第43話:圧勝
粉々に砕け散る黒き刃のその先で、彼女がほくそ笑む姿を見たアルミディは、驚愕の表情を浮かべつつ、怒りに身体を震わせる。
振り切った大鎌を再度振りかぶり、次撃を放たんと魔力を練ったその刹那、フォルティはその時すでに、彼の懐へと入り込んでいた。
「なッ……がッ!?」
気づいた時にはもう遅い。
彼女が通り抜けるように彼の背後に立つ時には、アルミディの身体がくの字に折れ始めていた。
「……ぬるい」
そして、彼が地面へと倒れたその直後、観客席から大歓声が巻き起こる。
『剣! 撃! 一! 閃ぇぇんッ! フォ、フォルティ隊長の一撃が炸裂ゥッ!! アルミディ副隊長起き上がれなぁぁぁあいッ! と、とんでもないことが起きてしまったァッ!!』
『速いですね……流石はフォルティ隊長です。素晴らしい動きでした』
『はいッ! だがまだ終わってはいませんッ! 十一番隊がアルミディ副隊長の仇を討たんと猛り狂っているぞぉッ!』
フォルティに迫る十一番隊に対し、魔導騎士隊はすでに行動を開始していた。
「このやろッ……ぼぉうふッ!?」
彼女に迫っていた男が、突如ぶつかってきた何かによって弾き飛ばされ、地面に身体を何度か擦らせながら彼方へと飛んでいく。
それを見た十一番隊の隊員たちは足を止め、その巨大な肉の塊に目を向けた。
「蹴散らせ……ペトラ」
「……はいっす」
命じられた彼女は、目を赤く光らせながら、無表情のままに次なる獲物に目をつけた。
「ひッ……う、うわぁぁぁあッ!」
自身に迫るそれに、彼は怯えながらも剣の切先を向けて前へと出た。
しかし───
「がばどふッ!?」
突き出した剣は粉々に砕け、彼の身体もまた、高々と宙に舞った。
彼が地面へと叩き落とされた後、残る十一番隊の隊員たちは、それでも彼女へ向けて走り出す。
恐怖はあった。というより、アルミディを倒され、仲間が二人無惨に散った今、もはやその感情しかない。
だが、彼らは王都騎士団の精鋭。
敵前逃亡など、決して許されない。
だが───
「……その意気やよし。総員……殲滅せよ」
「「「応ッ!」」」
フォルティの号令に、隊員たちの目が赤く輝き出す。
そして、彼らは解き放たれた猛獣と化した。
「オラァァァァァァアッ!!」
「はごぉッ!?」
剛腕一閃。
魔導騎士隊の一人が放ったそれは、鎧を粉砕し、骨を打ち砕く。
その腹部への一撃に、十一番隊の隊員が苦悶の表情を浮かべながら崩れ落ちた。
さらに───
「ハッハァァァァアッ!!」
「ひぃぃあッ!?」
「わぁぁあッ!?」
また別の隊員は、剣に風を宿し、一振りで巨大な風の刃を放つと、それに巻き込まれた者たちが軽々と吹き飛ばされ、そのまま続々と動かなくなっていった。
さらにさらに───
「ダッシャァァァァァアッ!!」
「ヒィァァァァアッ!!」
「キヒャァァァァァアッ!!」
奇怪な雄叫びを上げながら、ロドスを含めた複数の隊員が同時に魔術を繰り出し、遠方にいた遠距離部隊に、ありとらゆる属性の魔術の雨が降り注ぐ。
「た、退避───ぎゃぁぁぁあッ!?」
「ひいッ!? ごばあッ!?」
「う、撃ち返ッ……撃ち返せぇッ!!」
多くが被弾し、続々と倒れる中、それでも反撃する彼らだが、魔導騎士隊はそれを軽々と弾き返し、何度も何度も魔術による攻撃を放ち続ける。
「邪魔っすよぉぉぉおッ!!」
「あばぁッ!?」
「こいつなんも効かなッ……がっばぁッ!?」
フィールドを縦横無尽に走り回るペトラに、次々に薙ぎ倒されていく十一番隊の残存兵たちは、もはや抵抗する気力すら失い、ただ呆然と仲間たちが、そして自分がやられるその時を待つことしか出来なかった。
『な、なんという光景でしょうかッ……! わ、私は今までこんな試合を見たことがありませんッ! こんな一方的な蹂躙は……いったいなんなんだ魔導騎士隊ッ!! 今まで君たちはどこで何をしていたんだぁッ!?』
『これは……決まりですね』
「み、みんな……はっ!?」
やがて最後の一人の前に、フォルティは静かに立った。
その背後には、赤く目を光らせる魔導騎士隊がずらりと並び立ち、残された一人は涙を浮かべながら身体を震わせる。
「あ……ああ……な、なんなんだ……なんなんだよお前らはぁぁあッ!」
その問いに、フォルティは笑みを浮かべ───
「……決まっている。我らはリベルタス魔導騎士隊。魔導騎士が最強最高であることを証明しにきた……叛逆の復讐者なりッ!!」
「ひッ……わぁぁぁぁあッ!」
そうして、最後の一人がフォルティの一撃によって倒れると、凄まじい地鳴りのようなそれが巻き起こった。
『け、け、けッ……決着ゥッー!! 圧勝圧勝圧勝ォッ! 十一番隊を全て蹴散らしッ! 勝ったのは……リベルタス魔導騎士隊だぁぁぁぁあッ!!』
「一同ッ……敬礼ッ!」
バッと、綺麗に整列した彼らが、完璧な敬礼を見せると、会場はさらなる大歓声に包まれる。
そして、彼らの視線の先は───
「あの馬鹿ども……俺じゃなくて王様にやれって……」
頭を抱える、ウォードの姿があったのだった。
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「……アークライト卿、君は……彼らに何をした?」
魔導騎士隊が退場し、十一番隊隊員たちの回収作業が行われる中、暫し呆然としていたルシフェルは、ようやく我に返ると彼女にそう尋ねた。
「わ、私は魔術を教えただけで、ああなったのはほとんどヴァンさんが……はい……」
「ヴァン魔導補佐官……」
「特別なことは何も。ただ鍛えてやっただけさ。あいつらに必要なもんをな。言っとくが、あいつらはまだまだこんなもんじゃないぜ?」
「まだ……先があるというのか?」
「ああ。今のはただ力任せにぶちのめしただけだ。相手が弱かったんでね。ただ、次はそうはいかねぇ」
ルシフェルは、上空にある掲示板へと視線を移す。
そこに、彼らの次なる相手が表示されていた。
「第二シード……二番隊か」
五年連続準優勝。
三強の一角、王都騎士団二番隊。
それは、間違いようのない強者であった。
「今のを見て、ここにいる全員が知った……あいつらの強さをな。だが、まぁ関係ねぇな……きっとまた、面白いもんが見られるよ。ま、楽しみにしてな」
「う、うむ……」
「教官殿ォッ!!」
「なッ!?」
「えぇッ!?」
バンッと開いた扉から、先ほどまで下にいたフォルティが顔を出す。
「フォルティ隊長……な、何故君がここに……!」
「あ、ルシフェル様! 申し訳ない! 居ても立っても居られず……無理を言って私だけ入らせていただいたッ! 謝罪は後ほど正式に!」
「あ、いや、それは構わな───」
「教官殿ッ……い、いかがでしたか!? 私たちはッ……教官殿とアークライト卿に恩を少しでも返せたでしょうかッ!?」
心配そうに眉をひそめ、フォルティは彼の返事を待った。
「……ま、ちょっとだけな」
そう言って、微かに笑みを浮かべる彼を見て、フォルティの顔がみるみる笑顔へと変わっていく。
「だが、まだまだだ。さっさと優勝してこい」
「は、はいッ!! 必ずや……必ずやあなた方のために優勝してみせますッ!!!」
「馬鹿野郎……自分たちのために勝て。行ってきな」
「フォルティさん! 頑張って!」
「……はいッ!! 行ってまいりますッ!」
バタンと勢いよく扉を閉め、フォルティは走り去っていった。
ウォードは前へと座り直すと、隣に座るルウナと見つめ合った後、にっこりと笑った。
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その後、試合は順当に進んでいき、第二試合の一番隊対四番隊は、当然のように一番隊が勝ち、第三試合の十三番隊対十番隊は十番隊が勝利して二回戦に駒を進めた。
そして、トーナメント表は反対の山へと移り、一回戦第四試合は十二番隊と八番隊が激突して八番隊が勝ち上がり、第五試合では七番隊と九番隊が当たり七番隊が、一回戦最後となる第六試合では、五番隊と六番隊が激しく争い、結果五番隊が勝ち残ることとなった。
これにて一回戦が全て終了し、初戦以外は特に大きな波乱はなく、結果だけを見れば実に順当なものであった。
二回戦に駒を進めた八つの隊。
そして、二回戦の初戦は、二番隊対魔導騎士隊。
選手たちが入場し、間も無く始まるというその時、観客たちは皆、魔導騎士隊の強さは理解しつつも、さすがに二番隊の圧勝だろうと、そう考えていた。
だが、そんな考えは数分後、粉々に打ち砕かれることとなるのであった。




