第32話:魔導騎士隊
「あっ……じ、自己紹介がまだでした! 改めまして、私はルウナ=アークライトと申します。こちらは私の補佐官で、ヴァン=ノワールです」
「ヴァンだ。よろしく」
と、とにかく話を聞いてから考えよう。
なんとなく……ちょっと嫌な予感がするけど。
「アークライト卿とヴァン殿だな。よろしく頼む」
「あ、リベルタス隊長、私のことはルウナで結構ですよ。長くて呼びにくいでしょうし」
「そうか? では、お言葉に甘えてルウナ殿と呼ばせてもらおう。それであれば、私のこともフォルティで構わない」
「あ、では、フォルティさんと呼ばせていただきます」
「うむ! ぐっと距離が縮まった気がするな!」
……ちょっと変わってるけど、本当にはっとするほど綺麗な方だ。
外見だけではなく、内面も凛々しくてかっこいいというか、同じ女性として、こういう人にはすごく憧れる。
だからこそ、なんであんな噂が流れているのか……よく分からない。
「さ、二人もご挨拶を!」
「では、あたしから! リベルタス魔導騎士隊隊長付きのペトラ=ミュースっす! 身長は二メートルぴったり! ペトラと呼んでください! よろしくお願いしますっす!」
に、二メートル! おっきい……全部が。
オレンジ色の長い髪の毛量もすごくて、まるでたてがみのように見える。
「私はロドス=アルドミラと申します。副隊長を務めておりますので、何かあれば私にお申し付けください。よろしくお願いいたします」
メガネをクイッと上げながら、細身のロドスさんにそう挨拶をされる。
ペトラさんはフォルティさんのお付きで、ロドスさんが副隊長か。
ひとまず、このお二人が魔導騎士隊の上官さんってことかな。
「分かりました。お二人ともよろしくお願いします」
「では、自己紹介も済んだところで、早速我々の話を聞いてほしい。さ、座ってくれ」
私たちが並んで座ると、三人も長机を挟んだ反対側に、フォルティさんを真ん中にして座った。
「さて、まずは魔導騎士隊設立の経緯から説明しよう。まぁ、と言っても話は単純だ! それは───」
…………すっごい溜めてる。
そして、何故かキラキラした瞳でこっちを見て……あっ!
「そ、それは……?」
私がそう聞き返すと、フォルティさんはものすっごく嬉しそうな笑顔を浮かべる。
こ、これを待っていたんですね。
「そうそれは……魔導騎士がかっこいいからだッ!」
「………………ん?」
え? それだけ?
ちょ、ちょっとよく分かんな……えっ?
「ぐっ……ぎっ……!」
ウォードさんは隣で変な音を立てながら、必死に笑い声を抑えていた。
わ、笑うところだったのかな……?
「……ま、魔導騎士はかっこいいから……その、作りました……」
ろ、露骨にテンションが下がっている……!
え、これっ……わ、私が悪いの!?
どう返すのが正解っ……分かんないよぉ!?
「いや、いいんじゃねぇか? くっ……お、俺も好きだぜ魔導騎士……ふふっ……!」
「そ、そうだろう!? 私は昔から魔導騎士に憧れていたのだ! それもあって王都騎士団に入ったのだが、ちょっと想像と違っていて……だからルシフェル様に直談判して、この魔導騎士隊を立ち上げた! まぁ、なかなか大変だったよ……これまでの道のりは……」
「は、はぁ……」
なんか、遠くを見つめてる。
ど、どういう感情の顔ですかそれは?
「騎士団がやらないような仕事をやったり、街に奉仕活動をしに行ったり……そうしているうちにだんだんと人数も増え、みんなでとにかく実績作りを頑張った結果、ようやく正式な部隊として認められる一歩手前まできたのだ!」
やっぱり……まだ正式には決まってないんだ。
でも、そこまで辿り着くには、きっと相当な苦労があったんだろう。
新たな部隊を設立するなんて、なかなか出来ることじゃない。
もちろんそれは、彼女の出自も関係しているのだろうけど、それでも凄いことだと私は思う。
「この二人は、そんな私に最初からついてきてくれた戦友だ! ありがとう! お前たちッ!」
「隊長……よかったですね……うぅっ……!」
ハ、ハンカチがすごく小さく見える……。
「ぐすっ……ああ……メガネが曇って……何も見えません……」
ふ、拭いたらいいんじゃないですかね?
「そして本題だッ! 毎年恒例となっている王都騎士団の御前試合……これに参加し、見事優勝することが出来れば、魔導騎士隊が正式に部隊として認められることとなった! 人数の上限は三十九人までと言われている以上、我々が戦力を向上させる方法はただ一つ……個々のレベルアップしかないッ!」
三十九人……十三の倍数か。なるほど。
確か、騎士団の小隊の人数も同じだったはずだ。
……というか今、優勝って───
「だからこそ、宮廷魔導師殿に顧問と指南役をお願いしたのだ! しかし、一向に誰からも色良い返事がなく、諦めかけていたまさにその時ッ……あなた方をルシフェル様が推薦してくださったのだ! まさに僥倖! 望外の極致ッ……あなた方にはもう、感謝しかないッ……!」
「あ、はい……よかった……です……」
「ぐぎぎっ……くくっ……!」
……なんでこの人はさっきから笑ってるんだろう。まったく笑えない私がおかしいのだろうか。
優勝って言ってたよね? 優勝って……!?
「で、早速だが、挨拶も兼ね、午後の鍛錬から我らを見てもらいたい。どうだろうか?」
「あ、そ、それは問題ありませんが……いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
「無論だ! なんでも聞いてくれたまえ!」
さて、まずは───
「正式な部隊ではないということは分かりましたが、今の所属はどうなっているのですか? また、普段はどんなことを?」
「うむ! 現在は王都騎士団に属してはいるが、一から十三のどの隊にも属さない、独立遊撃隊として活動をしている。先ほども触れたが、普段は騎士団が通常やらないような雑務をこなしたり、手が足らないときに騎士団から魔物の討伐依頼が回ってきて、主に王都から遠く離れた町や村に行ったりもしているな!」
……厄介ごとを回されている感じか。
やっぱり……私と似たようなものなのかもしれない。
「わ、分かりました。では次に、魔導騎士隊はその名の通り、全員が魔導騎士という認識でよろしいでしょうか?」
「その通りだ! 剣も魔術も使う……それが魔導騎士! まさに最強の存在だッ! あ、いや、騎士や魔導師がダメとか言ってるわけじゃないからそこはその……」
「だ、大丈夫ですよっ! 分かってますから……」
「くっくっくっ……!」
あ、分かった。
この人……私が慌ててるのを見て笑ってる。
ほんと嬉しそうに……。
「ん? どうしたご主人……歯でも痛いのか?」
……睨んでるんですよ。
あなたの笑顔が私をそうさせているのです。
あ、そんなことを気にしてる場合じゃなかった。
嫌な予感がするけど、念のために確認しておかないと───
「最後に一つ、もし仮に……その、優勝出来なかったら……どうなるのでしょうか?」
「はっはっはっ! そんなことはあり得んが、ルシフェル様にはこう言われている……即時解散となッ!」
ぐ……やっぱり……!
部隊の新設なんて、そう簡単に出来ることじゃないとは思ってたけど……予想通りそういう話か。
いや優勝って……これはかなり厳しい……。
「そうですか……とにかく、お話は分かりました。では、午後からみなさんの様子を見に伺いますので、その時にまたよろしくお願いします。あ、あと、御前試合の詳細を知りたいので、後でまたご説明をお願いするかもしれません」
「あ、でしたら……これをどうぞ」
ロドスさんから一枚の紙を渡される。
そこには、表題に"今期の御前試合について"とあった。
「そこにだいたいのことが記されています。あとの細かい部分は、また聞いてくださればいつでもお答えを」
「分かりました。ありがとうございます。では、いったん失礼しますね」
「うむ! よろしく頼む……ルウナ殿! ヴァン殿!」
「はい。それでは……」
──────────────────
「うーん……」
自室に戻った私たちは、二人で私の作ったお弁当を食べていた。
先ほどの話を思い返していたせいか、どうにも食事に集中出来ない。
「どうしたご主人……もう食わねぇのか?」
「食べますよっ! もぉ……人が悩んでるのに……」
そんな私に、ウォードさんは容赦なく突っ込んでくる。
この人はどうしていつもこうなのか。
「悩んだって仕方ねぇよ。もう引き受けちまったんだし、やれることをやるしかねぇさ」
「いや、それはっ……そうなんですけど……」
確かに彼の言う通りではあった。
しかし、まさか御前試合に出るための指導なんて思ってなかったし、そもそもフォルティさんが依頼主とは知らな……いや、そこはあまり関係ないか。
あと、予想はしていたけど、まさか本当に全員が魔導騎士だなんて……おまけに優勝出来なかったら即時解散……前途多難とは、まさにこのようなことを言うのだろう。
「ま、とりあえず、気になることを話してみなよ。俺が答えられるかは別としてな」
「……じゃ、聞きますけど、ウォードさんは魔導騎士についてどう思いますか?」
「ん? 中途半端なやつ」
「ほらもぉ……!」
予想通りの答えが返ってきて、私は頭を抱え込む。
そうなのだ。
ルシフェル様が以前話されていたように、前衛と後衛という役割分担は、現代戦術における一つの解となっている。
騎士や戦士、剣士に闘士……戦闘方法や呼び名は様々だけど、とにかくそういった前衛が文字通り前にいることによって、後衛である魔導師は強力な魔術を安心して詠唱することが出来るのだ。
それに対して魔導騎士は、基本的にその両方を自分でこなさなければならず、相手が前に出れば下がり、逆なら前に出たりと、常に高度な状況判断と、正しい行動選択が求められる。
加えて、両方の練度が高くなければ、特に役割と連携が重要な集団戦闘においては、ただの騎士と魔導師の劣化になってしまう。
だから中途半端……剣術と魔術の両方を極められる自信と実力があるなら目指してもいいかもしれないけど、基本的にはどちらか一つを極めた方が遥かに効率的かつ現実的だ。
「確かに強い奴の中には、近接と魔術……どっちもいける奴はいるよ? ただ、そんなのはマジで一握りで、基本的にはどっちかを極めた奴の方が強いんだよな。魔導師殺しって言われてた剣士を知ってるが、そいつは一対一であれば、大抵の魔導師を瞬殺出来る速さと技を持ってた。逆に魔導師だとエルフ族にヤバい奴がいて、そいつが使う結界術からの範囲殲滅魔術は、前衛職泣かせのクソ技だったな」
「うーん……そうですよねぇ。私も相手が熟練の戦士さんとかが相手だと、対面しちゃったら勝てる気がしませんし……」
そもそもこの間のように、私は対人戦闘が本当に苦手で、人に教えられるようなものは何もない。
魔術に関しては教えられるかもしれないけど……。
「……ん? というか、ウォードさんこそ魔導騎士なんじゃ?」
「そうだけど、俺はちょっとアレだから……参考にはならんと思うぞ」
確かに……この人はちょっとアレか。
でも、戦いに関しては誰よりも信頼出来る。
戦闘指南役はウォードさんに任せて、私は魔術に関してのアドバイスをする方向で考えてるけど───
「まぁ、出来るだけ教えはするけど……なんか嫌な予感がしてんだよなぁ」
「あ、ウォードさんもですか? 実は、私もです……」




