第061話:ホワイト経済侵略と、バウムガルト式「安全街道」の開通
王宮の強制監査を物理的かつ快楽的に完全粉砕し、最高権力者である過労ワンオペ女宰相ユスティナを「ホワイト後宮の協力者(社畜)」へと完璧に調律し尽くしたルディ・フォン・バウムガルト。
王国の印璽が押された『カストル帝国攻略および西の防衛の全権委任状』という最強の盾を合法的に手に入れたルディは、西の防波堤である西部辺境伯領の城塞都市へと帰還していた。
「お帰りなさいませ、ルディ様……っ!」
城の執務室でルディを出迎えたのは、西の防衛総督として実質的に全権を握り、すっかりルディの電気に依存している過労令嬢カタリナだった。
彼女は、待ちわびたようにルディの足元へすり寄り、その太ももに自らの頬を擦り付けた。
「私、ルディ様がいらっしゃらない間、ずっと真面目に領地の復興(5S)を進めておりましたわ。ですから……私のこの強張った自律神経を、またあなた様の電気でめちゃくちゃにアースしてくださいね……っ」
薄いシュミーズの下で内股を擦り合わせ、心地よいデトックスの汗を滲ませて甘いおねだり信号を点滅させるカタリナ。
「ああ、よくやったカタリナ。定期的な監査は後でたっぷりしてやる。……だが、まずは仕事だ。これより、俺の有給ライフを脅かす最大のハザード、カストル帝国の完全乗っ取り(超大型M&A)プロジェクトをキックオフする!」
ルディが大号令を放つと、執務室に控えていたバウムガルト隊の幹部たち、そして一人の「異質な巨漢」が直立不動で敬礼した。
ピカピカの黄色い安全兜を被り、通気性抜群のバウムガルト式・防刃作業着に身を包んだ大男――かつての敵将であり、現在は『カストル帝国攻略特別顧問』兼『解体作業現場監督』として再雇用された、ヴォルフガングである。
「特別顧問ヴォルフガング、いつでも出陣の準備は完了しております! カストル帝国の軍事機密、兵站ルート、すべてこの頭に入っております! 安全第一、ヨシ!!」
かつて「痛みを感じないことを誇りとし、部下を死なせ、自分自身すらも壊れゆくのを『名誉』だと思い込んで」いた冷酷な鉄血将軍は、ルディの圧倒的なホワイト待遇(安全第一のロジックと極上の理学療法)によって完全に洗脳(更生)され、今や世界一健康的な現場監督として大粒の涙を流しながら完璧な指差し呼称をキメていた。
「よし。だがヴォルフガング、俺たちは武力で正面から攻め込むような『不安全行動(重大労災の元)』はしない」
ルディは前世の化学メーカーの安全衛生管理者としての、冷徹な笑みを浮かべた。
「カストル帝国は数万の軍勢を誇る超大国だ。まともに戦えば、俺の可愛い部下たちに怪我人(労災)が出る。……俺が選ぶのは、武力ではなく『経済・インフラ・福利厚生』によるホワイト企業買収(内部ハッキング)だ」
◇ ◇ ◇
数日後。レームガルト王国とカストル帝国を隔てる、険しい国境の山岳地帯。
通常の行軍や商人の馬車であれば、落石や泥濘、そして急斜面によって常に「墜落・転落ハザード」がつきまとう死の山道である。
ルディは、ヴォルフガングの案内でその最難所へと赴くと、両手を岩肌に突き当てた。
「これより、『新オーストリアトンネル工法(NATM工法)』を魔導で再現する!」
ズゴゴゴゴゴッ!!
ルディの魔法【土壌安定】が発動する。
岩盤の亀裂に魔導コンクリート(吹付けコンクリート)が流し込まれ、壁面が完全にコーティングされる。さらに魔力の楔が放射状に打ち込まれ、山そのものの保持力を利用した巨大なアーチ状のトンネルが、わずか数日でぶち抜かれた。
床には暗渠排水が施され、馬車が絶対にスタックしない滑り止めのアスファルト舗装が敷き詰められた。
「これが、『バウムガルト安全規格(ISO)』に準拠した超快適な安全街道だ」
その完成した完璧なインフラを前に、ヴォルフガングは黄色いヘルメットを押さえて号泣した。
「おおおおっ……! かつて我々帝国の兵士たちが、凍え、足を滑らせて無駄死に(労災死)していた死の山道が、これほどまでに明るく、安全で快適なトンネルに……! ルディ様の安全設計は、まさに神の御業だ!」
「感動している暇はないぞ、現場監督。ここからが本番だ」
ルディは、完成した安全街道の入り口に関所(料金所)を設け、カストル帝国の商人たちにこの道を大々的に開放した。
ただし、そこには厳格な「利用規約」が存在した。
『過積載の完全禁止、および御者の労働時間遵守の徹底。違反した荷馬車は即刻通行停止とする』
最初は「敵国の道など使えるか」と警戒していた帝国の商人たちだったが、一度この「全く馬車が揺れず、野盗も出ず、天候の影響も受けない完全無災害の安全街道」を使ってしまえば、二度と危険なブラック山道には戻れなかった。
結果として、カストル帝国とレームガルト王国を結ぶ物流ルート(経済の血管)は、ルディの構築した民間プラットフォームへと完全に依存されたのである。
◇ ◇ ◇
ルディの「ホワイト経済侵略」は、物流の掌握だけに留まらなかった。
国境沿いに位置するカストル帝国の軍需工場。そこは、劣悪な環境で技術者たちが一日十数時間もムチ打たれながら働かされる、完全なブラック現場だった。
ルディは、その工場のすぐ真向かいの国境線ギリギリに、ダミーの『超ホワイト・モデル工場』を建設した。
「これより、カストル帝国の技術者たちに向けた『ヘッドハンティング(引き抜き)キャンペーン』を開始する!」
ルディの指示により、モデル工場の前には巨大な看板が立てられた。
『バウムガルト・グループ採用情報:週休二日制、ハサップ(HACCP)基準の温かい給食無料提供、危険手当完備、完全無災害職場!』
さらに、昼休みになると、給炊班のミリーたちが工場の前で「フロスト・ボアの極上シチュー」や「ふっくら焼きたてパン」の炊き出しを始め、暴力的なまでに美味そうな匂いをカストル帝国側へと漂わせた。
「お、おい……。あっちの国に行けば、あんな美味そうな飯がタダで食えて、しかも週に二日も休めるのか……?」
「俺たち、昨日も徹夜で剣を打たされて、支給されたのはカビの生えたパン一切れだぞ……。もう、こんなブラック国家(帝国)で死ぬのは嫌だ!」
過酷な環境で働かされていたカストル帝国の技術者や労働者たちの心は、圧倒的な福利厚生の格差の前に完全に折れた。
彼らは次々とハンマーや工具を放り出し(ストライキを扇動され)、夜逃げ同然で国境を越え、ルディのモデル工場へと雪崩れ込んできたのである。
「ルディ様! 帝国から逃げてきた技術者たち、全員の雇用契約が完了いたしました!」
内部監査官のエリーゼが、薄い白いシュミーズの上からマントを揺らし、妖艶な微笑みを浮かべて報告する。
彼女の内股は、ルディの巨大なハッキング戦略の鮮やかさにゾクゾクと自律神経を漏電させ、早く夜の『特別安全衛生指導』を受けたいと疼いていた。
「よし。兵器を作る人間がいなくなれば、軍事国家は内側から干上がる。……これが、血を一滴も流さない『労働ハッキング』だ」
◇ ◇ ◇
一方その頃。カストル帝国の首都、帝城の奥深く。
「――何だと? 西部国境の物流が完全に掌握され、第三軍需工場の職人たちが全員、レームガルト側に寝返った(夜逃げした)だと!?」
玉座に座るカストル帝国の最高権力者、『鉄血の女帝』ヴィクトリアは、報告にきた将軍を前に怒りでその美しい顔を夜叉のように歪めていた。
薬物と恐怖支配で国を統治し、自身も極度のストレスで常に張り詰めている冷酷な女帝。
彼女の誇る数万の軍隊も、それを維持するための経済基盤も、ルディの「安全管理ロジック」という目に見えない刃によって、確実に首を絞められつつあった。
「おのれ、バウムガルトの四男め……! 我が帝国の誇りを、カネと飯で買収するなどという卑劣な真似を……ッ!」
女帝は玉座の肘掛けをギリッと握り砕き、血走った目で絶叫した。
「もはや猶予はない! 国境へ向けて、我が帝国の最終兵器――『超巨大魔導攻城兵器』を直ちに出撃させよ! あの忌々しい安全街道ごと、バウムガルトの領地を更地に変えてくれるわッ!!」
軍事大国カストル帝国の断末魔とも言える最終兵器の投入。
しかし、それすらもルディの「巨大プロジェクト」における、完璧に計算された『物理的ざまぁ(セルフ・スクラップ)』の第一歩に過ぎないことを、極限の過労とストレスで視野が狭窄している女帝は、まだ知る由もなかった。




