第060話:過労ワンオペ女帝のメルトダウンと、帝国攻略ライセンス
王宮の奥深くに設けられた、王族と最高位の貴族のみが使用を許されるVIPルーム。
豪奢な絨毯と分厚い防音扉に守られたその密室に、ヒステリックな金切り声が響き渡った。
「離しなさい! 私に気安く触らないで! 執務室には、まだ目を通さなければならない決裁書類が山のように積まれているのよ!」
レームガルト王国女宰相、ユスティナ・フォン・シュタイナー(二十八歳)は、ルディに腕を掴まれたまま、必死に抵抗してもがいていた。
普段の完璧な夜会巻きは乱れ、目の下に刻まれたどす黒い隈が、彼女の極限の疲労を物語っている。
「私が……私がすべての決裁を下さねば、無能な貴族たちのせいで国が崩壊してしまうわ! お前のようなバグ(成り上がり者)にかまけている時間など、一秒たりともないのよ!」
「バグはお前の労働環境の方だ、ユスティナ」
ルディ・フォン・バウムガルトは、VIPルームのふかふかの長椅子にユスティナを強引に押し倒し、冷徹な目で彼女を見下ろした。
ルディの網膜に展開された【ガス・温度検知】のサーモグラフィ視界は、彼女の身体が発する「最悪のエラーログ」を完全に可視化していた。
(ひどいバイタルだ。睡眠時間二時間の連続勤務による極度の慢性疲労、胃腸の荒れ、気休めの薬草の過剰摂取による交感神経の暴走。……自律神経が完全にメルトダウン寸前の『レッドアラート』を叩き出している。こんなボロボロの状態で国という巨大プラントを回そうとするなど、経営陣の安全配慮義務違反も甚だしい!)
ルディはため息をつき、ユスティナの胸ぐらを掴んで顔を近づけた。
「お前のそのヒステリーは、憂国の思いでもなんでもない。単なる睡眠不足と、極度の肩こりによる自律神経の異常だ。他人に仕事を任せられない強迫観念(インポスター症候群)が、お前自身を、そしてこの国をブラック企業へと貶めているんだよ」
「な……っ、何を、訳の分からないことを……っ!」
「経営トップの体調不良は、国家における最大の経営リスクだ。安全衛生管理者として、お前に『強制休眠(強制有給)』を命じる」
「ふふっ。宰相閣下。強迫観念に囚われたワンオペは、組織を内側から崩壊させる最大の要因ですわ」
ルディの背後から、内部監査官のエリーゼが薄い白いシュミーズの上からマントを揺らし、妖艶な微笑みを浮かべて歩み寄ってきた。かつては彼女も辺境伯の過酷なスパイ任務でガチガチに強張っていたが、今やルディの「安全管理」によって、すっかり潤いと余裕に満ちた女の顔になっている。
「休むことも、管理職の重要なタスクですのよ? ルディ様の『ホワイト待遇』を受け入れれば、その苦しい政務(残業)から解放されて、すべてが楽になりますわ」
「き、貴様ら……私を愚弄する気……っ!」
ユスティナが震える手でルディを突き飛ばそうとした、その瞬間。
ルディの手のひらが、バームを塗る間も惜しんで、彼女のガチガチに強張った白い首筋へとピタリと押し当てられた。
「問答無用だ。お前のそのカチカチの完璧主義を、俺の電気で分子レベルから融かして(アースして)やる」
バチバチバチッ!!!
「ひゃあああああああああっっっっ!!!???」
ルディの指先から、青白い【微弱放電】が、ユスティナの極限まで緊張しきった神経系へと直接叩き込まれた。
「あ、あつ……熱いぃっ! なに、これ……っ、首の奥から、背骨に、電気がビリビリって……っ!」
「これは『電気刺激による強制リラクゼーション(物理療法)』だ。強張った筋肉の深層にこびりついた疲労物質(乳酸)を、物理的に粉砕・排出してやる」
ルディの指先が、ユスティナの肩甲骨から腰のくびれ、そして豪華なドレスの布地越しに、彼女の太ももの内側へと容赦なく滑り込んでいく。
「あ、あはぁぁっっ! だ、だめ……っ! そんなに気持ちよくされたら……私、法規も、スケジュールの計算も、頭から全部溶けて消えちゃうぅぅっ!」
極限の過労状態にあった彼女の身体は、ルディの放つ快感物質の奔流に耐えられるはずがなかった。
「堅い石」のように強張っていた彼女の心身が、極上の快楽パルスによって一瞬でメルトダウンを起こしていく。
「お前はもう、一人で国を背負う必要はない。お前のその有能な頭脳は、今日から俺の『ホワイトな管理下』で、たっぷり有給を消化しながら、俺のためだけに使え」
「あ、あぁ……っ! ル、ルディ様……っ!」
ルディの電撃パルスが、彼女の経絡の最奥をバチバチと刺激した瞬間。
張り詰めていた「鉄の女宰相」の仮面が、音を立てて砕け散った。
「イクっ! あぁっ、もう政務なんて、法なんて、国なんてどうでもいい……っ! ルディ様の電気(ホワイト待遇)で、私をめちゃくちゃにアースして、休ませてぇぇぇっっ!!」
ユスティナは白目を剥き、よだれを微かに垂らしながら、ルディの腕の中で激しく腰を跳ね上げて極上の絶頂(強制シャットダウン)を迎えた。
長椅子を大量の心地よいデトックスの汗で濡らし、ルディの腕の中で完全に骨抜きにされた彼女は、「ルディ様ぁ……私、一生あなた様の子会社(社畜)としてお仕えしますぅ……」と、幸せそうな寝息を立てて気絶(休眠)した。
(よし! 過労ワンオペ女帝の強制有給、完了! そして本社のトップ監査、完全粉砕ヨシ!)
◇ ◇ ◇
数時間後。
ルディが用意したフカフカのクッションの上で目を覚ましたユスティナは、先ほどまでのヒステリックな姿が嘘のように、憑き物が落ちたようなスッキリとした艶やかな表情を浮かべていた。
彼女の目の下の隈は消え、肌は健康的な薔薇色に輝いている。
「おはよう、ユスティナ。身体の調子はどうだ?」
「あぁ……ルディ様……っ」
ユスティナは、ドレスの胸元を少しはだけさせたままルディの足元にすり寄り、その太ももに顔を擦り付けた。
「こんなにぐっすり眠れたのは、生まれて初めてですわ……。それに、身体の奥がまだビリビリと甘く疼いて……。私、もうルディ様の『安全管理』なしでは、一日も政務を回せませんわ……っ」
完全にルディの電気に依存した「ホワイト後宮の協力者」となった彼女を見下ろし、ルディは羊皮紙の束を差し出した。
「ならば、仕事の時間だ。……ここにサイン(決裁)をもらおうか」
それは、ルディがあらかじめ用意していた『カストル帝国攻略および西の防衛の全権委任状(稟議書)』であった。
「西の国境とカストル帝国の経済的吸収を、王国本社として我がバウムガルト陣営に全面委託するという法的な稟議書だ。これに王国の印璽を押せ」
「はいっ……! ルディ様の、お望みのままに……っ!」
ユスティナは恍惚とした表情で羽ペンを握り、いとも容易く、王国の最高権力者としての署名と印璽をその羊皮紙に刻み込んだ。
「この国も、私も、すべてルディ様の子会社(所有物)ですわ。……だから、帝国を乗っ取ったら、またすぐに王都へ出張してきて、私の自律神経をめちゃくちゃにアースしてくださいね……っ?」
「ああ、約束する。定期的な監査は怠らないからな」
ルディは、王国の印璽が押された『最強の盾』を手に取り、会心の管理者スマイルを浮かべた。
(よっしゃあああ!! これで「本社(王都)の承認」という正規の手順は完全に踏破した!
どんなに派手にカストル帝国をぶっ壊しても、王都から「コンプライアンス違反(反逆)」として背後を刺される監査リスクは100%消滅したぞ! 後方の憂いは、これで完全にゼロだ!)
ルディは、エリーゼとハンスを振り返り、高らかに大号令を放った。
「これにて本社監査とライセンス取得、全工程完了だ!
いよいよ、俺の有給ライフを脅かす最大のハザード、カストル帝国の『鉄血の女帝』と『超巨大魔導兵器』をスクラップにする巨大プロジェクトをキックオフするぞ!
全作業員、帝国攻略に向けて安全第一で出陣だ! 手順、ヨシ!!」
「「「ルディ様万歳!!! 帝国完全乗っ取り、安全第一でヨシ!!!!」」」
王宮の陰謀を物理的・快楽的に完全粉砕し、国家のライセンスを合法的に手に入れたルディ・フォン・バウムガルト。
彼の見据える次なる標的は、軍事大国カストル帝国を「ホワイト経済侵略」で内側から丸ごと買収・解体するという、かつてないスケールの超大型M&Aであった。




