第056話:ブランドニューデイズと、後方の憂いを絶つ満充電アース
大陸暦一二五五年、初夏。
カストル帝国の『鉄血魔導重装歩兵』五百名を、不整地トラップによるオーバートルクで完全自壊(セルフ労災)させたバウムガルト隊の快挙は、皮肉にもルディ・フォン・バウムガルトの「平和な有給ライフ」を根本から破壊する、最悪のドミノ倒し(マルチ・ハザード)を引き起こしていた。
「――ルディ様。王都(本社)より、極めて不穏な親書が届いておりますわ」
冷房代わりの魔導冷風機が快適な二十四度を保つ旧ロベルト子爵邸の執務室。
内部監査官として完全にルディの奴隷へと寝返ったエリーゼ・ヒルデ・フォン・ゼーフェルトが、薄い白いシュミーズの裾を震わせながら、封蝋の施された重々しい羊皮紙を長机に置いた。
「王都の中央宮廷を取り仕切る最高権力者……女宰相ユスティナ・フォン・シュタイナー閣下からの『強制召喚状(特別監査)』です。
……先の戦いでカストル帝国の精鋭を無傷で完封したルディ様の異常な戦果を、彼女は『国家を乗っ取るクーデターの兆候』と見なし、極度の警戒を抱いております。無視すれば、反逆罪として討伐軍が差し向けられるでしょう」
「……過労で視野が狭くなっているワンオペ女宰相のヒステリー(コンプライアンス違反)か。面倒くさいことこの上ないな」
ルディが額を押さえて深いため息をついた、まさにその瞬間。
バンッ! と執務室の扉が開き、専属斥候のセシルが血相を変えて飛び込んできた。
「ルディ様、緊急レッドアラートだよ!! 西の国境から逃げてきた難民たちの情報をディテクターで解析したんだけど……最悪の事態!」
セシルは息を切らして叫んだ。
「ルディ様! 前に私たちが倒した五百名のせいで壊滅した『西部辺境伯領』だけど……無能な辺境伯が復興を完全に放棄して、西の国境が丸裸(倒産状態)のまま放置されてるの! このままだと、すぐ後ろに控えているカストル帝国の『数万の本軍』が、何の抵抗も受けずにまっすぐこのロベルト領になだれ込んでくるよ!」
「なんだと!? 危機管理能力ゼロのクソ経営者(辺境伯)め、防波堤に穴が空いたまま放置しているだと!? このままでは俺の有給ライフが数万の大軍に轢き潰される!」
ルディの脳内スプレッドシートが、一瞬にして真っ赤な警告色(大炎上)で塗りつぶされた。
西の国境を守る大企業(西部辺境伯)が、たった五百名の敵に負けて倒産しただと?
防波堤が消滅した今、俺のこの安全で快適なホワイト領地は、軍事超大国カストル帝国の数万の大軍の前に、丸裸で晒されているということだ。
それに加えて、背後の王都(本社)からは、いちゃもんレベルの強制監査(出頭命令)。
(……ふざけるな! 前門の数万の大軍、後門のブラック監査!? 俺の有給ライフの基盤が、前後からダブルでプレス機にかけられようとしているじゃないか!!)
ルディはギリッと奥歯を噛み締め、長机をドンッと叩き割らんばかりの勢いで立ち上がった。
その瞳に宿っていたのは、もはや「逃げてサボりたいだけの臆病な四男坊」の光ではなかった。
「局地的な防衛は、もう終わりだ」
ルディの低く、冷徹な声が執務室に響き渡る。
テレーゼ、エリーゼ、ヒルデ、セシルといった側近ヒロインたちが、そのただならぬ覇気に息を呑んだ。
「俺は絶対に死にたくない。そして、可愛いお前たちを侍らせて、永遠に安全なベッドでゴロゴロと有給を消化したい。
……後方で究極に楽をするためには、自ら前線に赴き、ハザードの根源を物理的・経済的に叩き潰すしかないんだ」
「る、ルディ様……?」
テレーゼが丸眼鏡の奥の瞳を潤ませる。
「これより我が陣営は、方針を大きく転換する!
防波堤を失った無能な『西部辺境伯領』を、復興支援の名目で合法的に吸収合併(M&A)し、西の足場を固める! そしてそのインフラを利用して、カストル帝国そのものを経済と福利厚生で内側から『完全ホワイト買収』してやる!
同時に俺は王都へ出張し、あのヒステリックな過労女宰相を直接叩き伏せ、帝国攻略の『全権』をもぎ取ってくる!!」
「強制監査の期日まではまだ十日の猶予がある。先に西の国境(辺境伯領)を迅速に吸収(M&A)し、西の防波堤を再構築して『実績(手土産)』を作ってから王都へ乗り込む。丸腰で監査に向かうなど、三流の不安全行動だ。西の足場を固め、最強の交渉材料を持って王宮を制圧するぞ!」
「おおおおおっ……!」
ヒルデが感涙にむせび、その場でガシャリと平伏した。
「なんというスケール……! ついに若君が、その圧倒的なホワイトの教義で、大陸全土を飲み込む覇道へと歩み出されるのですね!!」
ヒロインたちの目が一斉に狂信のハートマークに変わる中、ルディの脳内には、極めて現実的な「ボトルネック(後方の憂い)」が突き刺さっていた。
(……だが、俺が長期間、西や王都へ長期出張に行けば、この本拠地に残していく幹部ヒロインたちはどうなる?
彼女たちは皆、俺の【微弱放電】なしでは生きていけない身体に調律されている。俺が留守にすれば、間違いなく禁断症状で『夜の暴動(タスク滞留ハザード)』を起こし、陣営が内側から崩壊するぞ!)
ルディは冷や汗を流しながら、西から逃げてきてロベルト領の外れに作られた難民キャンプの視察へと向かった。
◇ ◇ ◇
難民キャンプの片隅。
そこでは、劣悪な衛生環境の中で、一人の小柄な少女が、首に重い鉄の鎖をつけられ、周囲から石を投げられていた。
「誰も私に触らないで! 黒焦げになっちゃう!」
希少な『雷獣』の血を引く亜人の少女・ライラ(十四歳)だった。
彼女は感情が高ぶると体内の雷の魔力が制御できずに「漏電」してしまい、これまで何度も感電事故(労災)を起こしてきたため、「歩く感電ハザード」として迫害されていたのだ。
だが、ルディの【ガス・温度検知】は、彼女の特異体質が放つ異常な電磁場を捉え、瞬時にその『資源的価値』を弾き出していた。
(おいおい、ただの漏電じゃない。あの子の肉体は、尋常じゃない容量の魔力を蓄え、それを放出できる『超大容量コンデンサ(生体バッテリー)』そのものじゃないか!
彼女を俺の電気でハッキングして『スマートグリッド(変電ハブ)』にすれば、俺の留守中も、本拠地のヒロインたちに最低限の維持アースをサブスク配信できるぞ!)
ルディは絶縁性の高い革手袋を装着し、バチバチと火花を散らすライラに堂々と歩み寄った。
「安心しろ。俺は安全管理者だ。お前のその『漏電ハザード』は、俺が完璧に絶縁してやる」
ルディは、暴走するライラの雷の魔力に対して、自身の【微弱放電】を「逆位相の波長」で流し込み、彼女の魔導回路を一瞬で中和・安定させた。
生まれて初めて自分の電気を痛がらずに受け止め、優しくコントロールしてくれたルディの圧倒的な力に、ライラは涙を流して完全服従を誓った。
◇ ◇ ◇
その日の夜、ルディの天幕にて。
ルディは、ライラを「後方支援の要」として本格稼働させるため、彼女の生体バッテリーに自身の魔力をフルチャージする『初期充電』を行っていた。
「いいかライラ。お前はこれから、俺の巨大な電力を常に体内にプールし、俺が西方出張で留守の間、エルザたちに『維持アース』を行う最重要インフラになる。……俺の最大電圧(本番アース)に耐えられるか?」
薄いシュミーズを脱ぎ捨てたライラは、雷獣の耳と尻尾をパタパタと振って、潤んだ瞳でベッドに這いつくばった。
「は、はいっ! ルディ様の電気なら、私、いくらでも受け止められますぅっ!」
ルディは、導電バームで濡れそぼったライラの太ももの内側、最も経絡が集中するツボへと、青白い火花を散らす二本の指を一気に深く突き当てた。
「ひゃあああああっ!!??」
接触部から、凄まじい青白い放電の火花が飛び散る。
ルディの指先を通じて、ライラの自律神経の最奥へと濃厚な【微弱放電】のフルチャージが叩き込まれた。
「す、すごいっ、ルディ様の熱い電気が、お腹の奥から全身のバッテリーにギシギシに詰め込まれて……っ! 私、私、ルディ様の電気で満充電になっちゃいますぅぅっ!!」
ルディの緻密に計算された強烈な指圧と電撃パルスに、ライラは白目を剥き、雷獣の耳をビクビクと逆立たせながら、狂おしい絶頂を迎えた。
「溶けるっ! ルディ様の電気で、私、完璧な変電ハブにされちゃいますぅぅぅっっ!!」
ドクン!!! と彼女の自律神経が脈打ち、ルディの極上のアース(電力)を限界まで溜め込んだライラは、心地よいデトックスの汗を全身から噴き出させ、常に頬を赤く染める「常時欲情状態(漏電状態)」の極甘な生体バッテリーへと生まれ変わった。
「ルディ様! 私、お留守の間、お姉様たちへの配電、絶対にショートさせずに頑張りますっ! だから帰ってきたら、また私に直接フルチャージしてくださいねっ!」
これで、ルディ不在時でもヒロインたちの「お預け暴動リスク」は物理的に鎮圧された。
「よし! 後方支援のスマートグリッド、稼働ヨシ! だが、長期間本拠地を空ける以上、インフラの老朽化と外部からの政治的干渉(監査)という二つのハザードも、事前に完全ブロック(ロックアウト)しておかなければならない」
ルディは、まだ明け方前の薄暗い執務室に、二人の有能な部下を呼び出していた。
廃鉱山で発掘したドワーフの少女・アイラと、内部監査官のエリーゼである。
「アイラ。俺が留守の間、領内の『石化防柵』や『暗渠排水溝』、そして各施設のオンドルの保守点検は、お前に一任する」
ルディは、前世の知識を詰め込んだ分厚い羊皮紙の束――『バウムガルト式・予防保全マニュアル(SOP)』を、アイラの小さな手にポンと乗せた。
「えっ……? こんな、ルディ様の頭脳が詰まった大切な魔導建築の秘伝書を、私なんかに預けてくださるんですか……っ?」
「当然だ。お前は廃鉱山のNATM工法で、誰よりも正確に俺の土木魔法のロジックを理解した優秀な『現場監督代行』だからな。インフラの崩壊は重大労災に直結する。定期的な点検を怠るなよ」
「は、はいぃっ……! ルディ様が作ってくださったこの安全で温かい街、絶対に、ヒビ一つ入れさせませんっ! 私、ルディ様が帰ってくるまで、立派に現場を守り抜きます!」
アイラは、ルディから与えられた圧倒的な信頼にボロボロと嬉し泣きし、マニュアルを胸に抱きしめて深く平伏した。
インフラの物理的な崩壊リスク(環境ハザード)は、これで完全にクリアだ。
「次に、エリーゼ。お前の任務が最も重要だ」
「はい、ルディ様……。私に、どのような『裏工作』をお命じになられますか……♡」
エリーゼは、薄いシュミーズの裾を揺らし、ルディの足元に艶かしくすり寄りながら、蕩けた氷の瞳で見上げた。
「俺がこれから西へ向かい、さらに王都へ出張するというイレギュラーな動きを、辺境伯(お前の父親)に一切悟らせるな。親会社からの不要な介入(監査ハザード)は、俺のサボり計画の最大の邪魔になる。……『ルディ様は領内の安全パトロールに専念しており、野心など微塵もありません』という偽装報告書を、引き続き定期送信し続けろ」
「ふふっ……お任せくださいませ、ルディ様。父上の目は、私の完璧な情報シールド(ロックアウト)で完全に塞いでみせますわ」
エリーゼは、自らの太ももの内側にある『放電痕』をルディの長衣にそっと擦り付けながら、極上の背徳感に熱い吐息を漏らした。
「でも、ルディ様。私、ルディ様が留守の間、父上を騙し続けるという重圧で、また自律神経がガチガチに強張ってしまいそうですわ。……ですから、王都から帰還された暁には、たっぷり、とろとろになるまで……ご褒美の『監査』をしていただけますわよね……?」
「ああ。完璧な情報統制を維持できたら、特別有給を上乗せして朝まで調律してやる」
「あぁっ……! はいっ、ルディ様ぁっ……!」
エリーゼは心地よいデトックスの汗で内股を濡らしながら、ルディへの狂信的な裏切り(スパイ行為の逆用)を甘美に誓った。
「よし! 物理インフラの保守、および政治的情報ロックアウト(エリーゼ)、100%設定完了だ! これで何の憂いもなく西方出張(ホワイト買収)に専念できるぞ!」
ルディは、後方の憂いを何重ものセーフティネットで100%遮断(ヨシ!)した極上のカタルシスを胸に、黎明の空を見上げた。
後方で永遠に楽をするための、最も過酷で、最もスケールの大きな戦い。
ルディ・フォン・バウムガルトの真の覚醒――『ブランドニュデイズ』の幕が、いよいよ高らかに上がったのである。
「西の防波堤の買収、ならびに本社監査粉砕に向けて、全作業員、出陣! 手順、ヨシ!!」




