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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第一章:春の嵐と50人の「退却戦」

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第005話:大陸暦1254年・春。無災害キャンペーン(初陣)、開始

 


 大陸暦一二五四年、春。


 凍てつく冬が去り、バウムガルト男爵領に再び青草が萌え出す季節がやってきた。それは、隣国オルテンシアとの国境地帯で毎年繰り広げられる「スプリング・キャンペーン(春の陣)」、すなわち命の安いブラック労働の幕開けを告げる合図でもあった。


 領民たちが恐怖に身を縮める中、男爵邸の門前に、一騎の馬が駆け込んできた。


「ただいま戻った! 父上、ルディ!」


 泥まみれになりながらも、信じられないほど血色の良い顔で馬から飛び降りたのは、昨春に出征していった三兄ウルリヒ(十六歳)だった。


「ウ、ウルリヒ兄上……!?」


 出迎えたルディ(十五歳)は、兄の五体が完全に満足であり、それどころか肌にツヤすらあるのを見て、驚愕のあまり目を見張った。


 それもそのはずだった。今年の前線は例年にない酷寒と、陣地内での劣悪な衛生環境により、辺境伯軍の三割が凍傷や赤痢(重大労災)で戦闘不能に陥っていたのだ。


 だが、ウルリヒは誇らしげに胸を張り、ルディの肩をガシガシと叩いた。


「ルディ、お前がくれた『お守り』は本当に奇跡の聖具だったぞ! 他の隊の小作人どもが腐った水を飲んで下痢で次々にのたうち回って死んでいく中、僕の隊だけは、お前がくれた『酸っぱい黄色い実の塩漬け(レモン塩サプリ)』と『茨の石鹸』、そして生水を沸騰させる鉄則を守ったおかげで、腹を下す者が一人も出なかった! 辺境伯様からも『お前の隊はなぜそんなに元気なのだ』と驚かれたぞ!」


「それは良かった……。本当に、良かったです……」


 ルディは、安堵のあまり膝から崩れ落ちそうになった。


 レモン塩による電解質補給とビタミンCの維持、そして石鹸による手指消毒と煮沸消毒の徹底。ルディが「来年の自分のため」に実験的に持たせた最小限の安全衛生キットが、三兄の部隊を「集団感染クラスター」という致命的な危険源ハザードから完璧に守り抜いたのだ。


「お前が毎日、僕の無事を祈ってノートを書いてくれていたおかげだ。やっぱり、僕の可愛い弟だな!」


 ウルリヒは満面の笑みで、ルディの頭をくしゃくしゃに撫で回す。


(……いや、半分は俺の生存計画のための実地テストだが、無事で帰ってきてくれたなら何よりだ。ハザード対策の効果は完璧に実証された。だが――)


 ウルリヒの無事な帰還は、同時に冷酷な人事異動の発令を意味していた。


 同日午後、領主館の広間に男爵の厳格な声が響いた。


「四男ルディ・フォン・バウムガルト。本日を以てお前を動員指揮官に任命する。兵五十を率い、東部関所領へ出陣せよ」


 ついに、ルディの初陣が決まった。


 * * *


 出陣を翌日に控えた、最後の夜。


 ルディが自室で手製の防刃ベストの留め金を点検していると、扉が静かに開き、一人の少女が滑り込んできた。


 炊事主任のミリー(十七歳)だった。


 彼女は、普段の作業用エプロンではなく、どこか気恥ずかしそうに、薄い絹で織られた白のネグリジェを身に纏っていた。ランプの灯りに透かされた彼女の肢体は、宿屋の過酷な労働から解放されたことで驚くほど健康的に発育し、豊かな胸の膨らみと引き締まった美しい腰のくびれを露わにしている。


 だが、その蜂蜜色の瞳には、今にも泣き出しそうな強い不安と、焦燥が浮かんでいた。


「……ミリー? どうした。明日は早朝の四時半起床(安全管理上の基本)だ。早く睡眠をとらないと、明日の作業効率が著しく低下するぞ」


「ルディ様、お願いです……。私にも、私にも『お仕置き』をしてください……!」


 ミリーはルディの前に跪き、その滑らかな太ももにしがみつくようにして、すがるような目で見上げてきた。


「ミリー……?」


「サシャも、リタも……若君の温かい手でバームを塗られ、あのビリビリするお仕置き(放電マッサージ)を頂いてから、見違えるほど綺麗に、艶っぽくなりました。……私、二人が本当に羨ましくて、夜も眠れなかったんです。私は炊事主任としてみんなをまとめなきゃって、ずっと我慢していました。でも……でも、明日からは戦場に行くのです。もう生きて帰れないかもしれない。だったら、その前に、私もルディ様の極上の癒やしを頂きたい……! 私の、この身体の緊張を、若君の電気で解きほぐしてください……!」


 ミリーは、細い指先で自分のネグリジェの胸元をぎゅっと握りしめ、若々しくも信じられないほど豊満な胸をルディの膝に押し当ててきた。


 その必死な告白と、押し当てられた圧倒的な熱量に、ルディは思わず冷や汗を流した。


(……職務上の責任感と、死への恐怖(戦闘予期不安)による、作業員の深刻なメンタルヘルス危機(過緊張状態)だ! 安全管理者として、この著しい心理的ハザードを放置することは現場崩壊に直結する。今こそ、極限のメンタルケアを施し、自律神経を強制的に整える必要がある。――ヨシ!)


 ルディは、心の中で自分に対する超法規的措置(言い訳)を確定させると、ミリーの豊かな肩を、両手で優しく包み込んだ。


「ミリー。お前を不安にさせて悪かった。……もう、我慢しなくていい」


「あ、うあ……ルディ様……っ!」


 ルディはミリーをベッドにうつ伏せに寝かせると、彼女のネグリジェの背中側をゆっくりとはだけさせた。


 露わになったミリーの健康的な背中は、過度の緊張によってガチガチに強張っていた。


 ルディは薬効バームを手のひらで温め、ミリーの肩甲骨から背骨のラインへと滑らせていく。


 そして、指先から微弱な魔法【微弱放電マイクロディスチャージ】を、彼女の過緊張を強引に解きほぐす、甘いパルスとして流し込んだ。


「はあぁ、んぅっ……!? なに、これ……、背中が、ビリビリして……、頭が、とろけちゃう……!」


 ミリーは背中を反らせ、甘い悲鳴を上げた。


 ルディの手のひらが、バームを塗り広げながら、彼女の腰のくびれ、そして最も疲労が溜まっている太ももの裏側へと滑り降りていく。


「ミリー、お前は毎日、兵たちのために爪を切り、手を荒らしながら飯を作ってくれた。……お前のこの健康で、美しい肉体が、俺の生存計画セーフティネットを裏から支えてくれている。――いつもありがとうな、ミリー」


 ルディの口から、もはや「安全管理」の建前ではない、素直な感謝の言葉が溢れ出た。


 その温かい言葉と、血流を劇的に改善する電流の快感に、ミリーの瞳は完全に蕩け、溜まっていた不安が涙となってシーツにこぼれ落ちた。


「あ、あぁぁん! ルディ様、ルディ様っ! わたし、若君の、おとこの手で……、もっとビリビリさせてぇぇっ!」


 ルディは、彼女の自律神経のツボに指を沈め、今度は脳内麻薬エンドルフィンを限界まで分泌させる、極上のリラクゼーション電流を送り込んだ。


「――あ、あぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 ミリーは白目を剥き、激しく身体を跳ね上げると、人生で一度も経験したことのない、狂おしいまでの心地よい完全脱力システムシャットダウンの泥沼へと溺れていった。


「あぅ……若君の電気が、ないと……もう夜も眠れない身体に……」


 よだれを微かに垂らし、とろとろの笑顔のまま深い熟睡状態へと落ちていくミリー。


 ベッドの傍らでは、様子を見守っていたサシャとリタ、そして最年少のニナが、息を呑んでミリーの極上の癒やされ顔を見つめていた。


 ルディはふと、熱くなった頭の片隅で、ドギマギしながら胸を抱きしめているニナの小さな身体を見つめる。


(……おっと、ニナの頭を撫でるだけにしておこう。前世の基準から見れば彼女はまだ中学生だ。これ以上の「特別メンタルマッサージ」に踏み切ることは、我が職場のガチガチのコンプライアンス規定(未成年保護)に著しく抵触する。彼女がしかるべき年齢規定をクリアし、かつ現場で十分な「経験年数」という業務実績を積んでライセンスを取得するまでは、お預け。これぞ管理者の徹底したリスク管理(焦らし)だ!)


「ニナ、お前も明日からよろしく頼むな」


「は、はいっ……! 私、一生懸命、若君の安全のために頑張りますっ!」


 ルディに優しく頭を撫でられ、ニナの心臓がトクトクと激しく高鳴る。


(次は……私がもっと大きくなったら、絶対に私が若君のお役に立ち、あのビリビリする特別なお仕置きを頂く番だわ……!)


 少女たちの心は、この夜、圧倒的な寵愛への期待フックという絶対的なセーフティギアとして、ルディの支配下に完璧に固定されたのだった。


 * * *


 翌朝。


 男爵領の広場に、動員された五十名の農民兵たちが整列していた。


 彼らの姿を見た三兄ウルリヒは、開いた口が塞がらなくなっていた。


「……な、なんだ、あいつらは……!? 本当に、我が領の小作人なのか……?」


 ウルリヒが驚愕するのも無理はなかった。


 整列した五十人の兵士たちは、中世の不潔な徴募兵とは一線を画していた。


 全員の肌はツヤツヤと健康的で、髪は短く切り揃えられ、爪も綺麗に磨かれている。


 そして彼らの身体には、なめし革の鎧の下に、空気を含んでふっくらと膨らんだ、格子状の「バウムガルト式・防刃ハイブリッドダウンベスト」がぴったりと着用されていた。


 足元には、泥を完璧に噛んで滑らないよう、細かいスタッドを刻んだ、頑丈な衝撃吸収二重革靴。


 さらに、部隊の中央には、すっかり顔色を輝かせたミリー、サシャ、リタ、ニナの四名が乗った、真っ白な天幕で覆われた「給養馬車(移動式給食センター)」が鎮座し、煮沸用の大釜と、大量の乾燥ハーブ、消毒用アルコールが完璧に積載されている。


 ハンス(五十九歳)を筆頭とする五十人の兵たちは、全員が胸を張り、異常なほどの高士気(ホワイトな職場への狂信)を宿した目で、ルディを見つめていた。


 だが、その広場の奥から、冷淡な、そして無理解に満ちた高笑いが響き渡った。


「くっはははは! おいおい、正気かよ! バウムガルトの出来損ないの四男坊が、一体どんな軍勢を率いるかと思えば……!」


 男爵邸の馬車から現れたのは、実父である男爵。そしてその隣で出陣の様子を視察していたのは、近隣領地から集結した辺境伯傘下の高慢な貴族、ロベルト子爵の軍勢であった。


 ロベルト子爵は、泥を吸って重そうに引きずるウール外套をまとい、痩せこけたみすぼらしい小作人兵たちを従えながら、ルディの部隊を不当に指さして嘲笑した。


「兵どもに女の寝具のようなふかふかした羽織ダウンベストなぞを着せ、飯炊き女を四人もゾロゾロと引き連れて……! ルディよ、お前は戦場へ戦いに行くのではなく、ピクニックにでも行くつもりか!? これだから、実戦の何たるかも知らぬ温室育ちの若造は困る!」


 その言葉に、子爵の配下の騎士たちもどっと嘲笑の声を上げる。実父である男爵までもが、苦々しげに顔を歪めて首を振った。


(やれやれ、これだから無学な現場の職人は困る……)


 ルディは、冷ややかな、憐れみすら混じった瞳で彼らを見つめ返した。


(安全靴やヘルメットを「ダサい」「無駄だ」と笑って着用せず、そのまま足場から転落して死ぬような自業自得(労働災害)の典型例だな。重いウール、滑る靴、不衛生な水――まさに三重ハザードのコンプリートガチャだ。中世の不条理な騎士道精神とやらを自慢して、せいぜい来たる極寒で凍傷を患い、不衛生な生水で下痢を垂れ流し、流れ矢でその薄いなめし革のベストごと心臓を射抜かれて死ぬがいい。俺たちはその横を、無傷ノーダメージで全力で逃げ去ってやるさ)


 ルディの脳内スプレッドシートは、すでにロベルト子爵の「死亡フラグ(重大労災発生確率)」を九十九・九パーセントに設定していた。


「全作業員……いや、全軍! 今回のスプリング・キャンペーンにおける我が隊の目標は、敵を殺すことでも、英雄になることでも、辺境伯様に褒められることでもない!」


 ルディは、子爵たちの嘲笑など完全に無視し、五十人の顔を一人一人、射抜くように見つめた。


「我が隊の唯一にして最大の目標は、『五十人全員が、傷一つない無災害(労災ゼロ)で、五体満足のままこの実家に帰ること』だ! 手柄など他人の隊にくれてやれ! 危なくなったら兵を置いてでも全速力で逃げろ! 俺の指揮(安全配慮義務)に従い、全員で傀儡スローライフ(有給満喫)を勝ち取るぞ! ――安全第一、ヨシ!!!」


「「「おおおおおっっ!!! 雷神ルディ様万歳!!! 安全第一、ヨシ!!!!」」」


 地響きのような、狂信的なまでの絶叫が広場に轟いた。


 嘲笑していたロベルト子爵たちは、その余りにも異常で狂気じみた高士気に一瞬たじろぎ、苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んだ。


 彼らは知っている。この若き聖領主・ルディに付いていけば、不潔な泥水で死ぬことも、寒さで指を失うこともなく、必ず生きて家族のもとへ帰れるということを。


 無知な他者からの嘲笑という「最良のフリ(不当な過小評価)」を背に受けながら、中世の常識を覆す「奇跡のホワイト軍団」は、圧倒的な連帯感(安全意識)を滾らせ、ゆっくりと行軍を開始した。


 * * *


 しかし。


 バウムガルト隊が辺境伯の本隊に合流すべく東へ進む中、大陸の地政学的力学は、ルディの「サボりたい」という卑小な保身計画を、嘲笑うかのように加速していた。


 東部国境の関所。


 そこでは、隣国オルテンシア王国の精鋭軽騎兵部隊が、不気味なほど組織的な陣形を敷いて手ぐすねを引いていた。


 そしてその関所の陣営において、宮廷からの「厄介払い」として、ルディの部隊に無理やり配属される予定のトラブルメーカーが、冷たい、しかし異常な空気を纏って待っていた。


 最凶の魔術師、エルザ・フォン・アーレンス。


「はぁ、はぁ……。……暑いわね、この世界は」


 彼女の身に余る強大な、あまりにも規格外の魔力は、彼女自身の肉体に極限の「過負荷(過重労働)」をもたらしていた。


 限界を超えた連続フル稼働により、彼女の魔力循環系は完全に冷却不良を起こしていた。白く滑らかな首筋からは、魔力オーバーヒートによる異常な熱によって、じっとりと熱い汗が滴り落ち、胸元を大きく濡らしている。


「ふ、ふふ……。バウムガルトの四男坊……、私のこの熱を、少しは冷ましてくれるのかしら……」


 彼女は、魔力の奔流による過呼吸に、苦しげに熱い吐息を漏らし、頬を朱に染めながらも、口元にはゾクゾクするような冷たい微笑を浮かべて待っていた。


 その関所に近づくルディの眼球(網膜)において、魔法【ガス・温度検知ディテクター】が、異常な危険信号アラートを感知した。


 ピピピッ! という警告音。ルディの視界サーモグラフィの最奥で、エルザの立つ陣幕の周囲だけが、まるでメルトダウン直前の原子炉のように、ドス黒い赤色で異常に燃え上がっていたのだ。


(……おいおいおい、嘘だろ。あの暴走魔導士、連続フル稼働で完全に冷却不良を起こした超危険な「爆発寸前のボイラー(労働災害)」そのものじゃないか! あんな超高リスクのハザードが我が隊に合流したら、無災害キャンペーンが一瞬で爆破される!)


 ルディは、冷や汗を流しながらも、その胃の痛みに耐え、冷徹に「リスクアセスメント(危険源への根本対策)」を構築した。


(……だが、待て。あの冷却不良を起こした魔力ボイラーを、俺の指先の【微弱放電マイクロディスチャージ】で極限まで冷却アースし、あの火照りきった強大な魔女の自律神経の隅々まで、特製の石鹸とバームを使って完璧に「安全調律マッサージ」して堕とし、俺の傀儡セーフティネットにするハザードマップ(未来ビジョン)が……今、ハッキリと描けたぞ!)


 その暴走魔導士は、関所の陣営で待機していたが、バウムガルト隊が接近したため、辺境伯からの使者が、厄介者であるエルザを道中でバウムガルト隊に前倒しで押し付けてきた。


「貴様が、バウムガルト隊の代表か。喜べ!辺境伯からの援軍だ。うまく使いこなせよ」


 どれほど完璧なダウンベストを配り、5Sを徹底しようとも、迫り来るのは本物の「血と死の現場」、そして強大で火照った魔女との調律(ハザード排除)の前哨戦。


 ルディの「無災害キャンペーン」は、中世の凄惨なリアリズムと、予測不可能な魔力ハザード、そしてお色気勘違いの予感が渦巻く、未だかつてない大波乱の戦場へと、ついにその第一歩を踏み出すのだった。




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