第045話:基準内最大出力の狙撃と、春の熊肉しゃぶしゃぶ慰労会
「グガァァァァァァッッ!! ヌォォォォォッ!!」
春の雪解け水を利用したルディ・フォン・バウムガルトの「液状化トラップ(クイックサンド)」により、底なしの泥の海と化した要塞の周囲。
その中央で、体長十メートルを超える冬の山のヌシ『タイタン・グリズリー』が、完全に腹まで泥に埋まり、自らの数十トンというデッドウェイト(自重)に身動きが取れなくなって悲鳴を上げていた。
「よし、対象の完全スタック(無力化)を確認した。これより、当該ハザードの『安全処理プロセス』へと移行する」
要塞の安全なバルコニーから見下ろしていたルディは、拡声魔導具を手に取り、冷徹な声で指示を飛ばした。
「ハンス! 兵たちを絶対に外へ出すな! 泥にハマったとはいえ、十メートル級の巨大生物だ。不用意に近づいて腕を一振りされれば、広範囲の激突ハザード(重大労災)を引き起こすぞ!」
「ハッ! 厳命に従い、全作業員(全兵士)、絶対退避を継続中! 誰一人として危険区域には近づけませぬ!」
老騎士ハンスが、ダウンベストの襟を正し、興奮に白髭を震わせながらバルコニーの陰で答える。
「エルザ! お前の出番だ!」
「はいっ……! ルディ様……っ!」
防爆土塁の奥、完璧な排熱スリットを備えた『特設火気使用エリア(熱線砲座)』から、超高熱線魔術師エルザ・フォン・アーレンスが、蕩けた瞳で姿を現した。
極薄の白いシュミーズの上から防火マントを羽織った彼女の豊満な胸の谷間には、ルディから支給された蜜蝋コーティングの『火気使用安全基準書』が大事に挟み込まれている。
「今回の対象は、装甲のように分厚い毛皮を持つ超特大の危険源だ。……エルザ、特別に我が隊の安全基準における『最大出力』の行使を許可する」
「さ、最大出力……!? つまり……っ」
「ああ。火気使用安全基準、出力定格30%! 敵の眉間を、一撃で正確に撃ち抜け! 撃ち漏らしによる反撃(二次災害)は許さんぞ!」
「出力30%……ヨシッ……! あぁぁっ、ルディ様のお許し(ライセンス)で、私の炉心が……限界まで熱く……っ!」
エルザは、自らの内に秘められた絶大な魔力を、暴走することなく、ルディの定めた『安全なリミッター』の範囲内で極限まで引き上げた。
彼女の指先に、チリチリと空気を焦がすような青白い光が集束し、周囲の雨粒を一瞬で蒸発させていく。
「――安全基準、ヨシ! 射撃、ヨシ……っ! 【極太熱線】!!」
ドババババババッッ!!!
エルザの指先から放たれたのは、針のようなピンポイントレーザーではなく、直径数十センチにも及ぶ、圧倒的な熱量の奔流だった。
しかし、その強大なエネルギーは一ミリのブレもなく制御され、一直線に泥の中でもがくタイタン・グリズリーの眉間へと吸い込まれた。
「グオォォォ……ッ!?」
回避不能の一撃。
超高熱線は、巨大熊の分厚い頭蓋骨を一瞬でドロドロのマグマのように融解させ、脳髄を貫通した。
巨体がビクンと一度だけ跳ね上がり、そのまま泥の海へと、地響きを立てて崩れ落ちた。
「――対象の活動停止を確認。……よし、完全無災害で討伐完了。手順、ヨシ!」
「「「おおおおおっっ!!! ルディ様万歳! エルザ様万歳!! 安全第一、ヨシ!!!」」」
要塞の中から、バウムガルト隊の兵士たちの割れんばかりの歓声が響き渡る。
本来なら数百人の犠牲(労災)を覚悟しなければならない怪獣との死闘を、彼らは安全な要塞の中から一歩も出ず、指一本触れずに、完全な「安全衛生工学」と「基準内射撃」だけで完封したのだ。
「ル、ルディ様……っ! 私、撃ちましたわ……っ。あなた様の定めた30%という絶対の安全圏の中で、これほどまでに美しく、巨大な魔術を……っ! ああ……早く、早く私の熱(残魔力)を、あなた様の電気でアースして(冷やして)くださいまし……っ!」
砲座から這い出てきたエルザが、完全に自律神経の漏電(欲情)を起こした忠犬のような瞳でルディの足元にしがみつき、心地よいデトックスの汗でじっとりと濡れそぼった太ももをこすり合わせた。
「よくやった、エルザ。ボイラーの冷却は後でたっぷりしてやる。……ハンス! 泥が再凍結する前に、クレーン(三脚起重機)を展開して巨大熊を引き上げろ! 解体して5S(整理整頓)だ。毛皮も肉も、無駄にするなよ!」
「ハッ! 直ちに解体作業に入ります!!」
◇ ◇ ◇
数時間後。
ルディの「絶対的ゾーニング」によって男たちの視線から完全に隔離された『エリアB:女子寮および執務エリア』の、ルディの個人寝室。
本来、生皮を腐らせずにフカフカの敷物にする『なめし工程』には、通常数ヶ月の期間を要する。
だが、前世が化学メーカーの安全衛生管理者であるルディは、木灰から抽出したアルカリ溶液に毛皮を浸し、自身の魔法【微弱放電】による『イオン導入』でなめし成分を強制浸透させ、仕上げにエルザの定格熱魔法で『急速乾燥』させるという、前代未聞の『超急速・魔導ケミカルなめしプロセス』を執行していた。
結果として、わずか数時間で洗浄・防臭・防腐処理を完璧に施された、タイタン・グリズリーの見事な黄金色の毛皮が敷き詰められていた。
「わぁぁっ……! すっごくフカフカですわ、ルディ様!」
「ええ……! こんなに大きなラグマットなら、私たち全員でゴロゴロしても、全くはみ出しませんね……」
テレーゼ、エルザ、ヒルデ、セシル、そしてニナやクレアたちが、極薄のシュミーズ姿のまま、巨大なモフモフラグマットの上に寝転がり、頬をすり寄せて蕩けた声を上げていた。
(よし。十メートル級の毛皮を敷き詰めたことで、俺のベッドスペース(ハーレム空間)が実質的に要塞の床一面にまで拡張された。これで、夜間操業の際、ヒロインたちが手狭になって衝突する『接触ハザード』は完全に解消されたな)
ルディが自らの環境カイゼンに満足していると、そこへ、エプロン姿の給炊主任ミリーが、ワゴンを押して満面の笑みで入ってきた。
「皆様、お待たせいたしました! 本日の慰労会のメインディッシュ、ミリー特製『春の超豪華・タイタン熊肉とボアの二色しゃぶしゃぶ』でございます!」
「「「わぁぁぁぁぁっ!!!」」」
テーブルの上にセットされた魔導コンロの大鍋では、昆布とハーブで出汁を取った黄金色のスープがグツグツと沸き立っている。
その横には、冬の間に『生体冷蔵庫』として育て上げたフロスト・ボアの極上豚肉と、先ほど解体したばかりのタイタン・グリズリーの、サシが見事に入った真っ赤な熊肉が、山のように美しく盛り付けられていた。
「熊肉は特有の臭みがありますが、ルディ様から教わった『沸騰消毒』と、ネギや生姜を大量に使った『徹底的な臭み抜き(下処理5S)』により、極上の旨味だけを閉じ込めております! さあ、どうぞ!」
ルディが箸で薄切りの熊肉を摘み、沸き立つスープにサッとくぐらせ、特製のポン酢ダレにつけて口へ運ぶ。
「――美味い。脂が信じられないほど甘く、それでいて全くしつこくない。噛むほどに野性味あふれる赤身の旨味が溢れ出してくる……。最高だ、ミリー」
「あぁんっ、ルディ様に褒められましたぁっ!」
「私にも、私にもルディ様があーんしてくださいまし!」
「狡いですわ、テレーゼ様! 私も、極上のお仕置き(アース)の前に美味しいお肉でスタミナをつけなければ……っ!」
ヒロインたちが、我先にとルディの腕に豊かな双丘を押し付け合い、モフモフのラグマットの上で極上の安全点検(放電マッサージ)の順番を巡る、熱く淫らなマウント合戦を繰り広げる。
一方、防犯壁の向こう側――『エリアA:一般兵士用居住区』でも、同じく熊肉のしゃぶしゃぶが兵士たちに振る舞われ、凄まじい熱狂の渦が巻き起こっていた。
「うめええええええっっ!! なんだこの肉! 口の中でとろけるぞ!」
「冬の雪山で、こんなに腹いっぱい新鮮な肉が食えるなんて……っ! 俺たち、辺境伯軍にいた頃は、カビの生えた干し肉をかじって凍えていたっていうのに……っ!」
「ルディ様は神だ! 命を守ってくれるどころか、こんな天国(飯テロ)まで味わわせてくださるなんて! 俺たち、一生バウムガルト隊に骨を埋めます!!」
「「「ルディ様万歳!! 安全第一、ヨシ!! しゃぶしゃぶ最高、ヨシ!!!」」」
壁越しに響いてくる、数百人の屈強な男たちの大号泣と狂信の合唱。
「……ふぅ。これで現場の士気も最高潮だな。空腹と不満は労働災害の元凶だからな。……さて、お前たち」
ルディは、ポン酢ダレを拭いながら、巨大なモフモフラグマットの上で自律神経を漏電させている美女たちを見下ろした。
「極寒のブラック現場を、完全無災害で春まで乗り切った。……大儀だった。これより、お前たちのその有り余ったスタミナと炉心の熱を、俺の電気で朝まで徹底的に『慰労』してやる。全員、安全帯を外して、俺の前に並べ!」
「「「きゃあああああああっっっ!!! はぁぁぁぁいっっっ、ルディ様ぁぁぁっ!!!」」」
テレーゼ、エルザ、ヒルデ、セシル、そしてついに年齢制限をクリアしたニナも交えた、かつてない規模の『超絶マルチタスク夜間操業(全員合同・特別安全衛生指導)』が、巨大熊の毛皮の上で、甘く、熱く、そしてバチバチと青白い放電の火花を散らして開始された。
(よし! 飯も美味いし、労働環境も最強。俺の有給ライフの究極形、ここに完成、ヨシ!!)
ルディは、ヒロインたちの狂おしい完全脱力の甘い悲鳴に包まれながら、自らの圧倒的な安全管理の勝利に、心からのガッツポーズをキメるのであった。




