第10話 決意、そして始まり
王都で、鍛冶屋での出来事はユーヴェルによって治められた。
サヤ村に帰ってきたケン親子は、ひとまずテーブルに座り、話し合った。
「なぜ貴族に向かって剣を向けた!幸いにもユーヴェル様が来たから落ち着いたものの、本来であれば身分剥奪となるところだったぞ!!」
父リュウに、ケンは反論した。
「権力があろうと、正当化されるのは間違いだ!!僕は我慢の限界だったんだ!!
上の者にいいように扱われることが耐えられなかった!!」
「気持ちは分かるが、今のお前に権力はまだ無い!!入団が確定するまでは身の程を弁えろ!!」
ケンは、自身の置かれた立場において、より強い不自由さを感じた。
だが騎士団に入団すれば、王族クラスの特権階級を得ることができ、庶民への理不尽な行いを取り締まれる。
しかし、ケンの中ではその恩恵よりも強い感情が、より入団を決意させる。
――王都からの招集まで残り1日。
ケンは1人、再び森に篭もり、王都での出来事を振り返っていた。
「ジャック……あいつの力は相当鍛え上げられたものだった。士族の生まれだからこそ力は持っていたのか。」
ジャックとの力の差を感じていたケンは、木々を颯爽と両断していく。
「あのような男でも近衛騎士団になれるのなら、若しくは既に騎士団内に多くいるのだとすれば……!!」
「アイリス姫の身が危ない!!ってか?」
「!?父さん……」
「お前の考えてる事は概ねそんなところだろう。
この国の権力を使った理不尽な行為は誰もが知っている。
だから革命軍とかも生まれてしまった。」
「父さんは、この国の理不尽に屈するの?」
「……そうだな、俺は王族や貴族に逆らう事はしない。」
リュウの回答に、ケンは失望した。
「何……だと?」
剣を強く握ったケンはリュウに飛びかかる。
リュウの身体に当たる寸前で、剣を止める。
「なぜ、剣を止める。」
「ふざけるな……僕は間違ったことはしていない……間違っているのはこの国だ!!」
「ならどうする、同世代の子に力の差を見せつけられた状態で、騎士団への意欲も定まっていないお前に、この絶対王政に立ち向かえるわけがないだろう!!」
「黙れ!!僕は特権階級になって自由を得た奴らに、姫様を良いようにされたくないだけだ!!」
「……!!お前……」
「アイリス姫の身は僕が守る!!これ以上奴らの好き勝手にはさせない!!
たとえ敵がジャックであっても、ユーヴェル様であっても!!父さんでも!!
向かってくる敵を殲滅させる!!」
剣を王城の方向に向ける。
「僕はこの国に、姫様に襲う闇を斬り払う!!
未来を切り開く王国の剣になってやる!!」
日光に反射した剣が眩しく輝く。
だがその眩しさにも微動だにしないケンの眼を見て、リュウは一息ついた。
「ケン……お前の意志はどうやら確定したようだな。
だが入団試験はそう簡単なものではないぞ。」
「分かっている。あれからずっと、鍛錬してきたから。」
ケンは森の中で最もでかい大木に向かって剣を振るう。
その大木を両断し、倒して見せた。
「なんと、ここまでに成長したとは。」
「悔しかったんだ。ジャックの力に及ばなかったから、必死に鍛えた。」
「……ケン、今のお前にはもう、この森で強化できることはない。」
「……どういう意味?」
「時間は少ないが、お前に対人戦を教える。
元兵士だった俺の知識と腕を、お前に叩き込んでやる。」
リュウはこれを見越して持ってきた剣を取り出して、ケンに教えた。――
――そして、スタフィ城から使者がやってきた。
ケンの出発に、村の全員で見送る。
「それじゃあ行ってくるよ。サヤ村のみんなも元気でいてくれ。」
「良いってことさ!たまには帰ってきな!いつでも上等な酒を用意してやるからさ!!」
「姉御!!落ち込んだ時は帰ってくるよ!!」
「なんだかんだ村も復興してきたし、賊の襲撃も対策したからな!!心配する必要はねえよ!!」
「ケンの後を子供たちは目指してるわ。頑張って!!」
「ありがとう!村長も、姉御も、みんな!!」
「ケン!!最後にこれを受け取れ!!」
リュウはあるものをケンに投げた。
「父さん!!これは!?」
受け取ると、それは白く輝く剣だった。
「そいつは俺が兵士時代に使えなかった剣だ!!
今も使えないがいずれそいつが役に立つ!!必ずお前の力になるから絶対に忘れるな!!」
「ありがとう!!それじゃあ行ってくる!!」
王都に向けて、馬車は動き出す。
やがて姿は見えなくなり、リュウは最後まで残った。
「ケン……お前の意思を試したのは悪かった。俺は王族貴族の権力に屈するような人間ではない。
だが王族の力に俺は負けてしまった。
愛する人を奪われ、赤子のお前と若弟子を連れて城を抜け出した。
今のお前達ならきっと……」
――シールド王国、それは国王が支配する絶対王政の国。
近衛騎士団になれば王族と同じ特権階級が与えられる。
だが任務を失敗すれば奴隷行きとなる。
近衛騎士団の入団試験にも、失格すれば奴隷となる。
シールド王国は、力無き者を許さない。
第2章 近衛騎士団入団試験編に続く。




