第050話:【幕間】猟犬と黒鉄の百合、そして迫り来る西の影
大陸暦一二五五年、春。
ゼーフェルト辺境伯領の北部に位置する「新生ロベルト直轄領」は、ルディ・フォン・バウムガルトの圧倒的な安全衛生工学とインフラ整備により、大陸一の豊かな『黄金のパンくず地帯』としての春を謳歌していた。
領主本邸の、魔導冷風機によって快適な二十四度に保たれた執務室。
十五歳から十六歳へと成長し、管理者としての凄みを増したルディは、フカフカのソファに深く背を預け、極上の有給ライフを満喫していた。
「ルディ様、ルディ様っ! 本日の領内パトロール、異常なし(オール・グリーン)だよ!」
バタンと扉を開けて飛び込んできたのは、小柄で身軽な体格に、短い緑の髪と鋭い猫のような瞳を持つ少女――バウムガルト隊の専属斥候(前方危険探知担当)、セシル(十六歳)だった。
彼女はルディから支給された『軽量・撥水迷彩ポンチョ』を翻し、革の乗馬ズボンに包まれた引き締まった脚で、ルディの足元へとタタタッと駆け寄る。
「ご苦労、セシル。今日も俺の『目と耳』として、完璧な働きだったな」
「えへへ……っ。ルディ様に褒められちゃった!」
ルディがポンと頭を撫でると、セシルは「ふにゃあ……」と喉を鳴らし、まるでしっぽを振る犬のように、ルディの太もに自らの頬をすり寄せた。
かつて、隣国オルテンシア王国の精鋭軽騎兵部隊『山岳の猟犬』に所属し、世界一の山岳隠密術の達人と豪語していた気高く勝ち気な山岳猟兵。
だが、その誇りはルディの【ガス・温度検知】によって完璧に看破され、さらに【微弱放電】の強烈な快感パルスを脳髄まで浴びせられたことで、彼女は完全にルディの『従順な猟犬』へと再起動されていた。
「私、ルディ様の電気がないともう夜も眠れない身体にされちゃったからね。……だから、今夜も私を、ルディ様だけの『前方探知機(お気に入り)』にして、たっぷりお仕置き(安全点検)してね……っ」
セシルが上目遣いで甘く熟れたデトックスの香りを漂わせた、その時である。
「コホン。……セシル、あまり若君のお仕事の邪魔をしてはなりませんよ」
凛とした、しかしどこか甘い熱を帯びた声とともに、執務室の奥から一人の絶世の美女が進み出た。
バウムガルト隊の現場警備主任(物理セキュリティ担当)、ヒルデ・フォン・クランツ(二十四歳)である。
美しい金髪を揺らし、過酷な戦場で鍛え上げられたアスリートのような腰つきと、豊満な巨乳を併せ持つ完熟した大人の肉体美。
彼女が現在身に纏っているのは、かつて彼女を苦しめていた重さ三十キロを超える漆黒のフルプレートアーマーではない。ルディから支給された、動きやすい黒の革製警備制服と防刃ハイブリッドダウンベスト、そして二重底の安全靴だ。
「ルディ様。本日の物理セキュリティ、および領内の5S状況、すべて完璧に維持されております。……かつての私が信奉していた『寒さや痛みに耐えることこそ騎士の修行』などという極悪ブラック精神論が、いかに愚かで無駄なものであったか。ルディ様の『安全第一』の教えに触れるたび、私は自らの過去を恥じ、そしてあなた様のホワイトな慈悲に魂が救われる思いですわ」
ヒルデは恭しく一礼し、そのむっちりとした太ももをそっと交差させた。
そのズボンの下、太ももの内側から下腹部にかけては、ルディの【微弱放電】によって深く刻み込まれた薄紅色の雷の刺青――ルディ専用アース端子である『リヒテンベルク図形(放電痕)』が、主人の前に立つだけでズクンと甘く脈打っている。
「ふふん。ヒルデ主任はそうやってお堅い口調で真面目ぶってるけど、夜になってルディ様のベッドに入ったら、誰よりも激しく四つん這いになって『もっと電気をくださいぃっ』って啼いてるくせにねー」
セシルがニシシと笑ってからかうと、ヒルデは顔を真っ赤にして咳払いした。
「なっ……! そ、それは、現場の責任者として、若君から直接『幹部としての調律(特権)』を賜っているからです! 末端の労働者たちには決して許されない、ルディ様と私だけの神聖な業務の一環……っ! ですからルディ様、今夜はどうか、私を最優先でトリートメントしてくださいませね……っ」
「いやいや、私の前方探知のご褒美が先だよ!」
「いいえ、現場警備の疲労回復が先です!」
ルディの足元で、完全に「ルディ依存症」を引き起こした二人の幹部ヒロインが、今夜の『操業(お仕置き)』の優先順位を巡って、バチバチと熱いマウント合戦を繰り広げ始めた。
(やれやれ。うちのセーフティネット(後宮)は、平和になるとすぐにタスク(欲求)が滞留して暴動寸前になるから困る。……だが、ヒロインたちの適度なガス抜き(メンタルヘルスケア)も管理者の重要な義務だからな。ストレスの放置は作業効率の低下を招く重大ハザードだ!)
「二人とも、喧嘩という名の不安全行動はやめろ。……二人まとめて、今ここで少しだけ『事前点検』をしてやる」
「「えっ……っ」」
ルディが両手の指先に、青白い【微弱放電】の火花をバチバチと明滅させると、セシルとヒルデは一瞬で蕩けた表情になり、ルディの足元に四つん這いになって頭を垂れた。
ルディは二人の首筋から背中にかけて、極低周波の快感パルスを優しく、しかし強烈に流し込んだ。
「ひゃうぅぅぅっっっ!!」
「あはぁぁっ……! ルディ様の、電気が……っ、お昼から、身体の奥まで……っ!」
二人の美しい幹部が、執務室の絨毯の上でビクビクと背中を反らせ、心地よいデトックスの汗で内股を濡らしながら、至福の吐息を漏らして崩れ落ちた。
「よし。初期点検、ヨシ。……続きは夜の残業でたっぷりしてやるから、今は業務に戻れ」
「「は、はいぃぃっ……ルディ様ぁっ……っ」」
平和で、淫らで、圧倒的な安全に満ちたロベルト領の日常。
このまま、ルディの完璧な「サボり有給ライフ」は永遠に続くかに思われた。
だが。
「ふにゃ……?」
床で心地よい疲労感に蕩けていたセシルが、不意に犬のような耳をピクッと動かし、西の窓の方角――レームガルト王国のさらに西へと顔を向けた。
「どうした、セシル。またどこかで落石ハザードか?」
ルディがディテクターを起動しようとすると、世界一の「野生の耳」を持つセシルは、今までの甘えた顔を一変させ、プロの斥候(猟犬)としての極めて鋭い眼光を放った。
「……ううん。違うよ、ルディ様。なんだか、西の国境の山岳地帯から……すごく嫌な、金属と火薬が擦れ合うような『不気味な足音(気配)』が微かに聞こえてきた」
「西の国境……?」
ヒルデがハッとして立ち上がる。
「西と言えば、我が国と国境を接する軍事超大国『カストル帝国』の領分……! まさか、あの鉄血の軍事国家が、このロベルト領の異常な経済成長(ホワイト化)に目をつけ、何か不穏な動きを……!?」
ルディの脳内スプレッドシートに、突如として真っ赤な「新規ハザード警報」が点滅し始めた。
(……チッ。平和な有給消化は、そう長くは続かないってことか。だが、どんな巨大なブラック企業(大国)が相手だろうと、俺の構築した絶対安全システムを崩すことなどできんぞ)
「セシル、引き続き西の気配を『最大警戒レベル』でモニタリングしろ。ヒルデ、警備の巡回ルートを再確認だ!」
「「ハッ! 安全第一、ヨシ!!」」
春の陽光が降り注ぐ中、西から忍び寄る「カストル帝国の黒い影」。
ルディの次なる、冷徹でロジカルな安全衛生防衛戦(プロキシ工作防除)の幕が、静かに上がろうとしていた。




