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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第一章:春の嵐と50人の「退却戦」

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第009話:強制ボイラー冷却と、ピンポイント熱線

 


 ――ジュウウウウウウ、と。


 冷たい春の雨粒が、彼女の白く豊かな肌に触れた瞬間に白い蒸気へと変わり、虚空へと消えていく。


 バウムガルト隊の後方陣地。


 超高熱線魔術師エルザ・フォン・アーレンスの周囲だけは、極寒の嵐の中であるにもかかわらず、陽炎がドロドロと歪み狂う「灼熱の異常空間」と化していた。


「はぁ……、はぁ、はぁっ……! あ、熱い……。魔力の芯が、燃えて、溶けちゃう……っ!」


 エルザは泥の中に膝をつき、傷を負いながらも這いつくばっていた。


 彼女の脳内を埋め尽くしているのは、オルテンシア軽騎兵への激しい敵意と、それを焼き尽くそうとして暴走を始めた規格外の魔力の渦だ。


 従来の軍隊において、魔術師とは「使い捨ての兵器」だった。限界を超えた連続フル稼働、残魔力を顧みない最大出力での砲撃。


 その過酷なブラック操業の結果、彼女の魔力循環系は完全にオーバーフローを起こし、体温が四十度を遥かに超えて上昇しつつあった。白首からは熱い汗が滴り落ち、熱気で狂わされた瞳が虚ろに白目を剥きかけている。


「――そこまでだ、エルザ。それ以上の魔力チャージは、安全基準違反だ」


 熱気の歪みを突き破り、不敵な笑みを浮かべたルディ・フォン・バウムガルトが彼女の元へと歩み寄った。


 ルディの【ガス・温度検知ディテクター】のサーモグラフィは、エルザの体内温度がこれ以上上がれば「エンジンブロー(心肺停止)」を引き起こすことを、真っ赤な警告アラートとして捉えていた。


(……前世の化学プラントで言えば、冷却水ポンプが故障した反応釜リアクターが、異常昇温を起こして爆発寸前になっている状態だ。こんな超絶危険な大労災ハザードを野放しにするなんて、俺の管理下では絶対にあり得ない!)


「ル、ルディ様……? だ、ダメ……近づかないで! 今の私は……触れたものを、すべて焼き尽くしてしまう……っ!」


「ハッ、誰が壊れたボイラーを放置するか。俺は安全管理者だ。壊れかけた優秀な労働資産エルザを、完璧に管理して稼働率を維持するのが、俺の義務だ」


 ルディは、驚愕するエルザの熱い肩を力強く掴み、そのまま陣地奥に即席で張られた、防風用の予備天幕セーフティエリアの中へと彼女の身体を押し込んだ。


 嵐の冷気から遮断された天幕の中。


 エルザの身体から立ち昇る過熱蒸気で、狭い密室は一瞬にしてサウナのような熱気に包まれる。


「ルディ様……、あ、熱いの……。身体の中が、沸騰して……っ」


「分かっている。これよりお前の『強制アース(物理冷却)』を執行する。――その水を吸って重くなった軍服の外套を脱げ、エルザ」


「え……っ、脱ぐ……? ここで……?」


「当然だ。水を吸って重く張り付いたその分厚い布地は、お前の身体の自然排熱を著しく阻害している。衣服による熱伝導率の低下は、熱中症ヒートストローク災害の主因だ。黙って、俺の指示(SOP)に従い、極薄のシュミーズ一枚になれ」


 ルディは有無を言わせぬ絶対的な主君の目で言い放った。


 エルザは熱に浮かされた頭で躊躇しながらも、自ら重い外套とドレスを滑り落とした。


 天幕のランプの灯りに照らされたのは――。


 極薄のシュミーズ一枚となり、限界突破した魔力の熱によって熟れきった果実のように艶やかに紅潮した、エルザの健康的な肢体だった。シュミーズ越しにもはっきりとわかる豊満な双丘が、荒い呼吸とともに激しく上下している。


 エルザは自身の肌を晒された羞恥と、脳を灼く熱に、熱い吐息を漏らして身悶えした。


「ああ、あぅ……っ! ルディ様、そんな目で見られたら、私……魔力が、もっと暴走しちゃう……っ!」


「暴走はさせん。俺の指先を見ろ。アース線を繋ぐぞ」


 ルディは、自身の指先に魔法【微弱放電マイクロパルス】を纏わせた。


 そして、エルザの火照りきった首筋から、肩甲骨、そして背骨のラインに沿って、容赦なくその手のひらを滑らせた。


 バチバチバチッ!!!


「ひゃああああああああああああっっっっっっ!!!???」


 エルザの背中が、美しい弓の形にカチリと反り返った。


 彼女の肉体を、ルディの指先から流れ込んだ細やかで、鋭い低周波の電気パルスが走り抜ける。


 それは、ただの暴力を伴う尋問などでは断じてない。


 ルディの放つ電磁的な刺激が、エルザの体内で滞留し、高圧ガスのように膨張していた過剰魔力を吸い上げ、彼の肉体を経由して地面へと「安全にアース」していく、極上の自律神経ほぐしマッサージだった。


「あ、うそ……っ、ビリビリする……っ! 背中の奥が、バチバチして……熱いのが、抜けていくぅ……っ!」


「そうだ。お前の魔力の『結節点ツボ』は、この肩甲骨の裏、そして首の付け根にある。そこを適切に刺激して排熱弁を開けてやる。強張った筋肉が弛緩すれば、血流が改善し、魔力の放熱効果は劇的に高まる」


 ルディの、前世で培った「整体と流体制御」のロジックが融合した正確な指先が、エルザのガチガチに固まった筋肉を力強く揉みほぐしていく。


 ルディの魔法の電気が、エルザの体内魔力の圧力バランスを、ミリ単位で安全な領域へと引き下げていく。


 その瞬間、エルザの脳裏に、かつて宮廷魔導院で受けてきた過酷な「ブラック操業」の記憶がフラッシュバックした。


『立てエルザ! 出力を最大にしろ!』


『焼き尽くすまで撃ち続けろ! 貴様は国家に飼われているただの破壊兵器だ! 代わりなどいくらでもいる!』


 どれほど熱を吹こうが、どれほど精神が摩耗しようが、ただ限界まで搾取されるだけの暗黒の職場。彼女にとって「魔法」とは、自らの命を縮める呪いであり、恐怖そのものだった。


 だが、この自分より若い若君は違う。


 ルディは彼女の熱を帯びた肌に熱い指先を滑らせながら、この世で最も貴重な精密機械のメンテナンスを行うかのような真剣な視線で、囁いた。


「いいぞ、エルザ。残魔力六十パーセント、体温三十七度五分。排熱効率は完璧だ。システム稼働状況はすこぶる良好だぞ。安全マニュアルの規定範囲内だ、安心して俺に身を委ねろ」


「あ……、あぅ……っ……!」


 エルザの胸の奥で、強烈な「認知のバグ」が決定的に爆発した。


 冷酷なはずの「数値管理」が、これまでのどんな賛辞や甘い言葉よりも、深く、温かく、彼女の傷ついた存在そのものを肯定し、救済してくれる。


 この人は、私の命を使い潰さない。私の健康を、私の存在を、これほどまでに精密な数字で守り、管理し、大切に扱ってくれている――!


「ル、ルディ様……、私を……もっと管理して……っ! あなた様のルールで、私を、完全に書き換えてぇっ!!」


 エルザは、涙を流しながらルディの腕にしがみついた。


 ルディの指先から放たれる心地よい低周波パルスが、彼女の全身に溜まっていた「極限の戦闘ストレス(過緊張状態)」を次々と融かしていく。


「――お前の安全は、すべて俺の管理下にある。大人しく、俺の電気アースに身を委ねろ」


「あ、あんっ……! はいっ、はいぃぃっ! あなた様の管理下セーフティネットに置いてぇっ!」


「いいぞ、エルザ。そのまま――俺の電気と同調して、自律神経を強制シャットダウン(アース)しろ!」


「はあぁぁっ……! あなた様の、安全管理の中で……私、蕩けちゃうぅぅっっっ!!!」


 ビクン!!!と、エルザの身体が大きく跳ね上がり、極上のリラクゼーションの波動が奔った。


 極度の疲労と魔力暴走の危機から解放されたエルザは、白目を剥き、よだれを微かに垂らしながら、完全な脱力状態システムシャットダウンへと落ちていった。安全なレベルまで余剰魔力が天幕の空気中へと放熱され、彼女の呼吸は穏やかで健康的なものへと変わる。


 稼働調整、完了。


 ボイラーは、最も安全で、最も高効率な「最適アイドリング状態」へと調整された。


「……よし。熱交換効率、百二十パーセント。操業安全基準、クリアだ」


 ルディは、ぐったりとして、しかし極上の安らぎに満ちた表情で自分の胸に頬を寄せるエルザの白首を優しく撫でると、彼女に予備のダウンベストをしっかりと着込ませ、さらにローブを羽織らせて天幕の外へ出た。


 外の泥濘地では、いまだオルテンシアの軽騎兵たちが、泥の檻の中でもがき苦しんでいた。


 だが、その中から、落馬を免れた敵の軽騎兵隊長が、血相を変えて馬を督励し、バウムガルト隊の本陣へ向けて突撃しようと、必死に泥から這いずり上がりつつあった。


「おのれ、バウムガルトの雑魚どもめ! 謀りおったな! ここで全員、首を刎ねて――」


 泥を撥ね上げて迫る敵隊長。


 ルディは、自身の傍らに立つエルザの肩をしっかりと支えた。


 そして、彼女の右手を前へと向けさせる。


「エルザ。作業手順を説明する。――最大出力での連続詠唱は、ハザードレベル『赤』だ。……だが、出力を限界まで絞った『極細のピンポイント熱線』ならどうだ?」


「え……? 極細、の……?」


「そうだ。お前の全魔力のわずか二パーセント。指先ほどの細さに熱量を凝縮し、あの敵隊長の乗る馬の『右前足の蹄鉄の、真ん中の固定鋲リベット』だけを射抜け。熱膨張によって、蹄鉄が一瞬で破砕する。それで、敵の推進力はゼロだ。……できるな?」


 エルザの、脳髄までルディに屈服し、完璧な健康状態を取り戻した瞳に、知的で澄み切った光が宿った。


「はい……。あなたさまの、お指示マニュアルのままに。私の魔力は、すべてあなた様の安全管理のために……!」


 ルディの【ガス・温度検知】を、エルザの魔力と同調マルチロックさせる。


 エルザの指先から放たれたのは、戦場を焼き尽くす大爆発などではなく、針のように細く、澄み切った青白い「極細の熱線レーザー」だった。


 シュン――!と、風を切り裂く微かな音が響いた、その一瞬後。


 キィィィィィン!!!と、泥濘の彼方で、金属が急激な熱膨張によって弾け飛ぶ、甲高い音が響いた。


 寸分の狂いもなく、エルザの放った極細熱線が、敵隊長の馬の右前足の蹄鉄を固定する鋲を一瞬で焼き切ったのだ。


「――な、何っ!? 馬の蹄が――っ!」


 蹄鉄を失い、滑りやすい泥濘の大地に踏み込んだ軍馬は、激しくバランスを崩して前方転倒。


 敵隊長の巨体は、時速四十キロの慣性のまま泥濘の中へと投げ出され、ズブブブブッ!と、ルディが作った底なしの泥の檻の深層へと、頭部から完全にスタックさせられた。


「あ……、あぁ……っ!」


 自身の放った青白い極細の光を見つめ、エルザの胸が高鳴った。


 いつも「全力を出せ、焼き尽くせ」としか言われなかった彼女が、これほどまでに小さく、美しく、そして正確無比な魔法を放てたのだ。


「私……本当に、こんなに綺麗で完璧な魔法を撃てたの……? いつも暴走と枯渇に震えて、ただ破壊することしかできなかった私が……。ああ、これも全部、あなたさまの精密な数値管理のおかげだわ……!」


 エルザは、自身の新しい魔術的開花に歓喜の涙を流し、ルディの首にしがみついて頬をすり寄せた。ルディの徹底した労務管理の下に入ることで、彼女は使い捨ての兵器としての呪縛から解き放たれ、本物の魔術師としての尊厳と成長を手に入れたのだ。


 完璧な、最小コストによる「指揮系統の破綻」。


 指揮官を泥に沈められたオルテンシアの精鋭軽騎兵たちは、もはや戦意の欠片も残っていなかった。


「ひ、怪物だ……! バウムガルトの四男は、軍神か悪魔だっ!」


 後方にいて泥濘のスタックを免れた敵兵たちは、命からがら退却していった。そして泥に沈んで動けなくなった数十名は、ハンスたちによって完全に武装解除され、捕虜となった。


 ――バウムガルト隊の被害:擦り傷一つなし。完全無災害、ヨシ!


「おお、おおお……っ! 若君万歳! バウムガルトの雷神、ルディ様万歳!!!」


 泥だらけの生存者たちが腰を抜かして呆然と見つめる中、老騎士ハンスを先頭に、ピカピカのバウムガルト兵たちを率いて「安全第一、ヨシ!」の大合唱を山岳に響き渡らせた。


 その頃。バウムガルト隊の臨時の捕虜収容天幕の片隅。


 きつく後ろ手に縛られ、泥に濡れたまま床に転がされていたオルテンシアの山岳猟兵セシルは、ガタガタと歯の根が合わないほどに震えていた。


 先ほどまで、すぐ隣の天幕からは、あのエルザの狂おしく蕩けきった絶頂の悲鳴がずっと響いていた。セシルには、それが「自律神経を強制的に整える極上の放電マッサージ」の快感によるものだとは知る由もない。彼女の耳には、オルテンシア最強の魔術師が、恐ろしい拷問(調教)を受けて泣き叫んでいるようにしか聞こえなかったのだ。


 そして今、天幕の隙間から見えたのは、彼女が放ったあり得ないほど精密な熱線レーザーの閃光だった。


 自分たちを一方的に泥に沈め、壊滅させたあの「バウムガルトの少年」。彼は、あの大魔術師すら、たった数分であのような泣き叫ぶ雌犬に調律してしまったのだ。


「あの少年は……悪魔だ。次は……次は、私が、あの天幕に引きずり込まれて、恐ろしい『調律』を受ける番なのね……っ」


 反抗心など、その圧倒的な「恐怖と能力の落差」の前に一瞬で瓦解していた。


 ルディは、ローブをまとい、極上の安らぎに満ちた表情で自分を見つめるエルザの豊かな肩を抱き寄せながら、泥濘の戦場に完全な勝利の旗を掲げた。


「ふぅ。第一工程【エルザの冷却】、手順通りに稼働完了だな。……さて、それじゃあ次は、予定表ガントチャート通りに、第二工程――あの泥濘にスタックして這いつくばっていた、山岳猟兵セシルの『安全衛生指導と放電屈服』の工程へ、予定通りに進むとしようか」


 ルディの脳内のガントチャートに、次の極上のコンプライアンス教育工程が、青い「完了予定」のマークを灯して動き始めたのだった。




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