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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第八章:本社監査と西の足場固め(ライセンス取得編)

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第059話:王都上陸と、女宰相ユスティナの「過労死ライン」監査

 


 レームガルト王国の中心、王都の中央宮廷。


 その最も奥深くにある宰相執務室は、重苦しい静寂と、胃を焦がすような薬草の匂いに支配されていた。


「――なぜ……なぜ、この計算が合わないの! 第三区画の税収が昨対比で一パーセントも落ちているじゃない! こんなことでは、来月の軍事予算の編成スケジュールが狂ってしまうわ!」


 山のように積まれた決裁書類の海の中で、ヒステリックな金切り声を上げている女性がいた。


 レームガルト王国女宰相、ユスティナ・フォン・シュタイナー(二十八歳)。


 豪奢なドレスに身を包み、夜会巻きに結い上げた金糸の髪は一見すると完璧な威厳を放っているが、その目の下には分厚い化粧でも隠しきれない濃いくまが黒々と刻まれ、肌は睡眠不足でロウのように青白い。


「私が……私がすべての決裁を下さねば、無能な貴族たちのせいでこの国は崩壊してしまう……っ! なのに、なぜ誰も私の完璧なスケジュール通りに動けないの!」


 彼女は睡眠時間わずか二時間という超絶ブラックなワンオペ環境で、連日徹夜のデスクワークを強行していた。強迫観念(インポスター症候群)に囚われた彼女は、他人に仕事を任せる(デリゲーション)ことができず、自らの心身を削りながら国家という巨大な機械の歯車を一人で回し続けていたのである。


 そんな彼女の限界ギリギリの精神状態に、決定的なバグ(異常事態)の報告がもたらされた。


「……バウムガルト男爵家の四男、ルディが西の防衛線を掌握し、西部辺境伯領の復興を下請けとして取り仕切っている、ですって……?」


 ユスティナは血走った目で、震える報告書を握りつぶした。


「一介の辺境の四男坊が、カストル帝国の精鋭を退け、あまつさえ西の国境まで実質支配するなど……明らかな国家乗っ取りのクーデターの兆候! 私の完璧に計算された国家運営スケジュールを狂わせる、最悪のバグ(反逆行為)だわ!」


 彼女はギリッと奥歯を噛み締め、冷酷な宰相の顔へと戻った。


「あの成り上がり者は、今日この王宮へ特別監査の喚問に応じにやってくる。……謁見の間に『仕掛け』は完了しているわね?」


「はっ。猛毒を仕込んだ歓迎のワイン、そして天井のシャンデリアには王属の暗殺部隊を潜ませております。小僧が謁見の間に足を踏み入れた瞬間、毒と物理的落下の二重の牙が奴の命を刈り取ります」


「よろしい。事故死(労災隠し)として処理なさい。法と規律を乱すバグは、私の手で完全に消去デバッグする!」


 ◇ ◇ ◇


 数時間後。


 王宮の壮麗な大理石の階段を、三つの足音が悠然と上っていた。


 ピカピカのハイブリッドダウンベストを羽織ったルディ・フォン・バウムガルト。


 その右隣には、内部監査官として完全にルディの狂信的な共犯者へと寝返ったエリーゼ・ヒルデ・フォン・ゼーフェルト。


 そして背後には、黄色い安全ヘルメットを小脇に抱えた老騎士ハンスが控えている。


「ルディ様。この王宮の空気……、歓迎の意など微塵も感じられませんわ。至る所に殺気(コンプライアンス違反)が満ちています」


 エリーゼが、薄い白いシュミーズの上から羽織ったマントを揺らしながら、冷たく微笑んだ。


「ああ。俺の【ガス・温度検知ディテクター】も、王宮の門をくぐった瞬間から真っ赤なレッドアラートを点滅させっぱなしだ」


 ルディの網膜に投影されたサーモグラフィ視界には、王宮の至る所に潜む「異常な熱源(暗殺者)」や、気流の不自然な乱れがハッキリと可視化されていた。


「まったく、どこのブラック企業だ。客人を招き入れる動線に『落下物ハザード』や『有毒物混入リスク』を放置するなど、経営陣の安全配慮義務違反も甚だしい。……これより、王宮全体の強制立ち入り監査(5S)を強行する!」


 ルディたちが謁見の間の豪奢な両開き扉の前へと到達すると、そこには恭しく頭を下げる王宮の侍従長が待ち構えていた。


「ようこそおいでくださいました、バウムガルト卿。宰相閣下がお待ちです。まずは、長旅の労をねぎらう歓迎のワインをどうぞ」


 侍従長が差し出した銀の盆の上には、美しく透き通った赤ワインが注がれたクリスタルグラスが置かれている。


 だが、ルディのディテクターは、その液体から立ち上る微量の致死性化学物質の揮発反応を完璧に捉えていた。


「断る」


 ルディは冷徹に言い放った。


「な……っ!? 王宮からの賜り物を拒否されるというのですか!」


「当たり前だ。生産から提供までの温度管理記録もなく、提供者の衛生チェック(HACCP基準)も満たされていない得体の知れない液体など、口にできるか。それに……そのグラス、毒物の混入(異物混入ハザード)を防ぐための『検食プロセス』をすっ飛ばしているな。毒味役を使い捨てる前提のブラックコンプラは、我が陣営では断固拒否する!」


「き、貴様……ッ!」


 侍従長が顔色を変え、奥の間に控えていた近衛兵たちが一斉に殺気を放つ。


「ハンス、その不安全な液体を『適切な手順』で廃棄(処理)しろ!」


「ハッ! 危険物ハザードの廃棄、ヨシ!」


 老騎士ハンスが、鋼鉄のガントレットで盆を弾き飛ばすと、毒入りのワインが絨毯の上でジュウジュウと不気味な泡を立てて床を溶かした。


「ひぃっ!?」


「おいおい、床材を溶かすほどの劇薬か。……まったく、安全管理の基本がなってないな」


 ルディは呆れたように首を振ると、そのまま謁見の間の中央へと堂々と足を踏み入れた。


 玉座の脇で待ち構えていた女宰相ユスティナは、自らの仕掛けた第一の罠があっさりと見破られたことに激しく動揺しながらも、ヒステリックな声を張り上げた。


「法と規律を乱す田舎貴族め! 王宮の作法を無視するその態度、許しはしないわ! ――やれッ!」


 ユスティナの合図とともに、謁見の間の高い天井――巨大なクリスタル・シャンデリアの陰に潜んでいた王属暗殺部隊の数名が、一斉にルディたちの頭上へと刃を向けて飛び降りようとした。


「――上部作業員、安全帯(命綱)の未着用を確認。重大な墜落・転落ハザードだ」


 ルディは、見上げることもなく、冷徹な声で宣告した。


「【土壌安定ソイルコンパクション】――支点破壊アンロック!」


 ルディの指先から放たれた魔力が、謁見の間の天井を支える石造りの梁の分子結合へとピンポイントで干渉した。


 ギシッ、バキィィィィンッ!!!


「なっ……!?」


 暗殺者たちが飛び降りるよりも一瞬早く、彼らが足場にしていたシャンデリアの基部そのものが、ルディの魔法によって『安全に(計画的に)』天井から切り離された。


 数トンの重さを持つ巨大なシャンデリアが、暗殺者たちごと、ルディたちのいる場所からは完全に逸れた安全な位置――近衛兵たちの真正面へと、轟音を立てて落下した。


 ガシャアァァァァンッッ!!!


「ぐわあああっ!?」


 暗殺者たちは自重とガラスの破片の下敷きになり、一瞬にして気絶・無力化(セルフ墜落労災)した。


「きゃあああっ!? な、何をしたの!!」


 ユスティナが悲鳴を上げ、近衛兵たちがパニックに陥る中、ルディは拡声魔導具メガホンを取り出し、王宮内に響き渡る大音響で怒号を飛ばした。


「頭上ヨシの確認を怠るからこうなるんだ! 高所作業における安全帯の不使用、および設備の老朽化を放置した結果の『重大な落下物災害』だぞ!

 近衛兵ども、そこに突っ立っていると二次災害に巻き込まれるぞ! 危険だから直ちに退避しろ!!」


「ひ、ひぃぃっ! 退避ィィッ!」


 王宮の近衛兵たちは、ルディのあまりにも堂々とした「安全管理者の指示」と、目の前で起きた物理的な大破壊に完全に気圧され、我先にと謁見の間から逃げ出してしまった。


 あっという間に、王宮の防衛網はルディの『強制安全監査(物理的ざまぁ)』の前に瓦解したのである。


「な、なぜ……! 私の、完璧に計算された排除スケジュールが、こんな理不尽な破壊で……っ!」


 玉座の脇で一人取り残された女宰相ユスティナは、震える手で決裁書類を抱きしめながら、後ずさった。


ルールを……法を守りなさい! この国は、私が寝る間も惜しんで、すべてを管理しているのよ! お前のようなバグが、私の国をどうする気……っ!」


ルールだと?」


 ルディは、シャンデリアの瓦礫を踏み越え、ヒステリックに叫ぶユスティナの眼前へと静かに歩み寄った。


「一日二時間睡眠での連続勤務。無謀な暗殺タスクによる部下の使い捨て。そして現場の設備の老朽化放置。……お前のその狂った労働環境こそが、この国における最大の労基法ルール違反だ」


「な……っ、何を、訳の分からないことを……っ!」


 ルディのディテクターは、ユスティナの身体が放つ「極限の過労とストレスによる、真っ赤なレッドアラート(メルトダウン寸前)」を完全に捉えていた。


経営陣トップの体調不良は、国家における最大の経営リスク(ハザード)だ。……これより、安全衛生管理者として、お前に『強制休眠(強制有給)』を命じる」


「離しなさい! 私は休むわけには――ひゃっ!?」


 ルディは有無を言わさぬ力で、ユスティナの細い手首を掴み、謁見の間の奥にある王族用のVIPルームへと、彼女を強引に引きずり込んだ。


「さあ、お嬢さん。お前のそのガチガチに強張った完璧主義コリを、俺の電気で分子レベルから融かして(アースして)やる時間だ」


 王都の最高権力者である鉄の女宰相が、ルディの絶対的な「安全管理ロジック」と極上の快楽の前に、完全に自律神経を強制オフされる夜が、今まさに始まろうとしていた。




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