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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第五章:死の森・最前線都市編(極寒のブラック現場とホワイト温泉リゾート)

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第042話:冬の日常業務(5S)と、魔物群のセルフ労災トラップ

 


 大陸暦一二五四年、真冬。


 オルテンシア国境の大森林に位置する最前線要塞は、完全に外界から隔絶されるほどの猛吹雪に見舞われていた。


 視界を白一色に染め上げる暴風雪は、容赦なく要塞の石壁を叩き、数メートルもの雪の壁を作り出している。


 だが、ルディ・フォン・バウムガルトの構築した「全要塞オンドルセントラルヒーティング」によって、要塞の内部――とりわけ絶対的ゾーニングによって隔離された「エリアB:女子寮および執務エリア」は、外の地獄が嘘のような常春のパラダイスと化していた。


「ふぁぁ……。外はあんなに吹雪いているのに、オンドルの床はポカポカで、本当に天国ですわね」


「ええ、これなら薄着でも全く問題ありませんわ」


 執務室の床に敷かれた毛皮のラグマットの上で、総務・財務主任のテレーゼや、超高熱線魔術師のエルザ、現場警備主任のヒルデたちが、極薄の白いシュミーズ一枚という無防備な姿でくつろいでいた。


 換気ダクトに設置された特製木炭フィルターが空気を清浄に保ち、常春の二十五度に保たれた密室空間は、二十名以上の美女たちが放つ甘いハーブの香りと、ほんのりとした心地よい汗の匂いで満たされている。


 しかし、プロの安全衛生管理者であるルディの視線は、美女たちの無防備で健康的な肢体ではなく、分厚いガラス窓の向こう――猛吹雪によって白く覆われていく「要塞の屋根」へと向けられていた。


(……いかん。この降雪ペースは異常だ。屋根の上に積もった雪の重量デッドウェイトを計算しろ。このまま放置すれば、屋根の梁が耐えきれずに崩落する「倒壊・墜落ハザード(重大労災)」を引き起こすぞ!)


 ルディは即座に拡声魔導具を手に取り、分厚い防犯壁の向こう側――適温二十度に保たれた「エリアA:一般兵士用居住区」で待機している男兵士たちへ向けて、けたたましい号令をかけた。


「全作業員(全軍)に通達! これより、要塞の『日常5S活動(清掃)』を開始する! 屋根に積もった雪を下ろし、城壁の周囲の堀へ投棄しろ!」


 鋼鉄の扉の向こうから、老騎士ハンス率いる数百人の男兵士たちが「ハッ!」と一斉に直立不動の姿勢をとった。


「雪の重量を放置すれば、屋根が崩落する! これはエデンの女神(乙女)たちを守るための、神聖な防衛任務だと思え!」


「おおおっ! 我らが女神たちの聖域を守るための雪下ろし! エデン防衛、ヨシ!!」


「「「安全第一、ヨシ!! 除雪作業、ヨシ!!!」」」


 すっかりルディ教の狂信徒となった男兵士たちは、極寒の屋外へ飛び出し、猛吹雪の中でも凄まじい熱量で屋根の雪を下ろし始めた。


 ルディは、ただ雪を捨てさせるだけでは終わらない。


「捨てた雪は、堀の中に均等にならして踏み固めろ。その上から俺が仕上げをする」


 兵士たちが堀に雪を敷き詰めた後、ルディは屋上から堀に向けて魔法【微弱放電】を薄く広範囲に走らせた。雪の表面がわずかに溶け、外気のマイナス十五度の冷気によって一瞬で再凍結する。


 結果として、堀の上には「雪が積もった平らな地面」に見せかけた、極めて薄く脆い「氷の蓋(人工クレバス)」が完成した。


 さらにルディは、要塞の地下から伸びる排熱パイプの出口を、要塞を取り囲む急斜面に向けて微調整した。


 要塞の地下では現在、ニナを深夜監視員とする「エコ物理ボイラー」が稼働している。炭焼き寒村から大量買収し、見事なサプライチェーンによって納品された極上の『木炭』を燃料にすることで、魔力に頼らずとも24時間無尽蔵の熱を供給できる究極のエネルギーインフラだ。


「このボイラーの温かい排熱を斜面の雪に吹き付ければ、雪の内部に溶けた層が再凍結して『弱層(滑り面)』が形成される。その上に新雪が積もれば、ほんのわずかな衝撃トリガーで崩落する『表層雪崩の爆弾』の完成だ」


 テレーゼが丸眼鏡を光らせて感嘆の声を上げる。


「ただの除雪(ゴミ捨て)と、木炭ボイラーの排熱処理を、要塞防衛の軍事トラップに再利用されるのですね! なんというSDGs(持続可能な防衛)の内政手腕……!」


「日常の5S活動こそが、最大の防衛線になるんだよ。……よし、本日の現場整理、ヨシ!」


 ◇ ◇ ◇


 そして、真冬の深夜。


「――ルディ様! 前方危険探知に異常反応! 吹雪の向こうから、巨大な熱源の群れが接近してきます!」


 専属斥候のセシルが、緊張した声で報告を上げた。


 猛吹雪が吹き荒れる闇夜。飢えと寒さに狂った雪山のヌシたち――体長三メートルを超える「フロスト・ボア(雪猪)」の群れと、凶暴な「ブリザード・エイプ(雪猿)」の大群が、温かい要塞の匂いと食料を求めて、地響きを立てながら強襲してきたのだ。


「ブゴォォォォォッ!!」


「ウキィィィィィッ!!」


 数百頭の魔物の群れが、要塞の城壁を目指して猛然と突進してくる。


 その頃、要塞の外で一人、「寒さに耐えるのも騎士の修行だ」と意地を張って雪中野営を強行していた旧守備隊長は、迫りくる魔物の大群を前に完全に腰を抜かしていた。


「ひ、ひぃぃぃっ!! ば、化け物……! 助けてくれぇっ!」


 彼は熊の毛皮のコートを汚して失禁し、ガタガタと震えながら雪の中を這いずり回ることしかできない。


 だが、魔物たちは彼のような「冷え切って凍りついたゴミ」には目もくれず、圧倒的な熱(生命の匂い)を放つ要塞の城壁へと真っ直ぐに突っ込んでいった。


 魔物の第一陣である、数トンもの体重を持つ巨大なフロスト・ボアの群れが、要塞の堀(平らな雪原に見える場所)に力強く足を踏み入れた瞬間――。


 パリンッ!!!


「ブギュッ!?」


 ルディが日常の雪かきで仕込んでおいた「人工クレバス(氷の蓋)」が、ボアたちの数トンの自重デッドウェイトに耐えきれず、広範囲にわたって一瞬で砕け散った。


「ブゴォォォォッ!?」


 突進の慣性のまま、数十頭の巨大な雪猪たちが次々と数メートル下の堀の底へと墜落していく。さらに後続のボアたちも止まれずに折り重なるように落下し、自らの巨体と仲間の重みで次々と圧死(セルフ墜落・挟まれ労災)していった。


「よし、第一防衛ライン(落とし穴)稼働確認! 続いて第二防衛ライン、起動だ! ハンス!」


 要塞の安全な屋内から監視していたルディが合図を送る。


「ハッ! 全作業員、指差し呼称!!」


 老騎士ハンスが、自身の肺活量のすべてを込めた、大気を震わせるほどの爆音(音響ハザード)の号令を夜空に放った。


「「「安全第一、ヨシ!!!」」」


 数百人の兵士たちの野太い絶叫と、ハンスの大音響が、猛吹雪の山肌に激しく木霊する。


 その凄まじい音波(振動)が、ルディが斜面に木炭ボイラーの排熱で仕込んでおいた「雪の弱層」を刺激する、完璧なトリガーとなった。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!


 斜面に積もっていた数万トンの新雪が、音を立てて滑り落ち始めた。


 要塞の城壁を登ろうと斜面に群がっていた第二陣のブリザード・エイプたちは、突如として頭上から襲いかかってきた巨大な「白い津波(表層雪崩)」に完全に飲み込まれた。


「ウキィィィ!? ギャアアアアッ!」


 雪崩の圧倒的な物理エネルギーの前に、凶暴な魔物たちは抗う術もなく、雪の底深くへと引きずり込まれ、一瞬にして圧殺・窒息(土砂崩落災害)していった。


「ふぅ。温かいココアが美味いな」


 要塞の安全で暖かい執務室。分厚いガラス窓の向こうで繰り広げられる「地獄の光景」を眺めながら、ルディはミリー特製のココアを優雅にすすっていた。


「正面衝突は、重機(兵士)の全損(重大労災)を招く最も愚かな不安全行動だ。日常の5S活動(除雪と木炭の排熱)をロジカルに組み合わせれば、指一本触れずに敵を全滅(セルフ労災)させることができる。……これが、土木ピタゴラスイッチ(安全衛生管理)の力だ」


「ああ……っ、若君……っ!」


 テレーゼやエルザたちが、ルディの圧倒的な「不戦無災害の知略」に、自律神経を漏電させ、心地よいデトックスの汗を太ももに滲ませて熱い吐息を漏らす。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。


 猛吹雪が去った要塞の周囲には、落とし穴と雪崩によって勝手に自滅した魔物たちの死骸の山が、綺麗に「整理整頓」された状態で転がっていた。


 そして、雪崩の端っこで辛うじて生き埋めを免れたものの、全身をカチカチに凍らせて雪だるまのようになっていた旧守備隊長が、完全に心をへし折られて白目を剥いていた。


「ひ、ひぃ……っ、魔物が、雪が……勝手に……っ」


 自らの「修行(ブラック精神論)」が何一つ通用せず、ルディの「ホワイトな日常業務(雪かき)」だけで魔物の大群が完封された現実を前に、彼の時代遅れの価値観は完全に息の根を止められたのだった。


「よし。ハザードの排除は完了した。……ハンス、雪崩から生き残って気絶しているボアとエイプを生け捕りにしろ。これより、こいつらを我が陣営の『無料の生体重機エコ・インフラ』として再利用(SDGsリサイクル)するプロセスに移行するぞ!」


「ハッ! エコ重機の回収、ヨシ!!」


 極寒のブラック要塞は、ルディの圧倒的な安全衛生ロジックによって、一切の怪我人を出すことなく、魔物という名の新たな「タダ働きリソース」を獲得し、さらなるホワイト温泉リゾートへの進化を遂げようとしていた。




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