(5)
石碑の発見から数日後、本格的な調査が進み、いろいろ分かってきた事がある。
まず、この石碑はトリアングロ・リミテの石碑と全く同じだということ。石碑の構造も同じで、材質もトリアングロ・リミテの石碑と同じ物が使われている。
そして、上部にはめ込まれた聖石は間違いなく本物。しかも、聖石が持つ魔力も失われることなく、しっかり機能していることが分かった。
そうなると、この石碑も結界を作る役割を果たしていると考えるのが妥当であるが、そこはまだ検証の途中だ。今まで結界は大きな二等辺三角形で出来ていると考えられてきた訳だが、この石碑を含めると歪な四角形で作られていることになる。
過去のこの街の記録を確認すると、圧倒的に魔物が侵入した実績は少なく、やはり結界を作っていることを裏付けているように思える。
そもそも、石碑の建つ場所に規則性なんて無く、適当な位置に建てられたのかもしれない。
また、サシャが見つけた石碑に刻まれた紋章については謎のままだ。他のトリアングロ・リミテの石碑やトリアングロ・リミテ以外の魔法遺物にも、そんな紋章が刻まれているものは見つからなかった。
それが何を意味するのか。調査隊の中でも議論が分かれている。
「やっぱり、ここの石碑もトリアングロ・リミテの一部に違いないよ」
「じゃあ、何故、こんな地下に作られてるんだ?」
ここは、石碑が発見された廃墟の脇に建てられた大きな天幕の中。
調査隊達は集められた沢山の資料が広げられた丸机を囲んで議論していた。
石碑の発見後、王都から多くの資機材が届いた。地下室には照明が設置され、石碑の周りには大きな足場が組まれた。そして、廃墟の周辺にバリケードが作られ、その内側に大きな天幕が張られた。
目下、この天幕を本部として調査が進められている。
天幕の外では、同じく王都から派遣された護衛騎士達が、調査隊や石碑の警護を担っている。
誰にも目に留められることなく、ひっそりと朽ちかけていた廃墟は、今や重要な遺跡として多くの関係者が頻繁に出入りし、賑わっている。
調査隊達の間で何度も繰り返された議論。
それは、この廃墟がどういった場所であったのかということ。
皆の頭の中には、一つの答えがあるのだが、それを公言するのは憚られた。確かな証拠が足りない。公言してしまえば、様々な所に波紋を広げることになるのが明らかだからだ。
「皆、ちょっといいか」
サイラス副長が神妙な顔つきで天幕に入ってくるなり、調査隊員達に言った。
「さっき王室から連絡が入った。ヨルミナ教会大神殿の枢機卿らが、明日、ここに視察に来るそうだ」
「「えぇぇぇっ!!」」
調査隊員らに大きなざわめきが広がる。
「わざわざ、ラナド王国から来るってことですか?」
「随分、動きが早いな。枢機卿までお出ましになるとは」
「それだけ注目を集めてるってことだろ」
「でも大神殿の奴ら、この場所と竜の使者の関連を証明されるのを警戒してるってことじゃないか?」
「そうだよ。証明されれば、ヨルミナ教会が示してきたこれまでの定説が覆されるからな」
「それに、最近は大神殿にある石碑の聖石の力が弱まってるって噂もあるらしいぞ」
「本当か? それが本当なら、大神殿の権威が脅かされる事態ってことになるな」
「大神殿にとっては、面白くない状況だってのは間違いない」
「どっちにしろ突然こんな風に来るなんて、友好的な視察とは思えないよな。何事も無ければいいが」
動揺を隠せず不安を口にする調査隊員らをグルリと見渡し、サイラスは大きく頷いた。
「君達の心配はもっともだ。だが、王室もその辺の懸念は分かっている。視察には王太子殿下が同行されるそうだ」
調査隊達に再びどよめきが広がった。
(わざわざヘンリー殿下が同行されるなんて…)
「はぁぁぁ、何だか面倒なことになってきたわね」
サシャの隣でアイリスが呟いた。
面倒くさそうなその表情には、余計な仕事を余儀なくされることに対する不満がありありだ。
アイリスにとっては、大神殿が視察に来ることの不安よりも、自分達の仕事を邪魔されることに対する不満の方が大きいようだ。
さすがアイリス、ちょっとやそっとでは動じない。
一方のサシャは大神殿が何を言ってくるのか不安で一杯だ。
サシャが何気なく聖石を発見したことから、何だかどんどん事態が大きくなっていっている。
言いようのない思いで、サシャはゴクリと喉を鳴らした。
そんなサシャの気持ちを察したのか、サイラスはサシャを見ながら、安心させるように小さく頷いた。
「萎縮することはない。皆、いつもどおり調査に専念してくれ。但し、視察中は調査内容やこれまでの考査についての会話は厳禁だ。特に竜の使者については触れないこと」
サイラスは淡々と皆に指示する。
「大神殿の視察団には王太子殿下が対応してくれる。何か質問されても、皆は当たり障りのない事以外は話さないようにしてくれ」
この場所が竜の使者と関係するものなのかどうか、公表の仕方によっては、ヨルミナ教会だけでなくラナド王国との友好関係に歪みを生じさせかねない。キンドリル王国の王家も、慎重に大神殿の動向を探る必要から、王太子を視察に同行させることを決めたのだろう。
何はともあれ、王家の迅速な判断が心強い。
視察が何事もなく無事に終わりますように。サシャはそう願っていたのだが、思いもよらない事で頭を悩ませる事になるのだった。
翌日、ヘンリー王太子に先導され、ヨルミナ教会大神殿の視察団がやってきた。
朽ちかけた廃墟の周囲をバリケードで囲ったベース基地。その中で、調査隊員達は整列して礼の姿勢を取りながら一行を迎えた。
枢機卿を筆頭に3名の司祭が同行し、皆、長い真っ白な祭服を身に纏っている。祭服は、輝くような白い布地に金色の刺繍が美しく施されており、立襟の部分には、ヨルミナ教会を象徴する五芒星が描かれていた。
シンプルながらも高価そうな布地の祭服は、彼らの威厳を示すのに十分な役割を果たしており、彼らは堂々とした立ち振舞で、ヘンリー殿下に対しても尊大な態度で接している。
キンドリル王国の王家に対し大神殿の権威を誇示しようとしているように見える。
ラナド王国では、教皇が国王と同等の権力を持っているというが、なるほど随分偉そうだと思った。
政治と宗教は切り離されるべきとする我が国からしてみたら、なんと不敬な態度かと思ってしまうが、そこは政治の問題。迂闊な事は言えない。
一行の側にはヘンリー殿下の近衛騎士達が4人控えている。
その中には、カインとリューイもいた。
(カイン、遠征から帰って来てたのね)
サシャは、カインの無事な姿を見て安堵した。
相変わらず見惚れてしまうほどの綺麗な顔。
でも、よく見ると少し疲れたような表情で、目元には薄っすらと隈があるように見える。
そして、カインの左頬に浅い切傷が。
(はうぅっ! カインの綺麗な顔に傷が〜〜!!)
討伐の激しさが想像され、帰還して直ぐだというのに、この任務の為にセンティス街に来ているカインのことが心配になってきた。
(回復薬、足りなかったかしら? …もうっ! 人のことはあんなに口うるさい癖に、自分は無理ばっかりするから…)
頭を下げたままカインの顔をチラチラと見ているサシャの視線に気付いているのか、いないのか。
カインは真っすぐに前を向いて、チラリともこっちを見る気配はない。
久しぶりに会えたのに…。
何だか少し寂しい気持ちになった。
ヘンリー殿下は大神殿の視察団を引き連れ、頭を下げて整列する調査隊員達の前まで来ると、優雅に微笑みながら声をかけた。
「皆、ご苦労、頭を上げてくれ。今日は邪魔させて貰うが、よろしく頼む」
調査隊員を労うようにグルリと見渡した後、大神殿の一行を振り向き紹介する。
「彼らは我が国の魔法研究室の研究員達です。皆、優秀な研究者で、今回の発見の立役者でもあります」
枢機卿は無表情のまま、たっぷりと間を開けて口を開く。
「それは頼もしいことですな」
言葉とは裏腹に、冷ややかな目つきで枢機卿が調査隊員をチラリと見た。
尊大な態度がなんとも腹立たしい。
が、それよりも枢機卿の後方に控える司祭に目を留め、サシャは驚愕した。
(っ!! ―――ラウル?!)
明るい金髪にアメジストの瞳。白い上品な祭服を身に纏い優雅な笑みを浮かべて立つ姿は、先日のガラの悪さから想像もつかないが、間違いなくラウルだ。
(嘘!! あんな人が司祭だなんてあり得ない。こんなの――詐欺だ。てか、次に会っても知らん顔してくれって…。何よ! 教会のスパイだったんじゃない!!)
驚きの余りアングリと口を開け、ラウルを睨みつけているサシャに、ラウルは含みのある視線を向けニヤリと笑った。
(――っ!! あの人…、私が調査隊の一員だって知ってたのね…)
いい人だと思ってたのに――。
大神殿の人間にまんまと騙されていたという訳だ。サシャはギリッと奥歯を噛み締めると、ラウルの視線を無視してそっぽを向いた。
(随分、大神殿の動きが早いと思ったら、私達の動向を調べていたのね)
それにしても、スパイを送り込んで調査を探っていたなんて、思っていた以上に教会もこの発見に注目しているようだ。やっぱり、今回の視察はキンドリル王国に対する牽制か、他に何か目的があるのか……。
サイラス副長の案内で地下室へと向かう視察団を見送りながら、サシャはフンッと鼻息を荒くした。
「な〜んか、いけ好かない奴らよね」
サシャの隣でアイリスが不敬な言葉を呟く。
「アイリス! 声が大きいよ。同感だけど!」
大きく頷くと、アイリスは不満そうな顔で肩を竦めてみせた。
ラウルの事を皆に伝えておきたいところだが、彼に口止めされたこともあり、どうすべきかサシャは判断に迷っていた。
彼に助けられた恩はある。早々に約束を破って彼の行動を明るみに出すのは気が引けた。
(取り敢えず、皆には注意を促しておくのがいいわね)
「それにしても…」
アイリスが楽しげに目を輝かせた。
「司祭なんてショボくれたおじさんばっかだと思ってたけど、随分なイケメンも居るのね」
ラウルのことだ。
あれだけの美貌で品の良さを醸し出し、司祭の中でも一際目立っていた。アイリスが興味を示すのも無理はない。
「でも、ちょっと胡散臭いわ。アイリス、イケメンだからって気を許さない方がいいよ」
腹立ちを隠せずに眉間に皺を寄せて反論すると、アイリスはクスッと楽しそうに笑った。
「あんたは、あの綺麗なお姫様を見慣れてるからね。あんなのはタイプじゃないのね。私は少し胡散臭いくらいが面白いと思うけれど」
「え〜〜っ! アイリス、止めときなよ」
好奇心旺盛なアイリスだ。ラウルに興味を持って、必要以上に彼に接近するのは阻止したい。
「アハハ! 冗談よ〜。私だってあんな嫌味な大神殿の人間なんてゴメンだわ!」
アイリスがカラカラと笑うのを見て、サシャはひとまず安堵した。
視察団が地下室へ行ってしまうと、サシャ達は通常業務を再開した。後の視察団の案内は、サイラス副長とヘンリー殿下で対応することになっている。調査隊の出番はない。
今後の調査は、聖石がトリアングロ・リミテと同じ結界を作っているのかということ。特殊な魔道具を使って聖石の周辺の魔力測定を行いながら、その魔力が向かう角度や範囲を確認していく事になっている。
今日は、そのための事前準備で廃墟周辺のバリケードの外に範囲を広げて、周辺環境の状態を確認する予定だ。
サシャは自分が担当するエリアで一人、測定用の魔道具を手に、周辺地図とにらめっこしながら作業に没頭していた。
少し進んでは地面にしゃがみ込み、地図に気になった点を書き込む。それを何度も繰り返しながら点検していく。
どれくらい時間が経っただろうか。
「サシャ」
不意に後から名前を呼ばれ、ビクッと肩を揺らし振り向いた。
「カイン…」
いつからそこに居たのか、カインが難しい顔で腕組みをしてサシャを見下ろしていた。
集中していたから、全く気付かなかった。
いつもと変わらない淡々とした表情。さっき見た頬の傷が、近くで見ると一層痛々しく見える。
しかも、何だか機嫌が悪そうだ。
サシャは、思いがけないカインの登場に動揺しながら、ゆっくりと立ち上がった。
「カイン、どうして……視察はもう終わったの? 」
カインがヘンリー殿下の護衛から離れて、ここに来ている事に疑問を抱きつつ、努めて平常心で尋ねた。
それにしても、カインの顔色が悪い。
ちゃんとご飯を食べれているのだろうかと心配になる。
「君は、あの司祭を知っているのか? 」
サシャの言葉を無視して、唐突に投げかけられた問いにギクリとした。
「…あの司祭って?」
問い詰めるような目で見つめられ、サシャは咄嗟にとぼけてしまう。
きっとラウルの事を言っているのだ。
カインはラウルから何か聞いたのだろうかと疑問に思いながら、サシャはカインの出方を探る。
サシャの反応に微妙な表情を浮かべたカインは、ゆっくりと瞬き小さくため息を吐いた。
「あの、金髪の司祭のことだ……いや…知らないならいい…」
そう言って、小さく首を振る。
「どうして? あの司祭が何かあったの?」
カインは何かを思案するように視線をそらした。
こんなちょっとした表情でも、うっとりするほど美しい。思わず見惚れてしまい、一瞬、気を緩めたサシャであったが、次の言葉に再び身体を強張らせた。
「いや…あの司祭がサシャを見る目が気になっただけだ。君の反応も変だったしね」
サシャに向けられた疑惑の目、澄んだ青の瞳が冷たくこちらを伺っている。
「わ……私?」
ラウルとほんの一瞬視線を交わした様子を見られていたことに驚きを隠せない。
(私の事なんか、見向きもしてないと思ってたのに…)
さすがは王太子殿下の近衛騎士だ、侮れない。
改めて、カインの優秀さを思い知らされる。
「な…何でもないわよ。あんなイケメンの司祭もいるんだなって思って見てただけよ」
何で自分がラウルの為に、カインにこんな誤魔化しをしなきゃいけないんだと、内心腹立たしく思った。
しかも、目の前のカインの瞳が冷たく眇められ、一層強く睨まれている。
「…へえ? サシャはあんなのが好みなのか?」
(ひぃっ…怖っ!! 絶対に疑われてる…)
「そ…そんなんじゃ……」
動揺するサシャをよそに、カインはふっと視線を逸らし硬い口調で言った。
「良かったな。君にあの司祭から案内役の依頼が来ている。彼は当分この国に滞在する事になった。その間、君に彼の案内役を務めて欲しいそうだ」
「はぁっ?!」
思いもよらない話に、サシャはアングリと口を開け、バカみたいな顔で固まってしまった。
「君は今日、僕達と一緒に王都に戻る。そして、明日から彼に付いてもらう事になった」
「はぁぁぁっ!? 何それ!! 嫌よ、まだ調査だって終わってないのに。何で私が…」
カインは眉間に皺を寄せ、顔を歪めながら大きなため息を吐いた。
「石碑の発見の第一人者のサシャに、我が国の魔法遺物について教示してもらいたいそうだ。ヘンリー殿下も彼の要望に添うことを決めた。これは殿下からの指示、決定事項だよ」
「どうして、ヘンリー殿下がそんなことを?!」
不満を顕に抗議するサシャを宥めるように、カインは続ける。
「…サシャ、君は知らないと思うが…、彼はラナド王国の第三王子だ」
「えぇぇっ! …嘘っ、あんな…いや、どうして……嘘でしょ?」
次から次にビックリする話ばかりで、サシャの頭は大混乱だ。
「ラナド王国では王家と大神殿が同等の権力を持っていることを、君も知ってるだろう?」
無言のまま、サシャは小さく頷く。
「実際には大神殿派の勢力はかなり大きくて、王家が大神殿に配慮してる状況だ。大神殿への信奉を示すために、王家は第三王子を大神殿に差し出したという訳だ」
思いがけない話にサシャはパチパチと瞬いた。
「それって……人質ってこと?」
カインは軽く肩を竦める。
「本当の思惑は分からないけどね。大神殿は自分たちの権威を示すために最大限、彼を利用している。そんな理由から彼は王家から捨てられたのだとか、彼と王家の間に確執があるのだとか噂されている。…とにかく、彼はラナド王国の王族であり、大神殿に忠実な傀儡だと思っておいた方がいい。我が国としても邪険に扱う訳にはいかないってことだ」
あの乱暴で軽薄そうなラウルが王族でしかも大神殿に差し出された人質だなんて、全然結びつかない。ますます彼にどう接すればよいか分からなくなってきた。
「そういう訳だ。サシャ、僕と一緒に来てくれ」
「そんなぁ〜〜っ!」
ここにきて、調査隊を途中で抜けなければならない現実を突きつけられて、サシャはガックリと肩を落とした。
「どっちみち、あと数日で調査は終える予定だろ? 大体、君が調査隊になんか参加するから、こんな面倒な事に巻き込まれたんだ」
(それはそうだけど……そんな言い方…)
サシャはむくれ顔でカインを見た。
そして、ふと気付いた。
(――やっぱりカイン、顔色が悪い)
気のせいか、さっきよりキツそうに見える。
「カイン、あなた大丈夫? 体調が悪いんじゃないの?」
カインの顔を覗き込むように近付くと、カインは手で口元を覆いながら一歩後退さる。相変わらず、サシャに触れられるのは嫌なようだ。
「……問題ない」
そう言ったカインの指先が微かに震えている事に気付いた。
「全然、問題なくないじゃない! 身体が震えてるわ! 医者に見せなくちゃ」
詰め寄るサシャを掌で制しながら、カインはおもむろにサシャの腰を指差した。
「…じゃあ、水…その水を分けてくれないか…? 多分…、脱水症状だと思うから…」
そう言われて、サシャは自分の腰にぶら下げていた水筒を見た。
これは調査隊員に支給されている水筒だ。金属で出来たボトル型の形状で、ボトルに直接口を付けて飲むようになっている。
調査隊員達は、作業中も水分を補給出来るように、この水筒を持ち歩いているのだ。
「水?! なら、私の飲み残しなんかじゃなくて、新しい物を貰ってきてあげる」
「いやっ!! それが…それでいいからっ!」
必死な形相のカインに、よほど喉が渇いてるんだろうと思ったサシャは、急いで水筒を外してカインに手渡した。
カインは震える指先で水筒のキャップを空けると、むさぼるようにゴクゴクと水を飲み始める。
そして、全てを飲み干すと、大きく肩で息を吐いた。
「ああ…生き返った……」
そう呟いたカインの頬には赤みが差し、本当にさっきまでとは別人のように顔色が良くなっている。
「カイン、駄目じゃない。忙しくても、ちゃんと水分は小まめに取っておかなくちゃ」
「…ああ…」
(こんなに悪くなるまで我慢するなんて…)
気まずそうに目を伏せるカインに、珍しくサシャの方から説教する。
なんだか優越感だ。
「王都に戻ったら、また回復薬を作ってあげるわ」
気分良く上から目線でそう言うと、カインは小さく呟いた。
「…ありがとう…頼む」
ほんのり色付いた頬で上目遣いで見つめる姿が可愛らしい。その姿が、幼い時の気弱なカインのようで、サシャは思わずフフフッと笑い声を漏らした。




