第10話:涙
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この王都アルタイルには、魔導師を育成するための学舎がいくつか存在した。
その中で最も古く格式高いのが、アルタイル城にほど近い場所にある、アルシャイン魔術学院である。
これまで歴代の宮廷魔導師を何人も輩出しており、またその中には現役の宮廷魔導師も存在していた。
そんな魔術学院には慣例で年に一度、期間で言えば約一ヶ月ほど、宮廷魔導師が直々に教鞭を取る機会を設けることが決まっていた。
本来ならば、アルシャイン魔術学院の出身者が担当するのだが、この年はどうしても都合がつかず、また他の者たちもすでに予定が入っていたこともあり、新人で比較的手が空いていたルウナにそのお鉢が回ってくる。
慣れないことに戸惑いながらも、彼女はあまり歳の変わらない生徒たちを相手に、必死に、そして熱心に魔術を教えていった。
また生徒たちも、そんな彼女の真摯な姿勢に心を開き、授業開始から間も無く一ヶ月が経とうとする頃には、互いに終わりが近づいていることを悲しむほどに仲良くなっていた。
そうして迎えた最終日。
アルタイル城がよく見える学院のグラウンドには、彼女が担当した生徒たちとその保護者、さらには各種関係者がずらりと集まり、この一ヶ月の成果を発表する場が設けられていた。
一人一人が学んだ魔術を披露していく中、ある一人の生徒が、彼女が授業の中で"絶対に行わないように"と、釘を指すために挙げた魔術を突然唱えてしまう。
なまじその生徒に魔術の才があったこともあり、それは不発に終わるのではなく不完全に発動。
周囲の景色が瞬く間に歪み、その場にいた者たちの命を脅かす、非常に危険な状態となってしまう。
いち早くそれに気づいたルウナは、即座に対抗する魔術を発動。
魔力の流れを調節し、不完全に発動したその魔術を抑え込むことに成功……したかに見えたその時、何故かその魔術がグラウンドから見えていたアルタイル城の別館へと転移し、そのまま大爆発を引き起こしてしまう。
不幸中の幸いか、別館が改修作業中であり、また当日の作業が休みであったことから、人的な被害は一切なかった。
しかし、問題だったのはここからで、その別館というのが、要するに王族の私室がある建物であり、その中には、今は亡き王女の部屋も存在したのである。
王女が亡くなって以降、実父である国王の指示により、彼女の部屋は生前のままにされていた。
だが、今回の爆発で全てが吹き飛び、彼女の遺品はもとより、彼女が過ごしたその思い出、空気、情景、それら全てが完全に消え去ってしまったのである。
学院側は責任の所在を、授業中に危険な魔術を教えたルウナに求め、彼女もまた自己の責任であると認めたため、彼女は自宅での謹慎を言い渡される。
しばらくして謹慎が解除された彼女は、国王からの呼び出しで登城し、王座の前に跪いた。
宮廷魔導師の資格剥奪も覚悟していたルウナに言い渡されたのは、処分なしという予想外のものであった。
国王は彼女を決して責めず、むしろ"よく未来ある若者を守ってくれた"と逆に賞賛し、彼女は涙ながらに謝罪と感謝を繰り返しながら、この国のために働くことを改めて決意したのだった。
だが、そんな決意を新たにした彼女を待っていたのは、大きな悪意のうねりであった。
亡き王女を慕っていたものたちからすれば、彼女は最低最悪の人物であり、許されざる大罪人としか思えなかったのである。
また、その事件の詳細が、当該生徒の未来を守るために秘匿されたこともあり、多くの人に"ルウナがミスをして別館を爆破した"と伝わり、それがまた彼女に対する批判を強める要因となった。
結果、王女を慕っていた年代のものたちからは憎悪の対象となり、そうでないものたちにとっても、"宮廷魔導師のくせにとんでもないミスをした未熟者"と失望されるという、まさに彼女にとっては最悪の事態に陥ってしまったのである。
そうして、この事件以降、彼女は"落ちこぼれの宮廷魔導師"というレッテルを貼られ、先輩魔導師たちからは、宮廷魔導師の品位を汚したものとして、また城で働くものたちからは、何をしでかすか分からない未熟者として、そして国民たちからは、ダメなやつのくせに給料だけはいい税金泥棒として、それぞれ扱われることとなったのである。
そして、それは一年が経った今も変わらず、ずっと彼女を苦しめ続けているのであった。
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「───まぁ、そんな感じです。はは……」
「……そうか」
ウォードさんはそう言って黙ってしまう。
やっぱり、そうだよね。
とんでもないことをしちゃって……ほんと、もう消えちゃいた───
「ルウナは悪くねぇよ」
「……え?」
ウォードさんは、じっと私を見つめる。
真剣な表情で、その綺麗な目で。
「い、いやでもっ……わ、私が変なこと教えちゃったから……」
「危険なものを教える……当たり前のことだ。あんたはそいつらが、その魔術を使えちまうレベルにあると思ったんだろ? だから止めた。間違ってねぇよ……ルウナは」
……やばい。泣きそうだ。
「やっ……そう……ですけど……で、でも結局、わた、私っ……が……ちゃんと止められなかったからっ! あの子にも嫌な思いをさせちゃって……!」
「んなもん、いい薬だよ。多少才能があるやつはみんな一回はそうなる。俺だってそうだった。それに、あんたは命を守ったんだ。それで十分じゃねぇか。きっとあのおっさんもそう思ったから、あんたを責めなかったんじゃねぇかな。あの王様は……そういうことがちゃんと分かる人だからよ」
「うっ……うぅ……ぐすっ…………」
「おー、泣け泣け。泣いてスッキリしちまえ。明日からまた……忙しくなるんだからよ」
「うっ……うわぁぁぁあん! うっうっ……私っ……辛くてぇ……! もう何度も何度も辞めようって……ほんとに……ひっく……うっうっ…………もうやだぁって……で、でもぉ、憧れでこの仕事っ……だから辞めたくなくてっ……が、頑張って……うぁぁぁぁ……」
「うんうん……そうだな……よく頑張ったよルウナは」
「ウォードさっ……うぁぁぁぁ……うっうっ……」
「ルウナは偉いよ。ほれ、もっと泣け」
私は泣き続けた。
ずっとずっと、涙が出なくなるまで。
ウォードさんはそんな私に、ずっと優しい言葉をかけ続けてくれた。
微笑みながら、穏やかな声で。
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「スッキリしたか?」
「……ばい」
泣き過ぎて頭が痛い。
鼻も目も痛い。
きっと私、今ひどい顔してる。
「あっ……」
急に恥ずかしくなり顔を隠す。
なんなら、さっき見られた下着より嫌……かも。
「どした?」
「……見ないでください」
「ぷっ……今更かよ」
「ウォードさん」
「ん?」
「ありがとう……ございます」
「おう。また泣きたかったらいつでも───」
「そ、そうじゃなくて……ここに来てくれて……私の従者になってくれて……です」
「フッ……まぁ、結果的にな。俺もよかったよ……ルウナに会えて」
「え……ウォードさ───」
「暇だったからなぁマジで。あの国なんもねぇんだもん……もう、逃げ飽きちまってたからよ」
「……あははっ! よかったですね……明日からもっと忙しくなりますよ」
「だな……じゃ、寝るか」
「はいっ……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
…………あー……ドキドキした。




