第053話:鉄血の自壊(オーバートルク)と、現場警備主任の決別と救済
大陸暦一二五五年、初夏。
ゼーフェルト辺境伯領北部、新生ロベルト直轄領の防衛線。
初夏の太陽が照りつける中、地響きを立てて迫りくる黒い鉄の波があった。
カストル帝国軍・精鋭中隊。軍事超大国が誇る『鉄血魔導重装歩兵』五百名である。
彼らは全身を分厚い魔導金属のフルプレートアーマーで覆い、兜の奥の瞳を薬物によって不気味に濁らせながら、狂ったような速度で平原を踏み荒らして突進してきていた。
「進めェッ! カストル帝国の部品ども! 痛みも熱も幻に過ぎん! 止まることは俺が許さん!」
部隊の先頭で巨大な魔導戦槌を掲げ、冷酷な男将軍ヴォルフガングが絶叫する。
彼らは『痛覚麻痺の戦闘薬(違法ドラッグ)』を過剰投与され、鎧の内部に『冷却魔石』を組み込むことで、熱中症すらも強制的に無効化された、死ぬまで稼働をやめない狂気の機械化歩兵であった。
だが、彼らがバウムガルト隊の陣取る防衛線――なだらかな平原へと足を踏み入れた瞬間、その「異常な進軍」に致命的な狂いが生じ始めた。
「――っ!? 足元が……っ!」
最前列を走っていた重装歩兵の足が、ズブッと不自然な角度で沈み込んだ。
彼らが踏み込んだ平原は、一見するとただの草地に見える。しかしその実態は、ルディ・フォン・バウムガルトが【土壌安定】の魔法を極悪に逆用して作り上げた、『踏み込むたびに足首や膝に最悪のトルク(ねじれ)がかかる、計算し尽くされた玉砂利と泥の不整地トラップ』であった。
「止まるな! たかが泥濘だ、力で踏み抜けェッ!」
ヴォルフガングが怒号を飛ばす。
痛覚がない帝国兵たちは、足首が異常な角度に曲がろうとも顔色一つ変えず、強引にフルパワーで泥と玉砂利を蹴り飛ばし、突撃を継続しようとする。
そこへ、彼らを迎え撃つ防衛部隊が姿を現した。
「さあ、来なさい! カストル帝国の時代遅れのスクラップども! ルディ様の教えを受けた我が『ホワイト警備隊』が、貴様らの不安全行動を徹底的に指導してやる!」
バウムガルト隊・現場警備主任、ヒルデ・フォン・クランツである。
彼女が率いる五十名の警備隊は、敵のような重装甲ではない。ルディから支給された動きやすい軽量な警備制服と『防刃ハイブリッドダウンベスト(夏用通気モデル)』、そして足元を完璧に保護し、泥を確実にグリップする『二重底の安全靴』を身につけていた。
さらに彼らが立っているのは、不整地の上に組まれた、絶対に崩れない『特設キャットウォーク(安全足場)』の上である。
「装甲を捨てた腑抜けの女が、小賢しい足場から吠えおって! 踏み潰せ!!」
ヴォルフガングの命令で、重装歩兵たちが戦槌や大剣を振りかぶり、ヒルデたちへと襲いかかる。
だが、ヒルデ隊は決して正面から打ち合わない。
ルディの厳命である「受け流し」を徹底し、安定したキャットウォークの上から、軽快なステップで敵の攻撃をギリギリで躱し続ける。
空を切った敵の重い一撃は、ただでさえ不安定な不整地に彼ら自身のバランスを崩させ、彼らの膝や腰に「過重なねじれ(オーバートルク)」を次々と蓄積させていった。
その後方、安全な指揮所(安全地帯)から、ルディは【ガス・温度検知】を最大出力で展開し、敵の肉体の『限界値』を冷徹にモニタリングしていた。
ルディの網膜には、痛覚を麻痺させて暴れ回る敵兵たちの関節や靭帯が、重装甲のオーバートルクによってメキメキと悲鳴を上げ、金属疲労を起こして「真っ赤に発光」しているのがハッキリと視えていた。
ルディは拡声魔導具を手に取り、戦場全体に響き渡る声で、冷酷なる『労働生理学』の真理を宣告した。
「馬鹿なブラック工場長め! 『痛み』という安全装置を外せば、無敵になるとでも思ったか!?」
ルディのロジカルな声が、暴風のように戦場を制圧する。
「痛覚を消しても、筋肉を動かすためのATPの枯渇と、疲労物質(乳酸)の蓄積は消せない『物理現象』だ!
限界を超えたオーバートルクは、ただ部品(人体)の金属疲労(破断)を早めるだけだ! ――ヒルデ! 敵の膝関節(稼働限界)が吹き飛ぶまで、あと三分だ! 死んでも被弾するな、持ち堪えろ!」
「ハッ! 了解いたしました、ルディ様!! あと三分間、徹底的に『無駄振り(過重労働)』を強要いたします!」
ヒルデは清々しい笑顔で応え、敵の攻撃を華麗にステップで躱しながら、さらに敵を不整地の奥へと誘い込む。
「あと二分! 敵の太ももの筋繊維が断裂し始めているぞ!」
ルディの無慈悲なカウントダウンが響く。
「あと一分! 乳酸の蓄積による筋硬直が始まる!」
「あと十秒! ……五、四、三、二、一……! 限界点、突破!!」
ルディの宣言が完了した、まさにその瞬間だった。
ブチッッ!!! ゴキィィィッ!!!
戦場のあちこちで、凄惨な肉の破断音と骨が砕ける音が連鎖的に響き渡った。
「な……っ!?」
ヴォルフガングが驚愕に目を見開く。
痛覚がないため「自分の身体が壊れていること」に気づいていなかった帝国兵たちは、ルディの計算した限界時間を迎えた瞬間、次々と自重と慣性に耐えきれず、膝の靭帯やアキレス腱を断裂(セルフ労災)させた。
「が、あ……っ!? 足が、動か……ッ!」
一人が崩れ落ちると、密集陣形を組んでいた後続の兵士たちがそれに次々とつまづき、重装甲の自重が仇となって、ドミノ倒しのように重なり合って倒れていく。
彼らは痛みを感じないがゆえに、壊れた足で無理に立ち上がろうとし、さらに骨を粉砕して完全に身動きが取れなくなっていった。
「な、なぜだ!! 立て! 部品はまだ動くはずだ! なぜ動かん!!」
ヴォルフガングが激昂し、血走った目で自らの部下たちを怒鳴りつける。
「――それが、血の通った人間を部品扱いし、肉体の悲鳴を無視した『不安全なブラック軍隊』の末路だ!」
キャットウォークから軽やかに跳躍し、ヴォルフガングの眼前へと肉薄したのは、ヒルデだった。
「おのれ、装甲を捨てた女風情がァァッ!」
ヴォルフガングが巨大な戦槌を横薙ぎに振り払う。
かつてのヒルデであれば、己の重装甲を盾にしてその一撃を正面から受け止め、致命的なダメージを負っていただろう。
だが、今の彼女は違う。
「私はもう、部下を死地に追いやり、無駄な我慢を強いる『過去の私』ではない! ルディ様から『命を守る安全第一のロジック』を教え込まれた、誇り高きバウムガルトの警備主任だ!!」
ヒルデは、軽量なダウンベストと鍛え上げられた脚力を生かし、戦槌の一撃を紙一重でダッキングして躱した。
そして、その勢いのまま全身のバネを解放し、自らの大剣の柄を、ヴォルフガングの装甲の唯一の隙間――兜の顎紐のジョイント部分へと、渾身の力で下からカチ上げた。
ガガァァァァァンッッ!!!
「グ、ブォォッ……!?」
脳髄を直接揺らされたヴォルフガングの巨体が、糸の切れた操り人形のように宙を舞い、不整地の泥の中へと無様に叩きつけられた。完全なる武装解除である。
「本日の警備業務(ハザード排除)、完全無災害にて完了ヨシ!!」
ヒルデが、過去の自分(ブラック精神論)を完全に乗り越えた証明として、誇らしく大剣を空に掲げた。
「「「ルディ様万歳!! ヒルデ主任万歳!! 安全第一、ヨシ!!!」」」
バウムガルト警備隊の、一切の損耗(怪我人)を出さなかった歓喜の雄叫びが、初夏の平原に高らかに響き渡った。
◇ ◇ ◇
戦闘終了後。
陣地に運び込まれた帝国兵の捕虜たちは、ルディの指示により「適切な医療(労災治療)」と「痛覚麻痺薬の解毒剤」を投与されていた。
薬が抜け、自らの身体がボロボロに壊れている『痛み』が戻ってきたことで、彼らは初めて自分たちが「使い捨ての部品」として狂わされていた事実に直面し、絶望の涙を流して呻いていた。
「あ、痛い……っ! 足が、俺の足が……っ!」
「助けてくれ……俺たちは帝国のために戦ったのに、こんなボロボロになるまで使い捨てられるなんて……!」
そこへ、バウムガルト隊の炊事班が、温かいハサップ給食と清潔な毛布を配り始めた。
「ゆっくり食べて。怪我はルディ様の指示で全部治療するから、もう無理しなくていいのよ」
その『圧倒的なホワイト待遇』に触れた帝国兵たちは、痛みに泣き叫びながらも、出された温かいスープにすがりつき、次々とバウムガルト隊への寝返り(忠誠)を誓い始めていた。
泥の中に拘束され、その光景を無理やり見せつけられていたヴォルフガングは、血走った目で絶叫した。
「貴様ら! 帝国の誇りを忘れたか! 敵の飯など食うな! 貴様らは死ぬまで帝国の部品として――」
「黙れ、三流のブラック工場長」
冷徹な声とともに、ルディがヴォルフガングを見下ろした。
ルディは、涙を流しながら温かいスープをすする帝国兵たちを指し示し、冷酷に宣告した。
「貴様のブラック軍隊は誰も幸せにしなかった。痛みという安全装置を奪われ、部品扱いされた人間が最後に選ぶのは、恐怖や精神論ではない。……命を守ってくれる『安全(ホワイト待遇)』だ」
「な、なんだと……ッ!」
「お前の信じた軍規は、この俺の『福利厚生』の前に完全敗北したんだよ。お前が使い潰そうとした部品は、今日から俺の『大切な資産』として再雇用してやる」
自らが絶対と信じていた恐怖支配が、ルディの圧倒的な「ホワイトな力学」によって一瞬で瓦解し、部下たちが心底からの安堵の涙を流している。
その残酷な現実(精神的ざまぁ)を突きつけられたヴォルフガングの瞳から、ついに狂気の光が消え去り、彼は完全なる絶望に陥って泥の中でガックリと首をうなだれた。
「さて……。現場の整理整頓はハンスたちに任せておくか。俺には、もう一つやらなければならない『重要な任務』があるからな」
ルディは、冷徹な管理者スマイルを浮かべると、戦闘を終えて報告に戻ってきたヒルデの手首を、無言でガシッと掴んだ。
「る、ルディ、様……?」
「よく過去の自分(精神論)を乗り越えた。見事な采配だったぞ、ヒルデ」
「あ、ありがとうございます……っ! すべて、ルディ様の教えのおかげで――」
「だが」
ルディはヒルデの瞳をじっと見つめ、彼女の細い腰を強引に引き寄せた。
「お前はギリギリの回避を連続で行ったことで、極度の緊張と『遅発性筋肉痛(過労)』の兆候が出始めている。俺のディテクターには、お前の交感神経がレッドゾーンに振り切れているのが視えているぞ」
「えっ……? い、いえ、私はこれくらい……っ」
「我慢は不安全行動だ。――今すぐ俺のベッドで、『急性疲労の強制リリース(特別有給)』を行う。来い」
「ひゃぅっ……!!」
ルディは抵抗を許さず、ヒルデを抱き上げるようにして、ハーブの香る魔導温風機が効いた己の個人天幕(寝室)へと連れ込んだ。
天幕のベッドにヒルデを寝かせると、ルディは彼女のピカピカの警備制服とダウンベストを素早くパージ(脱衣)させた。
現れたのは、過酷な回避運動でうっすらと汗をかき、極度の緊張で赤く火照った、完熟した大人の肉体美。豊満な双丘は激しく上下し、アスリートのように引き締まった腹筋の下、むっちりとした太ももの内側には、かつての調律で刻み込まれた『薄紅色の放電痕』が甘く脈打っていた。
「ル、ルディ様……っ。私、無災害で帰ってまいりました……っ。だから……」
ヒルデは、自らの太ももをもじもじと擦り合わせ、潤んだ瞳でルディを見上げた。
「ああ。約束通り、かつてないほど激しく、甘く、朝まで癒やして(アースして)やる」
ルディは導電性のバームを手のひらにたっぷりと塗り広げると、ヒルデの太ももの内側、その『放電痕』へと、バチバチと青白い【微弱放電】を帯びた指先を這わせた。
ピリピリピリッッ!!!
「ひゃああああああああっっっっ!!!???」
ヒルデの身体が、ベッドの上で激しく弓なりに跳ね上がった。
戦場の極度の緊張でガチガチに強張っていた彼女の自律神経に、ルディの極低周波の快感パルスが直接叩き込まれる。
「あ、あつ……熱いぃっ! ルディ様の、電気が……っ、私の強張った筋肉の奥まで、一瞬でドロドロに溶かしてぇぇっ……!!」
ルディの指先が、バームの滑りを借りて、ヒルデの魔力と疲労が最も滞留する経絡の最奥へと、容赦なく侵入していく。
「あ、はぁぅっっ! だめ、そんな奥までバチバチされたら……私、私……っ! 狂っちゃいますぅっ!!」
ヒルデは、過去の自分を乗り越えた達成感と、ルディからの圧倒的な肯定、そして脳髄を焼き尽くす電気の快感に、とめどなく大粒の涙を流し始めた。
これまでの彼女の心の奥底にわずかに残っていた、「騎士としての矜持」という名の最後の防壁。それが今、完全に、そして跡形もなく融解していく。
「ルディ様……っ! 私、もう誇り高き騎士なんかじゃありません……っ。ルディ様のホワイトな愛と電気がないと一秒も生きていけない、ただの忠犬ですぅっ!」
「泣いてベント(圧力開放)しろ。過去の自分を捨て去ったお前に、これより最終リリース(本番アース)を執行する!」
ルディは、ヒルデの太ももの内側へと、熱く青白い火花を散らす二本の指を一気に深く突き当てた。
「あぐぅぅぅっっっっっ!!!!???」
接触部から、青白い電気の火花が天幕の中に激しく飛び散る。
「あはぁっ! ルディ様の電気で、私、私……完全に救済されちゃいますぅぅぅっっ!!」
ヒルデは白目を剥き、よだれを垂らしながらルディの背中にしがみつき、理性を完全にかなぐり捨てて狂ったように腰を跳ね上げた。
「もっと、もっと私を部品(労働資産)みたいにめちゃくちゃにメンテナンスしてぇぇっ!!」
彼女の自律神経が激しく脈打ち、過去のすべての呪縛から解き放たれた極上のデトックスの汗が、とめどなく溢れ出していく。
「よし! 急性疲労の強制リリース、100%成功だ!」
ルディは、完全に骨抜きにされ、涙と汗にまみれて幸せそうに微笑むヒルデを強く抱きしめながら、自身の『有給ライフの防衛戦』における大勝利を、心の中で熱く噛み締めていた。
――だが、その「極限の事後ケア(本番アース)」が繰り広げられる天幕の外。
「はぁ、はぁっ……! す、すごい……っ。ヒルデ主任、あんなに……あんなにみっともなく、ルディ様の電気で啼かされて……っ!」
新しく雇用されたばかりの無魔力亜人の少女、クロエが、顔を真っ赤に茹でダコのように染めながら、自らの太ももを激しく擦り合わせていた。
テントから漏れ聞こえる青白い放電の音と、ヒルデの理性を失った狂おしい絶頂の悲鳴。そして、夜風に乗って漂ってくるむせ返るような心地よいデトックスの汗とハーブの匂いが、クロエの獣人特有の本能を激しく刺激していた。
「私……私のお腹の奥も、もう限界ですぅっ……! ルディ様の安全マニュアルを完璧に守って、絶対に、次は私が……あのベッドの上で、ルディ様のビリビリするお仕置きをもらうんだわっ……!」
クロエは、自らの太ももの内側を極上のデトックスの汗でじっとりと濡らしながら、限界突破の欲情(漏電)状態へと陥っていくのであった。




