第11話:ギルド組合
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「では、参りましょうか」
「はいっ!」
翌朝。
時間通りに集合した三人は、ギルド組合内部で共有されている魔物についての情報を探るべく、いくつかある彼らの溜まり場に向けて移動を開始した。
「こっから歩いてどれくらいなんだ?」
「……一つ目は近くです。あなたが静かにしていれば、すぐに着きますよ」
「へいへい……」
街は様々な種族、職業の人間でごった返しており、それは王都アルタイルの懐の深さをそのまま表していた。
だが、それは同時に混沌を生み出し、政府が把握しきれない闇の部分を広げることとなってしまう。
とはいえ、今三人が向かっている場所は、基本的に誰もが利用可能な施設であり、まだ把握出来ている方だと言えた。
そもそもギルド組合とは、戦闘行為を得手とする傭兵ギルドや、魔術の鍛錬を主目的にした魔導師ギルド、武器や防具などを作製する鍛治ギルドに、食材の探求、そして料理の提供を行う調理ギルドなど、様々な種類の個々のギルドが一緒くたに加入する、ギルドの集合体のようなものである。
ギルド組合を統括しているのは、組合に加入している有力なギルドのギルドマスター、その十名からなる"十星会"と呼ばれる組織で、その権力と実力は、並の貴族や役人では到底太刀打ち出来ないほどに強く、また民衆からの人気も非常に高い。
しかし、彼らは自分たちが、大局的に見れば弱者であることを十分に理解しており、それ故に驕らず、そして自分たちよりもさらに弱きものを守るという意志のもとに統一されていた。
個々の力は弱くとも、それらが寄り添い合うことで、強大な力に対抗出来るというのもまた、自然界でも当たり前に行われている事象の一つであり、この世界有数の大国であるアルタイルにおいても、それは普遍的なものであると言えよう。
「ここです」
「おー……結構でけぇな」
「わぁ……」
到着したのは三階建ての建物で、中は一階が酒場となっており、二階に各種商業ギルドの販売店が軒を連ね、三階はギルド組合のいくつかある事務所の一つとなっていた。
酒場では盛んに各ギルド同士による情報交換が行われ、特に傭兵ギルドに関するものが多く、物騒なやり取りが大半を占めている。
そのせいか、客層はあまり良いとは言い難く、無用なトラブルを避けるためか、酒場のみ他の階とは独立した別の入り口が裏通り側にあり、二階に直接上がれる入り口が表通りに設けられていた。
その二階の販売店には、鍛治や錬金術、木工に服飾と、多種多様なギルドが場所代を払って店を構えており、一箇所で大体のものが揃う場として民衆にも重宝されている。
王都にはこういった施設がいくつかあり、ギルド組合はその運営によって利益を得て、全てのギルドにとって有益となるように努めていた。
「私も来たのは初めてですが、レンガ造りの立派な建物ですねぇ……」
「では、先に私が入りますので、あなた方は少し後に入ってきてください。あと、あなたは絶対に顔を出さないように。よろしいですね?」
「わ、分かりました」
ルウナは被っていたフードの先を指でつまむと、ぐっと下に引いてさらに深く被り直した。
白地に金の装飾がなされたそのフード付きのローブは、彼女自身が魔力を込めながら作製した一張羅であり、高い魔力耐性と物理耐性を両立した自信作でもある。
「それから、ヴァンさん」
「ん?」
「……理解されているとは思いますが、これはあなたのために行われているものです。私は道案内しかいたしません。以後は、あなたが主となって行動するように。よろしいですか?」
「おう」
「……口調」
「はい!」
ミリアは、二人のやりとりに心底呆れた表情を浮かべた後、
「……では、せいぜい頑張ってください」
吐き捨てるようにそう言って、建物の中へと消えていった。
ミリアが入ったのを見計らい、ウォードは大きく舌を出しながら中指を立てる。
その様子に、ルウナは手で顔を覆いながら大きなため息をついた。
「ほんっ……とに! 性格の悪い姉ちゃんだな! つか、補助とか言ってるが、要はただの監視役だろ? 離れた位置から俺らの様子を見ようとしてんのがバレバレじゃねぇか」
「まぁ、あなたがきちんとやるか見るためなんでしょうね。ちなみに、どうやって情報を集めるつもりなんです? 地道に聞いていく感じですか?」
「いや、それじゃダメだろうな。多分、まともに答えちゃくれねぇよ」
「どうしてですか? ギルド組合にとって、魔物の情報なんて特に秘匿すべきものでもないのでは?」
「んー、なんつーかな……こういうところにいるやつらってのは、横の繋がりを何よりも大事にするんだよ。要するに、信用が全てなわけだ。だから、そういうやつらはとにかく堅いんだよ……口が」
「あー……なるほど……」
彼らギルド組合員にとって、情報は時に命より重い。
安易に口にしたそれが、巡り巡って己の、ましてや自身の所属するギルドに不利益をもたらすなどということは、決してあってはならないのだ。
故に彼らは口を噤む。
それが一番簡単な対処法であり、この街で生きる彼らなりの処世術なのである。
「おまけに、魔物の情報を聞きてぇなら、まず傭兵ギルドの連中に話を聞かなくちゃなんねぇ。あいつらは基本的に義理で動く。昨日今日会ったやつに、心なんざ開かねぇよ」
王都には大小合わせて三十を超える傭兵ギルドが存在しており、彼らのような人種はそれがさらに顕著で、特に下位のギルドメンバーなどは安易に他人と話すらしない。
それは、ほんの些細な発言から傭兵ギルド同士の血で血を洗う抗争へと発展したり、せっかくの儲け話を不用意な発言で御破算にしてしまったりと、そういった軽口による凋落を幾度となく彼らが見てきたからであった。
要するに、その直接的な原因に、誰もなりたくはないのである。
「特に、俺らみたいな新顔に対しては、より一層警戒してくるだろうし、割と面倒な調査なんだよな……つか、まだ午前中だし、酒場に人なんかあんまいねぇだろこれ……まぁ、どうせ一日中やるつもりだから別にいいんだけど」
「うーん……私がやってよければ魔術で一瞬なんですけどねぇ……」
「……あんた、さらっと怖いこと言うよな」
「冗談ですよ……でも、ちょっとくらいは話してくれるんじゃないですか? 別に痛いところを突くってわけじゃないんですし」
「んー……まぁ、な。けど、やつらは突かれて痛いから嫌なんじゃなく、突かれること自体が嫌なんだよ。変な探りの入れ方をしたら一発でアウトだろうな」
「じゃあ、どうするんですか? 暴力は絶対にダメですよ?」
「んなもん……決まってんだろ」
「あっ……!」
そう言うと、ウォードは尻尾を振りながら店に向かって颯爽と歩き出す。
ルウナが慌てて後を追うと、彼は店の前で急に立ち止まり、くるっと彼女の方を向いて───
「出たとこ勝負だ!」
とても真剣な顔で、そう言った。
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「エールを」
「……あいよ」
ギルド組合の店に入ってすぐ、カウンターでグラスを磨いている店主にそう告げ、私は一番奥にある角の席へと腰掛けた。
「ふぅ……やれやれ、何故私がこんなことを……」
正直に言って、今回ばかりはルシフェル様のお考えが理解出来ない。
何故あのような落ちこぼれを気にするのかということも勿論そうだが、それに加えてあの狼型獣人を従者にだと?
あんな粗暴で、無礼で、無知で、魔術の魔の字も知らぬ、知性と品性の欠片もない愚か者を、栄光と名誉ある我がアルタイルの宮廷魔導師……その従者に?
「……ふざけるな」
馬鹿にするにも程がある。
あんなものは有無を言わさず却下すればいいのだ。
そもそも、あの小娘が未だ宮廷魔導師として存在していること自体がおかしい。
宮廷魔導師としての格を著しく下げ、我が母校である学院の生徒も、そして守るべき民衆をも危険に晒したあの落ちこぼれに、宮廷魔導師という称号は相応しくない。
ルシフェル様もそうだが、陛下もいったい何を考えているのやら……。
「ふん……だが、思い通りにはさせん」
私が監視役に任命されたのが運の尽き。
絶対にあの狼型獣人を不合格にしてやる。
どんな手を使ってでも……確実に。
「……ほらよ」
無愛想なスキンヘッドの店主が、不機嫌そうにテーブルへジョッキを置く。
おおかた、見ない顔の私を警戒しているのだろう。
「支払いは?」
「今だ」
「では、これで」
私は金貨を一枚差し出す。
すると、店主は片眉を吊り上げた。
「……ちょいとデカすぎるぜねぇちゃん。釣り銭が足りねぇよ」
「構わない。とっておいてくれ」
「……おいおい、勘弁してくれ。面倒ごとは御免だぜ」
「いや、簡単なことだよ……私が頼みたいことは、とても簡単なことだ」




