! 隙を生まないその完成された連撃に、これまでの二チームはかなり苦しめられていたように思いますが、いかがですかガイン様ッ!?』
『そうですね。そして、それを作り出しているのは、やはりアミナ副隊長の統率力と試合運びの上手さでしょう。戦上手ですよ彼女は』
『確かにッ! この試合も注目してまいりましょうッ! さあッ! 続きまして……今大会のダークホースッ! 台風の目ッ! 波乱を巻き起こす嵐のような存在ッ……今回はどんな戦いを見せるんだッ!? 魔導騎士隊の登場だァッ!!』
「おっ……」
この時、一際大きな歓声が上がったことに、ウォードは思わず驚いて声を出していた。
「か、歓声がおっきいですねっ!」
「うむ……実際、彼らの戦いぶりは目を見張るものがあるからな。民衆の目も節穴ではない。運や偶然に頼ったものではなく、鍛え上げられた肉体と、その精神に裏打ちされた本物の強さ……彼らはそれに気づいたのだよ。加えて、フォルティ隊長による先ほどの宣言が、何かしら良い影響を与えたのかもしれないな」
「みなさん……頑張ってっ!」
そんなルウナの視線の先、彼らはいつも通りに綺麗な隊列を組み、一糸乱れぬ行進を見せると、待機線手前でピタリと止まり、フォルティだけが一歩前へと出る。
『おぉっとォッ!? フォルティ隊長が前に出ただけで地鳴りのような大歓声が巻き起こっているゥッ!! いつの間にこんな人気になったんだ魔導騎士隊ッ! まぁ、そんな私も実はファンになっておりますッ! さて、彼らは一回戦で十一番隊をッ! 二回戦ではあの三強の一角である二番隊をッ! それぞれまさに圧勝と呼ぶに相応しい戦いぶりで下しておりますッ!! ガイン様ッ! ここまでの彼らの戦いぶりについては、どう思われておりますかッ!?』
『いまだに分からないんですよね……彼らが何故あれだけ打たれ強いのかが。ただ、彼らの顧問はアークライト卿ですから、そこに何か秘密があるのかもしれません』
『と、言いますと!?』
『んー……この際だからはっきり申し上げておきますが……彼女は本物の天才です』




