俺、魔族になっちゃったよ
シリアルです、シリアスじゃないです。
全身が重い、しかも痛い。今、何時だ...と思った辺りで自分が寝てるところがゴツゴツした地面だということに気づく。
ええと何があったんだっけ…確か...あぁ!そうだ!俺死んだんじゃ!?と思い、自分の身体を見る。
そこには、失った筈の両腕があった。
「嘘だろ...オイ」
少しの間呆然とする。自分に起こったことを整理する。
だがどう考えてもこれはおかしいと結論づけた。吹き飛ばされた両腕が生えてくるなどトカゲでもない限り不可能だろう。
自分は正真正銘人間だ。親も人間だったはず、そこまで考えたところで、これについて考えるのは無駄だと諦める。
それよりも今はここで生き残ることを考えよう、アイツらに、もしくは魔王に会うために。
そうだ、憎まれて当然なんだから。俺はあんなに苦しかったのに、今も王国とかいうところでアイツらは俺のことも忘れてのうのうと暮らしているのだろう。
会ったらどうするか、とりあえず俺と同じ目にあわせよう。
大体目標は決まった、魔王は後回しでいいだろう、というか今会っても殺されるだけだしな。
「よし、頑張ろう」
「そうじゃな、ところで何でお前は生きとる?」
ん?今一番聞こえたら駄目な声が聞こえたぞ?
え?フラグ回収早すぎない?いや、気の所為だ気の所為。
疲れすぎとあまりのストレスで幻聴が聞こえてるんだ。そうだ、そういうことにしよう。
「流石の俺でも疲れ過ぎたら幻聴が聞こえるんだな」
「幻聴じゃないぞ、現実逃避するな」
「嘘やろ?」
「なんじゃその話し方」
アイエエエエエエ!!?ナンデ!?マオウナンデ!?ヤバいヤバいヤバいヤバい!!どうしよどうしよどうしよどうしよ!!落ち着け俺!こういうときは話し合いで解決だ!何が何でも命だけでも助けてもらう!
「生きててすいやせんっしたぁぁあ!!」
土下座だ、靴の裏でも舐めそうな勢いのジャパニーズ土下座だ。
もう既に話し合いですらないがとりあえずここは見逃してもらう!見ろ!この相手がドン引きするほどの完璧な土下座を!
「うおぉ!?なんじゃ!いきなり!?」
「すいません!命だけは!命だけは!靴舐めますから!」
「お前そんなキャラじゃなかったじゃろ!もっとクールで知的な感じだったじゃん!」
「クール(笑)」
「何がお前をそんなに変えたぁぁあ!!」
元凶が何言ってんだ、と思ったが口には出さない。下手なこと言うと殺されるからな。ここは最大限まで下手に出る。プライド?そんなもん両腕と一緒に捨てたわ、何か生えてきたけど、両腕。
「えぇ...何か拍子抜けじゃ...このクソアマ!とか言って無謀に挑んで来るかと思ったんじゃが…」
どこの蛮族だよ、まあ心の中ではおもってるけど。このクソロリ鬼畜魔王が居なければまだ救いはあったというのに本当に最悪だ、どこまで運が無いんだ俺は。
「まあよい、とりあえず何故生きとるか聞かせろ」
偉そうだなこのクソロリ。本当にボコボコにしてやろうか。無理ですね、ごめんなさい。
「その...俺も分からなくて...あの、魔王様に両腕飛ばされたあと死んだと思って気を失って、起きたら両腕が生えてて...」
「本人も分からんのか、というかさっきから気になっておったんじゃがの」
「え?何ですか?」
「お主魔族だったんじゃな、しかもかなり高位の」
「え?何言って...」
ん?ちょっと待て、そう言えばさっきからどこか自分の身体に違和感がある。いつもより何処か...
「魔王様」
「なんじゃ?」
「鏡見せてくれませんか」
「別にええが何故じゃ?」
「ちょっと確認したくて」
「まあええじゃろ」
そう言って魔王様は虚空に手を突っ込み、宝石が散りばめられた、ウン百万しそうな手鏡を出してくる。それを覗くと
「な、なんじゃこりゃぁ...」
立派な角が生え、目が赤になり、髪色も白になっている中二病御用達スタイルの自分が居た。
「もうええかの?いくら顔が良いからといって妾がおるのにずっと自分の顔を見続けるのは関心せんぞ」
「す、すいません...ありがとうございました...」
マジかよ、何で俺がこんな人外スタイルになってんの!?俺はアイツらに復讐したいだけで魔族の仲間入りしたいわけじゃないぞ!断固拒否させてもらう!いい加減にしろ!
「それで、どうするかの?」
「ど、どうとは?」
「お主あの二人に奴隷にされとったんじゃろ?人間の振りをさせられて」
あ、こいつ馬鹿だ。自分の世界でしか生きてないタイプだな。これは好機!乗るしかないこのビックウェーブに!
「そ、そうなんですよ〜!本当にあの二人守らないと後で殺されてたので必死でした〜!」
「うぅっ…そうとは知らず気づいてやれなくてすまなかったのぉ...両腕を吹き飛ばしてしまって...あの時間稼ぎも人間に無理矢理やらされとったんじゃろ?可哀想に...」
「いいんですよ!腕生えましたし!」
「優しいのう、お主は...」
いける!いけるぞ!このまま押し切る!あわよくば街まで送ってもらってそこから王国までの道のりを考えよう。
「よし!決めた!お主を妾の王宮で働かせてやろう!」
え...?は...?ちょっと待て!途中まで良かっただろ!何でそうなる!
「え、悪いですよ!そんなの!」
「謙虚じゃのう…ますます気に入ったぞ!」
コイツ話聞かねぇ!まずいぞ!このままだと人類の敵だ!あ、今は魔族だから人類の敵か、じゃねぇんだよ!
まぁまだ魔王やら魔族が人類の敵かどうかを直接聞いた訳じゃないから分かんないけどな。
「仕事内容は軍に入って人間共を根絶やしにするか、キッチンで料理を作るか、あとは事務仕事とかかのう。あ、あと住み込みじゃから住む場所は気にするなよ?」
最初の仕事だけおっかねぇえええぇ!!やっぱり人類の敵じゃねえかこいつ!
やべぇぞ!ていうか一刻も早くアイツらに復讐したいだけなのに!人類と敵対したいわけじゃないんだよ!
「お主は高位の魔族だけあって魔力やら筋力はおそらく並の魔族の倍以上はあるじゃろうからのう!軍に入ることをオススメするぞ!」
よりにもよってそれかよぉおぉ!ふざけんな!やるとしても料理番がいいわ!死んでも罪の無い人間襲ったりなんかしねえからな!敵対者は別だけど。
「あの...魔王様...俺...戦うのは…」
「あっ...そうか無神経なこと言ったの...すまん...」
ここで過去何かありましたよの顔!チワワのような自分の顔に今だけ感謝だぜ!
「まぁ、とりあえず妾の王宮に案内するぞ!」
魔王がそういうと俺の腕を掴んできた、何する気だ!
「ほいっと!」
視点がぐるんと一回転したと思ったら何故か映画とかでよく見る豪華で洋風なめちゃくちゃ広い王宮の玄関についていた。今だけは自分の語彙力の無さを呪うほどに見事だった。横にいるのが魔王でなければはしゃいでいただろう。
「どうじゃ!見事じゃろう!」
「あっ、はい!凄いです!」
目をキラキラさせておく、復讐の為には自分の嫌いなこの容姿も存分に使わせてもらう。自尊心など犬にでも食わせろ。
「そうじゃろそうじゃろ〜!妾の先代、先々代そのまた先代、初代からずっと手入れや補強は欠かして居らんからな!」
それは凄い、だが凄いのはお前じゃない、先代達だ。その自慢げな顔をやめろ、殴るぞ。
「ここで働いておる者達は全員優しいからの、安心するんじゃぞ」
「魔王様...ありがとうございます」
「なに、礼はいらん。妾が自分のしたことに勝手に責任を感じて償おうとしとるだけじゃ」
そう言って少し負い目を感じたような顔をする魔王、ここはフォローを入れるべきだろうな、好感度的に。何で魔王の好感度上げてんだ俺...殺されないためですね分かります。
「魔王様...先程も言いましたが魔王様が気にする事はありません、むしろ俺は感謝しています。あのままあの二人と助かったとしても俺は一生苦しんで死んでいったでしょう。ですが魔王様に偶然とはいえ今助けられ職と住む場所まで貰えるのです。これ以上魔王様が思い詰めることはありませんよ」
そう言って上目遣いで魔王を見る。オエッ、自分でやってて気持ち悪くなってきた…もう結構眠くなってきたのに演技するための集中途切れさせられねぇよ...
「やはりお主は優しいのう…これからは妾が守ってやるからの...」
そう言って抱きしめてきた。やべぇぇええ!殺されるぅ!このまま絞め殺されるぅ!
あれ...?優しい...どうしたんだこの人...?
はっ!こうやって懐柔するつもりだな!そうはさせんぞ!絶対屈しないからな!俺は優しくされただけでコロッと落ちるチョロインじゃないんだよ!バーカ!
「よしよし...安心して良いぞ…」
そんな...撫でたからって…俺は...堕ちないから...ていうか元凶お前だから...
「お?眠くなってきたか?色々あったからの、寝ても良いぞ?」
そ...んな..たんじゅんじゃ...ないから...おれは...ふくしゅうを...
「よしよし...」
昴、完全撃沈。即堕ちである。バブみの前では無力だった。
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