第44話:証明
──────────────────
「な、何故……何故なのだ…………」
そう、青ざめた顔で呟いたのは、二番隊副隊長ギランであった。
彼は、剣も魔術も高いレベルで使いこなす、各副隊長の中でもギャラードに次ぐと言われるほどの実力者であっま。
『た、大変なことが起きております……優勝候補の一角……に、二番隊が…………』
彼もまた魔導騎士ではあったが、フォルティたちのことを一切認めておらず、やはり他の者同様、ただ逃げ出した落第者という認識でしかなかった。
だが、一回戦の戦いを見て、彼はその認識を改める。
彼らはおそらく想像を絶する努力をし、あれだけの力を得たのだろうと考えたギランは、もはや魔導騎士隊を格下とは思わず、持てる力を全てぶつけなければならないと、彼は部下たちにそう伝えていた。
しかし、彼らは王都騎士団の中でも上位に位置する存在。
そうは言っても、副隊長である彼も含め、皆心の中で同じようなことを考えていた。
"十一番隊は油断しただけで、まともに戦っていればああはならなかった"、と。
油断さえしなければ、普通に戦えば勝てる相手。
所詮は格下。脅威にはなり得ない。
と、彼らは考えていたのだが───
『も、申し訳ございませんッ……思わず絶句しておりましたッ! まさか、まさかこんな一方的なッ……ガイン様これは……!』
『…………強い』
───しかし今、二番隊でフィールドに立っているのは、副隊長ギランただ一人だけであった。
──────────────────
開戦当初。
二番隊は三十九名を十組に分けて配置し、開始と同時、一気に前へと出る。
これは二番隊の得意戦術であり、相手がバラけていれば四人の連携で一人を倒し、固まっていれば四人組が別の四人組と連携して囲んで倒すということを徹底することで、常に数の優位を意識して戦うというものであった。
また、十組がバラバラに行動し、かつそれぞれの隊に防御能力が長けた者を一人配置することにより、開戦当初の遠距離攻撃を防ぎやすくもするという、攻防一体の戦術でもある。
これに対し魔導騎士隊は初戦同様、三角形に隊列を組むと、一塊りになって行動を開始。
やはりただ真っ直ぐに、前へと進み始めた。
それを見た副隊長ギランは、すぐさまハンドサインで各小隊に指示を飛ばし、一塊りになっている彼らを十組で囲み、そこから魔術による遠距離攻撃を開始した。
初戦と同じく、爆炎と粉塵が舞い上がる中、しばらくしてギランは攻撃をやめさせ、そのまま様子を見る。
十一番隊のように不用意に近づき、反撃を受けることを警戒したのだ。
だが、今回はそれがまずかった。
噴煙巻き上がる中、当たり前のように攻撃を耐えていた彼らは、そこで三十九名全員が一斉に魔術を詠唱。
そして、それを周りを囲んでいる小隊全てに向けて一気に解き放った。
粉塵の中から突如放たれたそれらに虚を突かれ、十組中六組がまともに被弾。
その一瞬で半分以上の兵を失った二番隊は一気に劣勢となり、あとは初戦で敗れた十一番隊と同様、まるで波打ち際に作られた砂の城の如く、一気に抉られて崩れ去ったのであった。
「な、何故こうなった……何を……何をしたんだフォルティッ……!」
騒めきが続く闘技場の中心で、ギランは立ち尽くしたままそう叫んだ。
そんな彼の目の前には、フォルティを先頭に魔導騎士隊全員が、やはり綺麗な隊列を組んで並び立つ。
すると、フォルティはゆっくり歩き出し、そのまま彼の間合いへとすんなり踏み入った。
「ぐッ……!」
しかし、彼は剣を構えたまま動けない。
それは、後ろにいる隊員たちの動向も見なければならないためでもあったが、それよりも何よりも、剣を収めたまま無手で佇む彼女に、一切隙がなかったからに他ならない。
「……ギラン副隊長。我々と貴公の隊の違いは……たった一つだけだ」
フォルティは、ゆっくりと、そして穏やかにそう言った。
観客たちはいつの間にか、彼女の言葉を聞こうと口をつぐみ、今日始まって以来の静けさがそこに生まれる。
「な、なんなんだそれは……いったい何が違うというのだッ!?」
「至極簡単な話だよギラン副隊長。我々は、よい師と巡り会えた……ただ、それだけだ」
その言葉に、ギランは片眉を吊り上げる。
「よい……師……? アークライト卿が!? あれの何がそんなッ……!」
「そう……アークライト卿のことを貴公は知らない。だから分からない。理解出来ない。まぁ無理もない……ここにいる十数万人の中で、アークライト卿を真に理解しているのは我々と……もうお一方だけだからな」
意味が分からず、ギランはただ困惑した表情を浮かべながらフォルティを睨みつけることしか出来なかった。
その様子に、彼女は微笑むと、まるで諭すように再び口を開いた。
「……彼女は化け物だよ。自分が化け物であることを理解していない化け物だ。事実、無論訓練上のことではあるが、つい先日も我ら全員で彼女に挑み……結果、我々はなす術もなく全滅している」
「なッ……ば、馬鹿なッ!? ひ、一人でお前たち全員を……!?」
再び闘技場がざわつき始める。
ここまでの戦いで一切傷を負っていない彼らを、たった一人で全滅させるその力が、並大抵のものではないことは明らかであった。
「おや? 随分と我々の力を認めてくれているようだな。ありがとうギラン副隊長……実に光栄だ。だが、彼女は宮廷魔導師だぞ? それを忘れてはいないか?」
「ッ! あ、いや……そ、それはそうだがッ……!」
「そう……アークライト卿は勘違いをされている。あの事件のせいで、間違った伝わり方とその認識のせいで、異常に過小評価されているに過ぎない。王都の民もよく聞いておくがいい……彼女は傑物だ。私は真実を知っている。だが、誰も信じようとはしないだろう。故に、我らは結果でそれを証明してみせる。我らは彼女たちに救われた。故に、今度は我らが彼女を救う。残り二つ……我らは必ずや勝利し、ルウナ=アークライトの名を王都に轟かせてみせるッ! 無論ッ! 真の意味でなッ!!!」
フォルティは高らかにそう宣言する。
その凄まじい気迫と、全身から溢れ出す凄まじい魔力に、会場にいる全員が、誰一人として声を上げられなかった。
そんな静寂の中、フォルティはゆっくりと剣を引き抜くと、その切先を彼へと向ける。
「選べ」
そして、ただ一言そう言った。
「…………我らの……負けだ」
フォルティは剣を収め、彼に背を向ける。
「……我らは変わった。変えてもらった。そうでなければ、こうはなっていまい。貴公らも迷ったならば彼女に頼れ。そうすれば分かる。では、さらばだ……ギラン副隊長」
そう言い残し、フォルティたちは会場を後にした。
そして、静寂の中で───
『しょ、勝者……魔導騎士隊……!』
ヤミーの声が、人々の鼓膜をやけに重く震わせた。
すると、それをきっかけに会場が騒めき始め、闘技場に再び喧騒が舞い戻る。
皆、口々に話し始めていたのだ。
二番隊に勝利した魔導騎士隊の強さが本物であることと、それを指導したルウナのことを。
そして、その様子を観覧席から見ていたルウナは───
「……ぐすっ…………うぅ……」
ポロポロと涙を流しながら、一人拍手を彼らに送り続けていた。
「まぁた泣く……」
「ぐすっ……すません……もっ……泣きません……」
「……あんた、化け物って言われてたのに」
「…………まぁ、そこはちょっと引っかかりましたけど───」
『あの、ガイン様? 一つよろしいでしょうか?』
その時、実況席のヤミーが再び話し始める。
『私には分からないのですがその……彼らは何故あんなに……タフなんですか?』
そう。
この試合が始まってから、というより初戦から今の今まで、彼らはほとんどダメージを受けていない。
全滅ボーナスにより、オーダーの回復は入っているが、正直それを行う必要すらないほどの強靭さは、まさに異常という他なかった。
『んー……私も考えてはいるのですが……正直に言って分からないんですよ。さっきも少し話しましたが、彼らは防御系の魔術や、結界術を使っているようには見えない。ただ、魔力は感じます。魔道具の持ち込みは当然禁止されてますし、霊薬の類いも不使用なのは確認済みだと聞いておりますから、何かしらタネがあるとは思うのですが……うーん……』
『ガイン様ですら分からない何かがある、ということだけは分かりました……あ、準備が出来そう? 分かりましたぁッ! それでは二回戦第二試合、一番隊と十番隊の試合を間も無く開始いたしますッ! お手洗いへ行かれている方は───』
「……アークライト卿」
「はい?」
「彼らに魔術を教えたと……そう言ったな?」
「ええ、まぁ……新しいものを」
それを聞き、ルシフェルの目が大きく見開いた。
「あ、新しい……? 作成したのかね?」
「はい。皆さんが強くなるために」
「それは……いったいどういった魔術なのかね?」




